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10.ヤンデレ攻略対象者ルイス

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 そんな中を、まっすぐここまで歩いて来た、ハイライトの消えた瞳のルイスが、ヒロイン性女アンジュの肩に手を掛けた。

 完全に瞳から光が消えとる。おぉ、ちょっと本来とは違ってるみたいだけど。

 これ、ヤンデレ監禁ルート開いたよね?



 ルイスは幼い頃に父を亡くした。美貌の母は裕福な商人と再婚してすぐに義理父との間に妹をもうけ、その娘ばかりを可愛がるようになる。



「る、るい、す?」

「アンジュは結局、僕以外の、ほかの誰でも良かったんだ? 僕だけじゃない。いっぱいいたんだね?」



 家族の誰からも必要とされないまま生きてきたルイスは、それでも誰かの役に立ちたくて仕方がなかった。

 長じるにつれてその傾向は強まり、好きな女の子から受けた恋の相談にも笑顔で乗るような、かなり自虐的な性格になった。



「いや、……ちがうの。ちが、わたし……ちがう」

「そっか。ちがうんだ。なら、僕だけ? そういうことでいいのかな?」



 だから本来なら、ヒロインの手を取ろうとはしない。

 彼女の、ルイス以外のすべての攻略対象者からの好感度が著しく下がったりしない限り。

 そして今。かなりイレギュラーな状態ではあるけれど、確かにMAXだった筈のヒロインへの好感度は、病気への心配と共に著しく減った。そのことは間違いない。



「ちが……いや……」

「んん? 聞こえないな。そうだ、もっと静かな場所にいこうか。そこなら、ゆっくり、アンジュの声も聞こえるし。アンジュには僕しか必要ないもんね?」



 涙目で、懸命に首を振るアンジュの手をしっかりと掴んだルイスが、そのまま彼女を抱き上げた。

 細いのに、力すごいな。


 せめてもの抵抗なのか、懸命に背中をポカポカ殴っているけど、全然気にしない様子で足を進めるルイスの前に、王太子殿下が立ち塞がった。躊躇いがちに、声を掛ける。

「おい。かのじょ、を何所へ……」

 うわっ、恰好悪っ。迷いも露わに歯切れの悪い声になったのは、唯一だと信じた相手が糞ビッチだと知ったからだろうか。

 あぁ、違うな。でもちょっと前かがみだから、不埒な想像をしちゃったのか。

 この人も、思ったより業が深いな。


「あれぇ? 王太子殿下ともあろう御方が、僕の子種を胎に入れたことのある女性の手を取るんですか? 自分以外の種の子供が生まれるかもしれませんけど。いいんです?」

 その言葉に、王太子殿下の心が砕けた。

 一歩だけど、後ろに足が下がる。


 この勝負はルイスの勝ちだ。

 というか。ゲームでのルイスはこの時点では唯一のプラトニックな攻略対象者の筈なんだけど。

 さすがですね、私の夢の中のヒロインは。

 一味ちがうどころの騒ぎじゃねぇ。


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