27 / 147
ギルド訓練所
しおりを挟む宿に戻ると、一階の食堂でリリィが待っていた。
他にもたくさんの客が食事をしていて、既に満席状態。
テーブルを確保していてくれたのだろう。
俺に一瞬で気付き、両手をブンブン振って場所を教えている。
恥ずかしい奴だな。
「おはよう、テツオ」
「お、おはよう」
ま、まぁ、挨拶ができる相手がいるってのは気持ちがいいな。
あと、笑顔も可愛い。ドキドキしてまうわ。
「食べずに待っててくれたのか?」
「だって一緒に食べたいし、朝食まで戻るって言ってたでしょ?」
ああ、ちゃんと聞いてたのね。
とにかく腹が減ったので、さっそく食事を注文した。
細かく刻んで焼いた肉の入った卵焼きをパンに挟んで頂く。
果実のジュースや、ヨーグルトもあるので、大変美味しくいただけた。
食べたことがある味や食材だと、かなりホッとする。
この卵焼きは、何か朝によく食べていた気がするんだよね。
漠然と、だけど。
「そうそう、今日は昼からクランの任務があるから一緒にはいれない。
午後からは自由に過ごしたらいいぞ。
せっかくの街だし、羽根を伸ばしてきたらどうだ?」
リリィが肩をガックリ落とし、あからさまに落胆している。
死んだ顔で果実をフォークに刺したり抜いたりと挙動がおかしくなっていった。
「パーティ組んでるから、しばらく一緒にいれるって言ってくれたのに……」
まぁ、確かに言った。
しかも、これは口が裂けても言えないが、あわよくば悪魔討伐をしようとしている。
悪魔を見つける事が出来たのならば、だが。
「ちょっ、待てよ。同じパーティだとしてもだ。
四六時中一緒にいるなんて可笑しいだろ?」
「だって、一緒に居たいから仕方ないじゃない」
うう……、それはそれで嬉しいんだが、俺には自由が必要だ。
「そうだ!
お前に渡しておきたい物があったんだ。
これを嵌めてみろ」
「え?」
瞬時に嬉しそうな顔になる。
朝から色んな表情を出して、忙しい奴だ。
「何、これ?」
「時計だ」
「時計?こんなに小さいの?」
リリィの国アディレイにも時計はあるが、城にしかなく、それもエリンの館にあった四分割時計らしい。
魔力を込めた液体が時計内部を循環し、三時間置きに時を刻む大きな水時計。魔女エリンらしい発明だ。
早速リリィに、俺の時計について詳しく説明してやる。
分単位で二十四時間誤差なく時間を教えてくれ、追加機能として、所有者の場所が分かるGPSも付属。
緊急時には、俺にアラームで報せ、ゴーレムが起動するよう魔力でプログラムされている。
もはや、時計の範疇を超えた兵器レベルだ。
「これがあれば、どれだけ離れていようが、いつでもお前の元へ一瞬で来れる。
どうだ、安心だろ?」
「あ、ありがとう。
大事にするね」
手首に嵌めた魔石時計を、色々な角度から眺めてニコニコしている。
青く光る丸い魔石は、宝石の様に見えるのかもしれない。
女性には効果バツグンだ!
どうやら機嫌が直ったかも。
「あー、それでだなぁ。
もし、リリィが良ければクランへ行くまでの時間、剣の稽古つけてくれないか?」
「ふぇっ?」
リリィが、飲んでるジュースを噴き出しそうになって驚く。
「テツオと稽古なんてしたら、私があっさり倒されると思うのだけど?」
「それは俺が魔力を使った場合だ。
魔力を使わなければ、恐らく手も足も出ないと思うぞ?」
「ま、まぁ、私は全然構わないわよ」
「じゃあ、食べ終わったらすぐに稽古しよう」
——ギルド直営・訓練所
ラーチェに教えてもらった訓練所で、早速稽古をつけてもらう。
室内で出来るという事で、道場を選んだ。
白塗りの岩壁と床という簡素な造り。
朝にも関わらず、二、三十人が稽古している。
ちゃんと木製の剣や盾などの武具が、色々取り揃えてあるので助かる。
その模造の剣を使ってるんだが、当たるとかなり痛く、リリィに滅多打ちにされてボロボロになっていた。
所詮、レベル10程度の雑魚な俺。
魔力による補強や付与を一切しないと、全く手も足も出ない。
「はぁ、はぁ、もう少し手加減してくれよ」
「これでもしてるんだけど、本気出したら?」
「本気だよ!」
再び振りかぶってリリィに打ち込む。
が、軽く弾かれガラ空きの胴にカウンターを食らう。
一時間近く、一方的にボコられてるだけなんだが、これ稽古になってるのかな?
俺の感覚では、負けてるだけじゃ経験値が獲得できず、レベルなんて上がらないと思うんだけど。
不安になって自分を【解析】してみる。
ワタライテツオ
年齢:25
LV:10→12
HP:120→160
MP:530000→630000
お、やった!
レベル上がってるやん!
負けても経験値になるんや。
いや、経験値ってモンがあるかどうかは分からんけども、この稽古でレベルが上がってる事は分かった!
よし、この調子で行くぞ。
おら、ワクワクしてきたぞ!
————稽古再開。
全身血だらけ、口から血を垂れ流してるのに、笑顔で襲いかかってくるテツオがきもちわ……怖くなって、つい力が入ってしまうリリィ。
大きい衝撃音と共に、テツオが一直線に吹き飛び、そのまま道場の壁に激突して、めり込んだ。
「テツオー!」
周りで訓練している冒険者達がざわつく。
「おい、医療班呼んでこいよ!」
「回復職いないの!?」
「いや、今のは死んだだろ?」
「当たり前だろ!即死だよ、即死!」
「それより、だれか殺人犯捕まえろよ!」
「お前行けよ!」
「俺やだよ!死にたくねぇよ」
「ひ、人殺しー!」
心無い野次を聞いて、リリィは顔面蒼白になり、その場にへたり込む。
「わ、わたし……そ、そんなつもりじゃ」
ガラガラガラ……
頭から血を流したテツオが、壊れた壁の岩を掻き分け、呑気な声で出てくる。
「いやぁ、今のは死ぬかと思ったよ」
「テ、テツオ!」
リリィがものすごいスピードで飛んできて、抱きついた。
野次馬がまたざわつく。
「なんだ、生きてたのか」
「当たりどころが良かったんだろ?」
「え?そんな問題か?」
「じゃあ、峰打ちだよ、峰打ち」
「そ、そうか、峰打ちか……」
「それよりも、あんな可愛い子に介抱されやがって」
「くそぉ、悔しいなぁ」
野次馬達は訓練に戻っていった。
「私、本当にいつかテツオを殺しちゃうかも」
いや、もう初対面で一度殺されてるんだよね。
殺されても文句言えない状況だったけど。
「もうちょっと稽古になるように、リリィに魔法掛けるぞ」
【闇の拘束】
リリィの手足を闇の鎖で縛り、動きを少し制限する。
これなら運動能力の差が無くなり、剣技のみの稽古が存分に行えるだろう。
「よし、行くぞ!」
「うぅ、動きづらいわね」
————二時間後。
一体の血だるまが床ペロしていた。
「テツオ、大丈夫?」
心配して声を掛ける聖騎士。
「だ……だいほうふに、みへ……ふか?」
血が凝固して真っ黒になったボロ雑巾から、微かに声がする。
顔がパンパンに膨らんで話しづらそうだ。
「ごめん…………」
謝られると、もっと惨めな気持ちになるんでやめて欲しい。
身体も心も痛過ぎて、涙が出そうだよ。
剣技スキルを一切使わずに、基礎的な剣技のみで稽古して貰っているのに、こんなに差が付くのか。
完全に赤子扱いだった。
途中から【闇の拘束】を強めに掛け直したのに、それでも一太刀も与えれないだなんて。
【回復魔法】
ふぅ、生き返った。
「でも、テツオ。
言い訳するけど、やっぱり、テツオには元々凄いスピードとパワーを出す力があるのだから、何度も危険な気配を感じたわ。
だから、つい力が入っちゃった。
気を抜いたら、私が死んじゃうわ」
うーむ。
リリィ程の強さがあれば、そこまで感じ取れてしまうものなのか。
流石は英雄の一人。
質が違う。
とはいえ、俺は絶対にリリィを殺しはしないよ。
まぁ、俺は死ぬけど、時間が戻って生き返る機能が付いてるからね。
さて、結果発表~。
【解析】
ワタライテツオ
年齢:25
LV:12→18
HP:160→320
MP:630000→980000
おお、更にレベルが上がった!
体力も倍になった!
というか、この魔力の振り幅なんなの?
身体中に魔力が漲るんだけど。
時のお姉さんは、俺にどんな力の振り分け方したんだ?
魔力極振りじゃねーか!
おっと、リリィを放置していたようだ。
「よーし、稽古はここまで。
とりあえずこれで俺はギルドに行くからな。
はい、これ」
白金貨を何枚か渡す。
「え?何のお金?」
「街には服屋がいっぱいあるだろ?
戦闘用じゃなくて、なんか普段着買っておけよ。
飯行くときに、鎧のままってのもな」
俺の渡した黒鉄鎧は胸元を強調してるし、腰当ての下はミニスカートだからチラリズムは抜群だが、たまには女の子っぽい服装も見てみたい。
本音は、アマンダみたいなエロセクシーな服が見たい。
「私は別に!
使命があって旅をしてるんだから。
服……なんて」
なんだ?頑固だな。
「お姫様なんだろ?
それにせっかく綺麗な顔してるんだから、可愛い服着て、俺をびっくりさせてくれよ」
眼鏡越しでも、リリィの顔が一瞬で真っ赤になるのが分かった。
わかりやすくて捗る。
いつもなら、すぐどもっしまう浮いた台詞だって、こいつにならスラスラ話せてしまうから不思議だ。
「そ、そこまで言うなら分かったわ!
でも、テツオがしばらく居ないのなら、私も少し情報収集してみようかしら。
王族として、貴族に色々聞いて回る事も出来るしね」
ナイスアイデアでしょ?とでも言いたげな顔で、俺に向かって人差し指を立てる。
「お前は何もするな!
貴族の裏には悪魔がいるんだぞ!」
あ、強く言い過ぎたかも。
リリィの肩がビクッと震える。
「いや、すまん。
俺はただお前……を?」
リリィは閃光の如く飛び去っていった。
飛ばれては止めようがない。
それに上手く止める台詞なんて思いつかない。
…………
……そうだった。
あいつは役に立ちたいと言ってたんだっけ。
俺はまたやってしまったのか。
この時、すぐに時を戻せばよかったんだ……
自分自身で勝手に作った、時を戻さない誓いのせいで、後悔する事になろうとは、この時は微塵も思ってもいなかった。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる