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神殿の使者
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早朝、スーレの村。
エナとその両親、そして俺の四人で、神殿の使者を待つ。
もう、かれこれ一時間は待っている。
早朝というアバウトな時間設定に、少しイラついてきた。
何故、時計が無いんだ!
…………いかんいかん。
エナの顔が長時間見れるんだから幸せじゃあないか。
たまに目が合い、エナが照れて俯く、を繰り返して時間を潰す。
あー、楽しい。
…………
ふぅ…………
…………暇だ。
…………
よし、時計でも作ろう!
…………
————————
神殿とやらは、北の王国ボルストンの王都にあり、その王都の場所は、サルサーレ領から更に二つ領地を挟んだ先だというから、かなりの遠方になる。
それだけで、この北の王国の大きさが分かるというものだ。
そんなところから、神官がどうやってくるのか気になっていたが、なるほどそういう事か。
遣いの神官二人は、【転移装置】を使って、この辺境の村スーレに突如眩い光と共に現れた。
村長夫妻は面食らっているが、俺には大仰な演出に見えて白けてくる。
転移装置は、箱型で鋼鉄製だ。
大きさは八人くらいは乗れそうな感じだが、実際は見当も付かない。
重量オーバーがあるのかも。
エレベーターに似ているな。
煌びやかな白金枠で装飾してあるのは、聖職の神聖なイメージを出したいからかと、ついつい邪推してしまう。
「巫女になりし、エナなる乙女はこちらへ」
顔まで隠れるフードの付いた白い法衣を着ている神官が、エナを呼ぶ。
エナは緊張した面持ちで、一歩一歩、二人の神官の元へ近づいていく。
二本の錫杖がエナの頭上に掲げられ、男の神官が何かを唱え出した。
「神の御使、大天使の御前、畏み畏み巫女の祈祷を捧げ祀る。
願わくば神の奇跡を賜らん」
意味不明理解不能だが、大丈夫か?
訝しんで見ていると、錫杖から白光が注ぎエナを包み込む。
どうせトリックだろ?
「あ、ああ、ありがとうございます」
暖かい光に包まれたエナから神聖な力が迸る。
マ、マジか?
ホンマもんの神官だったのか?
「貴女は御使に選ばれ、これにて巫女となりました。
これより王都の大神殿へ転移となります。
皆に別れの挨拶を済ませてきなさい」
慈愛に満ちた若い女な声だ。
こちらは女性神官だったのか。
そういえば、丸みを帯びた法衣が途端にエロく見えてきた。
エナがこちらに戻ってくる。
両親と抱き合い、泣きながら別れを惜しむ。
あれ?なんか俺、場違いじゃね?
ソワソワしていると、エナが俺の前に立ち、両手と顔を胸にすり寄せる。
「テツオ様、お慕い申し上げます」
エナの肩が僅かに震えている?
どうやら、すすり泣きしている様だ。
別れが辛いらしい。
【転移】でいつでも会えるんだが、エナには分からないだろう。
エナの頬に手を当てると、涙が止まらなくなってしまった。
暖かい涙がつうつうと俺の手を濡らす。
愛おしくなってくるな。
そのまま手をスライドさせ、神官に見えない様に、小さなピアス型の赤い魔石をそっと耳たぶに埋め込む。
術者である俺にしか外せない仕組みになっている。
「何かあれば俺の名前を呼ぶんだ。
俺はずっと側にいる。
いつでも迎えに行くからな」
エナの耳元で囁き、頭を撫でる。
「テツオ様……」
ギュッと抱きしめた後、両手で細い肩を掴み、顔を覗き込む。
「泣かなくていいんだ。
俺はエナの笑顔を見ていたひ」
「はい」
良いところで噛んでしまったが、それでエナに笑顔が戻り、俺も安堵する。
親指でそっと涙を拭ってやると、エナの目にみるみる力が戻った。
そうだ、エナのおっとりした優しい目の奥には強さがある。
初めて会った時、その目に惚れたんだった。
神官と一緒に転移装置に乗ると、健気にエナが笑顔を湛えたまま、箱が一瞬で消える。
「き、消えた!
テツオ様、エナは、エナは大丈夫なんでしょうか?」
一瞬で人が消えるという非現実的な光景を目の当たりにすると、文化レベルの低い村人風情では、困惑して当たり前か。
だが、エナに埋め込んだ魔石ピアスが、俺に現在地を教えている。
あの転移装置は、しっかりと王都とやらに移動済みだ。
少しばかりだが、両親を安心させてやろう。
「俺は魔法使いだ。
エナが無事、王都に着いた事を魔力で感じている。
安心しろ」
「ああ、そうでしたか!
テツオ様、本当にありがとうございました!」
両親がぺこぺこ頭を下げてくるのでなんか困るなぁ。
愛想笑いをして、手を挙げて応えておく。
社交的な態度や付き合いとかは苦手なんで、早々にこの場を去ろう。
「じゃ、これで」
【転移】
装置だとか一切関係なくテツオが一瞬で消えたので、残された村長夫妻は空いた口がしばらく塞がらなかった。
——————
——サルサーレの街・宿屋
朝、ようやく自分の部屋に戻ってくる。
ベッドを使いもしないのに、宿など借りる必要なんて無かったなぁ。
いや、隣の部屋にリリィが居るなら、アリバイ作りとしてダミーで借りておく必要はあったか。
いやいや、俺は一体何を気にしているんだろう。
腕に嵌めた(先程作製した)魔石時計を眺める。
小さい青水晶の内部に、魔力で表示されている長針、短針が時を刻んでいる。
その針が、午前六時になった事を示すと、少し遅れて、街の教会から鐘が鳴った。
ああ!時間が分かるこの喜び。
晴れやかさすら感じる!
もちろん、教会の時の正確さは甚だ疑問ではあるが、一つの目安にはなっている。
朝飯までまだ時間はあるし、隣室を【探知】する限り、リリィはまだ就寝中のご様子。
今のうちにちょっと野暮用を済ませてこよう。
リリィの部屋の扉をドンドンと叩き、朝飯まで戻る、と一方的に伝えておく。
この気遣いが仲間って事なんだよね。
——————
サルサーレの街・ギルド依頼取引所
「えー!?
これ全部ですかー?」
ギルドの受付嬢ラーチェの大きく青い目が、更にパチクリと見開いている。
口もあんぐりと、だらしなく開きっぱなしだ。
ここは川沿いに設置された、依頼品を検品、受領などをする為の、ギルド管轄の取引所だ。
巨大な倉庫が何棟も建ち並び、冒険者や街の兵士達が、厳重に警備している。
依頼品は、船を利用して移送したりも出来るようで、町には人工河川が流れている。
今、その川岸には、多種多様な鉱石類で埋め尽くされ、パンク状態になっていた。
「一晩ですよ?
たった一晩で、これだけの量の鉱石を集めたんですか?」
「ええ、頑張りました」
「頑張りましたって…………そんな次元じゃない様な……」
金等級になる為には、合計百万ゴールド分の依頼達成が必要だった。
昨日、ギルドで掲示板を眺めていた時に、鉱石類の採集依頼を見かけたので、リリィにそれ系の依頼書だけを集めさせておいたのだ。
下は鉄鉱石から、銀鉱石、白銀鉱石ときて、上はミスリル鉱石まであり、【土魔法】で具現化させるだけの簡単なお仕事。
「この量ですと、【強化】した銀等級の戦士職か、B級以上の鍛冶師じゃないと運べませんねー」
ラーチェは運搬をどうしようか困っているようだ。
「ああ、倉庫に入れるんでしたら移動させますよ」
「へ?」
倉庫にはちゃんと木札が設置されていて、各依頼品の保管場所は決まっているらしい。
別に必要ないが、演出上、手を翳しながら巨大な鉱石を宙に浮かべ、決まったスペースへ次々と移動させる。
「ええーーっ!?」
またラーチェは両手を広げて驚く。
大袈裟だが、そんな仕草も可愛く見えるなぁ。
ものの数分で倉庫に搬入終了。
「お、お疲れ様でした。
確かに依頼達成です」
「あ、待ってください。
あとコイツも」
驚愕の更に上にいってみっか?
わざわざ用意した大きめの麻袋のリュックから、金等級に昇格する為の、指定害獣アイアンホーンの角を取り出し、ポンとラーチェの手の上に乗せる。
ラーチェは目の前に起こっている展開に、もはや理解が追いつかずフリーズしてしまった。
「ラーチェさん?ラーチェさん?」
声をかけても反応が無いので、肩を強めにブンブンと揺さぶる。
「はっ!……っと、失礼しました。
私、もう驚きすぎて麻痺しちゃいましたよー。あは、あはは……」
「なんか、すいません」
「では、しっかりと確認させていただきますね」
ラーチェはコホンと一つ咳払いをすると、アイアンホーンの角をしっかり検分する。
俺の【解析】レベル程では無いが、ある程度の鑑定眼を備えているようだ。
そして、俺の目を真っ直ぐに見つめる。
「一人で倒したんですか?」
「もちろんです」
ズルはしてない。
「えっーと、そうじゃなくてですね。
アイアンホーンは、この辺りでは一番の強敵なので、銀等級でしたら通常、複数人のパーティで長時間戦ってやっと倒せるかどうかなんですよ。
それを一人で討伐だなんて、非常識です!
命を大事にしてください!」
ああ、そっちの心配か。
でも、ラーチェの目は真剣だ。
「以後、気を付けます」
「冒険者さんの命を守るのも、ギルド職員のお仕事なので、今度からは私に相談してから依頼受けてくださいね!
約束ですよ!」
人差し指を立ててウィンクをする。
朝から可愛いものが見れた。
「はい」
もう、素直に返事するしかない。
貴方の犬になりたい。
「ですが、偉業なのは間違いありません。
金等級への昇給手続きは、私がしっかりしておきますね。
すぐに審査が通ると思います。
あと報酬合計135万7000ゴールドは、明日以降いつでも受け取り可能です。
ではでは、お勤めご苦労様でしたぁ」
ラーチェは、頭の上に片手をピッと挙げて敬礼し、踵を返すと、スタスタとギルド本部へ向かって歩いて行った。
あくまでも事務的な態度だ。
いつか、特別視されたい。
そう思いながら、去っていくラーチェのプリプリ揺れるお尻を眺める。
いい尻だ。
ぐぅ、とお腹が鳴ったので、宿に戻ろうかな。
エナとその両親、そして俺の四人で、神殿の使者を待つ。
もう、かれこれ一時間は待っている。
早朝というアバウトな時間設定に、少しイラついてきた。
何故、時計が無いんだ!
…………いかんいかん。
エナの顔が長時間見れるんだから幸せじゃあないか。
たまに目が合い、エナが照れて俯く、を繰り返して時間を潰す。
あー、楽しい。
…………
ふぅ…………
…………暇だ。
…………
よし、時計でも作ろう!
…………
————————
神殿とやらは、北の王国ボルストンの王都にあり、その王都の場所は、サルサーレ領から更に二つ領地を挟んだ先だというから、かなりの遠方になる。
それだけで、この北の王国の大きさが分かるというものだ。
そんなところから、神官がどうやってくるのか気になっていたが、なるほどそういう事か。
遣いの神官二人は、【転移装置】を使って、この辺境の村スーレに突如眩い光と共に現れた。
村長夫妻は面食らっているが、俺には大仰な演出に見えて白けてくる。
転移装置は、箱型で鋼鉄製だ。
大きさは八人くらいは乗れそうな感じだが、実際は見当も付かない。
重量オーバーがあるのかも。
エレベーターに似ているな。
煌びやかな白金枠で装飾してあるのは、聖職の神聖なイメージを出したいからかと、ついつい邪推してしまう。
「巫女になりし、エナなる乙女はこちらへ」
顔まで隠れるフードの付いた白い法衣を着ている神官が、エナを呼ぶ。
エナは緊張した面持ちで、一歩一歩、二人の神官の元へ近づいていく。
二本の錫杖がエナの頭上に掲げられ、男の神官が何かを唱え出した。
「神の御使、大天使の御前、畏み畏み巫女の祈祷を捧げ祀る。
願わくば神の奇跡を賜らん」
意味不明理解不能だが、大丈夫か?
訝しんで見ていると、錫杖から白光が注ぎエナを包み込む。
どうせトリックだろ?
「あ、ああ、ありがとうございます」
暖かい光に包まれたエナから神聖な力が迸る。
マ、マジか?
ホンマもんの神官だったのか?
「貴女は御使に選ばれ、これにて巫女となりました。
これより王都の大神殿へ転移となります。
皆に別れの挨拶を済ませてきなさい」
慈愛に満ちた若い女な声だ。
こちらは女性神官だったのか。
そういえば、丸みを帯びた法衣が途端にエロく見えてきた。
エナがこちらに戻ってくる。
両親と抱き合い、泣きながら別れを惜しむ。
あれ?なんか俺、場違いじゃね?
ソワソワしていると、エナが俺の前に立ち、両手と顔を胸にすり寄せる。
「テツオ様、お慕い申し上げます」
エナの肩が僅かに震えている?
どうやら、すすり泣きしている様だ。
別れが辛いらしい。
【転移】でいつでも会えるんだが、エナには分からないだろう。
エナの頬に手を当てると、涙が止まらなくなってしまった。
暖かい涙がつうつうと俺の手を濡らす。
愛おしくなってくるな。
そのまま手をスライドさせ、神官に見えない様に、小さなピアス型の赤い魔石をそっと耳たぶに埋め込む。
術者である俺にしか外せない仕組みになっている。
「何かあれば俺の名前を呼ぶんだ。
俺はずっと側にいる。
いつでも迎えに行くからな」
エナの耳元で囁き、頭を撫でる。
「テツオ様……」
ギュッと抱きしめた後、両手で細い肩を掴み、顔を覗き込む。
「泣かなくていいんだ。
俺はエナの笑顔を見ていたひ」
「はい」
良いところで噛んでしまったが、それでエナに笑顔が戻り、俺も安堵する。
親指でそっと涙を拭ってやると、エナの目にみるみる力が戻った。
そうだ、エナのおっとりした優しい目の奥には強さがある。
初めて会った時、その目に惚れたんだった。
神官と一緒に転移装置に乗ると、健気にエナが笑顔を湛えたまま、箱が一瞬で消える。
「き、消えた!
テツオ様、エナは、エナは大丈夫なんでしょうか?」
一瞬で人が消えるという非現実的な光景を目の当たりにすると、文化レベルの低い村人風情では、困惑して当たり前か。
だが、エナに埋め込んだ魔石ピアスが、俺に現在地を教えている。
あの転移装置は、しっかりと王都とやらに移動済みだ。
少しばかりだが、両親を安心させてやろう。
「俺は魔法使いだ。
エナが無事、王都に着いた事を魔力で感じている。
安心しろ」
「ああ、そうでしたか!
テツオ様、本当にありがとうございました!」
両親がぺこぺこ頭を下げてくるのでなんか困るなぁ。
愛想笑いをして、手を挙げて応えておく。
社交的な態度や付き合いとかは苦手なんで、早々にこの場を去ろう。
「じゃ、これで」
【転移】
装置だとか一切関係なくテツオが一瞬で消えたので、残された村長夫妻は空いた口がしばらく塞がらなかった。
——————
——サルサーレの街・宿屋
朝、ようやく自分の部屋に戻ってくる。
ベッドを使いもしないのに、宿など借りる必要なんて無かったなぁ。
いや、隣の部屋にリリィが居るなら、アリバイ作りとしてダミーで借りておく必要はあったか。
いやいや、俺は一体何を気にしているんだろう。
腕に嵌めた(先程作製した)魔石時計を眺める。
小さい青水晶の内部に、魔力で表示されている長針、短針が時を刻んでいる。
その針が、午前六時になった事を示すと、少し遅れて、街の教会から鐘が鳴った。
ああ!時間が分かるこの喜び。
晴れやかさすら感じる!
もちろん、教会の時の正確さは甚だ疑問ではあるが、一つの目安にはなっている。
朝飯までまだ時間はあるし、隣室を【探知】する限り、リリィはまだ就寝中のご様子。
今のうちにちょっと野暮用を済ませてこよう。
リリィの部屋の扉をドンドンと叩き、朝飯まで戻る、と一方的に伝えておく。
この気遣いが仲間って事なんだよね。
——————
サルサーレの街・ギルド依頼取引所
「えー!?
これ全部ですかー?」
ギルドの受付嬢ラーチェの大きく青い目が、更にパチクリと見開いている。
口もあんぐりと、だらしなく開きっぱなしだ。
ここは川沿いに設置された、依頼品を検品、受領などをする為の、ギルド管轄の取引所だ。
巨大な倉庫が何棟も建ち並び、冒険者や街の兵士達が、厳重に警備している。
依頼品は、船を利用して移送したりも出来るようで、町には人工河川が流れている。
今、その川岸には、多種多様な鉱石類で埋め尽くされ、パンク状態になっていた。
「一晩ですよ?
たった一晩で、これだけの量の鉱石を集めたんですか?」
「ええ、頑張りました」
「頑張りましたって…………そんな次元じゃない様な……」
金等級になる為には、合計百万ゴールド分の依頼達成が必要だった。
昨日、ギルドで掲示板を眺めていた時に、鉱石類の採集依頼を見かけたので、リリィにそれ系の依頼書だけを集めさせておいたのだ。
下は鉄鉱石から、銀鉱石、白銀鉱石ときて、上はミスリル鉱石まであり、【土魔法】で具現化させるだけの簡単なお仕事。
「この量ですと、【強化】した銀等級の戦士職か、B級以上の鍛冶師じゃないと運べませんねー」
ラーチェは運搬をどうしようか困っているようだ。
「ああ、倉庫に入れるんでしたら移動させますよ」
「へ?」
倉庫にはちゃんと木札が設置されていて、各依頼品の保管場所は決まっているらしい。
別に必要ないが、演出上、手を翳しながら巨大な鉱石を宙に浮かべ、決まったスペースへ次々と移動させる。
「ええーーっ!?」
またラーチェは両手を広げて驚く。
大袈裟だが、そんな仕草も可愛く見えるなぁ。
ものの数分で倉庫に搬入終了。
「お、お疲れ様でした。
確かに依頼達成です」
「あ、待ってください。
あとコイツも」
驚愕の更に上にいってみっか?
わざわざ用意した大きめの麻袋のリュックから、金等級に昇格する為の、指定害獣アイアンホーンの角を取り出し、ポンとラーチェの手の上に乗せる。
ラーチェは目の前に起こっている展開に、もはや理解が追いつかずフリーズしてしまった。
「ラーチェさん?ラーチェさん?」
声をかけても反応が無いので、肩を強めにブンブンと揺さぶる。
「はっ!……っと、失礼しました。
私、もう驚きすぎて麻痺しちゃいましたよー。あは、あはは……」
「なんか、すいません」
「では、しっかりと確認させていただきますね」
ラーチェはコホンと一つ咳払いをすると、アイアンホーンの角をしっかり検分する。
俺の【解析】レベル程では無いが、ある程度の鑑定眼を備えているようだ。
そして、俺の目を真っ直ぐに見つめる。
「一人で倒したんですか?」
「もちろんです」
ズルはしてない。
「えっーと、そうじゃなくてですね。
アイアンホーンは、この辺りでは一番の強敵なので、銀等級でしたら通常、複数人のパーティで長時間戦ってやっと倒せるかどうかなんですよ。
それを一人で討伐だなんて、非常識です!
命を大事にしてください!」
ああ、そっちの心配か。
でも、ラーチェの目は真剣だ。
「以後、気を付けます」
「冒険者さんの命を守るのも、ギルド職員のお仕事なので、今度からは私に相談してから依頼受けてくださいね!
約束ですよ!」
人差し指を立ててウィンクをする。
朝から可愛いものが見れた。
「はい」
もう、素直に返事するしかない。
貴方の犬になりたい。
「ですが、偉業なのは間違いありません。
金等級への昇給手続きは、私がしっかりしておきますね。
すぐに審査が通ると思います。
あと報酬合計135万7000ゴールドは、明日以降いつでも受け取り可能です。
ではでは、お勤めご苦労様でしたぁ」
ラーチェは、頭の上に片手をピッと挙げて敬礼し、踵を返すと、スタスタとギルド本部へ向かって歩いて行った。
あくまでも事務的な態度だ。
いつか、特別視されたい。
そう思いながら、去っていくラーチェのプリプリ揺れるお尻を眺める。
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