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朝・十日目
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紹介された二人のハイエルフと無事交流を終え、再び長老の元へと戻っていた。
「まさか、あの二人を手懐けるとはな」
「エルメス様、困りますよ。殺されそうになるご褒美なんて聞いた事がありません」
「フフフ、そこまで面倒はみれぬよ。
交配するかどうかは、彼女達が決める事でな。
だが、ふむ…………この先、交配を断る者がいれば、私が代わりを務めよう。どうだ?」
何という事だ、神々し過ぎる。
頬を薄っすら赤らめるエルメス様に、こう言われてはこれ以上何も言えないじゃないか。
「ご配慮恐悦至極に存じます」
頭を深く下げ、自らの浅慮を恥じた。
「して、あの姉妹は何といいますか、ハイエルフにしては、とても感情が豊かに感じましたが」
「うむ、端的に言えば、あの子らは大陸で過ごした過去があるのだ。人間の感情に触れ、学んだのであろう」
実際、エルフ族にだって元々感情はある。悠久の時を過ごすうちに、喜怒哀楽といった感情の振り幅が少なくなっていくのは仕方の無い事なのだ。
「そうでございましたか」
「その昔、風精霊を司る神官が、勇者に協力する為、エルドールを出た際、あの姉妹も同行してな。
その後、戦争が終わって十年程経過し、姉妹は無事戻ってきたが、神官は未だ戻っておらぬ。
姉妹は、深い悲しみと激しい怒りに長く苦しんでいた。余程、辛い体験をしたのだろう。
のぅ、テツオ。これからもあの子らを気に掛けてやってくれぬか?」
「もちろん、御意に御座います。では、しばらく彼女達の身を預かっても宜しいでしょうか?」
「無論、構わぬよ。あの子らがそれを望むのであれば、な」
美人姉妹ハーレム加入の言質ゲットォー!
今後、じっくり調教してやろうて。
「では、私はこれで失礼致します。ささ、エルメス様、いつもの別れの挨拶を」
「うぶっ」
長の後頭部を手で抑え、遠慮なく舌をぶち込み、口内を凌辱する。ついでに空いた片手で胸を揉む。
このように、今ではベロチューの習慣化に成功していた。
交配済みの人間との挨拶であり、最低限のマナーだと教えると、すんなり信じ込むところも、とっても可愛いエルメス様。
いずれ魔玉無しでエッチ出来る関係に持っていきたいですね。
「はぁはぁ、気を、付けるのだぞ」
息を乱すエルメス様を残し、部屋を後にした。
————————
キロ単位の落差がある滝の大瀑布に囲まれた浮遊する小島群。
その島のとある館へ、ハイエルフの姉妹を迎えに来た。
白を基調とした質素な洋館から、肌の露出が殆ど無い白いローブを着た姉妹が現れた。
館の様子が気になったが、中には入れてくれないみたいだ。私はとても残念です。
「待たせたな。長老の許可は頂いた。これでお前らは、正式に俺の所有物となった。
今から俺の家へ向かうぞ。40秒で支度しな」
「わぁ、良かったです!」
「はぁ…………何言ってるのサビーナ。こいつに着いてくって事は、再び人間界へ戻る事なのよ?」
満面の笑みで両手を広げ、その場でピョンピョンと飛び跳ねる妹サビーナ。
並外れた跳躍力で、軽く一メートル以上は飛んでいる。
それを苦々しい顔で嗜める姉ヴァルガ。
よく似た顔で、こうも違いを生み出せるのか。
「百歩譲ってこいつの物になったのは認めるわ。でも、私の居場所はここエルドールよ」
「えっ…………?姉さんは一緒に行かないの?」
「着いていかなくても、こ、交配なら、ここで、いつだって出来るわ」
「姉さん言ってたじゃない。彼の力ならチェレスローネ様を探し出せるかもって」
「ちょ、ちょっとサビーナ!」
「チェレスローネ。それが風精霊の神官の名前だな。行方不明なのか?」
「はぁ、長から聞いたのね。何百年も昔の話よ。今更どうでもいいわ」
パシン!
「えっ?」
ヴァルガの頬をはたく音が響く。
姉は突然の事に、呆然としている。
理由は分からないが、サビーナが姉にビンタをかました。ハイエルフの白い肌がみるみる赤くなっていく。
「絶対見つける!探し出してみせるって、私に言ったじゃない!あの時の約束はどうしたの!」
サビーナが怒り出すと、目が青く光った。
彼女を中心にして、強烈な水の竜巻が発生。
飛んでくる鋭い水の刃が、俺の身体を切り刻む。
え?出血したんですけど!
同じ水属性だからなのか、ヴァルガに水が当たっても何とも無い。え?俺だけ攻撃されてるの、なんで?
「ちょ、ちょっとちょっと、サビーナちゃん?一旦落ち着こう?ね?」
「うわあーん!」
遂には泣き出してしまい、全く聞く耳を持ってくれない。泣き叫べば泣き叫ぶ程、水流がどんどん強力なものになっていく。
もしかすると、妹の方がヤバいのかもしれない。
「おい、ヴァルガ!俺に本気を出させる気か!大人しくさせろ!」
「あ、はい!」
テツオの喝に気圧され、ヴァルガは急いで竜巻の中へ入っていく。
すると、たちまち水流は消え去り、そこには、妹を抱きしめる姉の姿だけが残った。
「サビーナ、約束忘れてないよ。ただ……」
「うぅー、ひっく、ひっく」
「もう、泣かないでよぉ。私、泣いた事なんて無いから、どうしたらいいか分かんないのよぉ」
「一緒に来てくれる?」
「もー、分かった、分かったわよ!
じゃあ、チェレスローネ様を見つけるまで、サビーナに付き合ってあげるわ」
「見つけるだけじゃなくて、連れ戻す、だよ。でも、私達はテツオ様の忠実な下僕なんだからね」
「それも分かったわよ。もう、すっかり懐いちゃって」
「また、姉さんと冒険出来るきっかけを作ってくれた恩人だもん。感謝でいっぱいよ」
サビーナはそう言って、血だらけの俺に抱きついた。純白のローブが、血で赤く染まっていく。
姉妹がキャッキャと笑顔ではしゃいでいるのを見て、俺は一人、薄ら寒い恐怖を感じていたのだった。
気を取り直し、【転移】でデカスドームへ。
俺の仲間になった者は、まずこの【転移】に驚き、そして、デカス山頂に聳える広大な建造物デカスドームに唖然とする。
更に、次々と紹介される住人達に、言葉を失っていく。
それもそうだろう。人間の女性だけでなく、エルフ族、竜族、本来ならば敵である魔族までもが同居しているのだから。
「貴女達がここにいる事実に、戸惑いと苛立ちを覚えます。まさか、テツオ様のハーレムに私以外のエルフが増えるなんて」
メルロスの言葉が俺の胸を抉る。
相談も無しにエルフを増やすのはまずかったか?
「へぇ、いつも無愛想で無表情だったメリィちゃんが、そんな顔するようになったんだ」
なんでそんな刺激するような事を、ニヤニヤしながら言うのよ、ヴァルガさん。
「やめなよ、姉さん。久しぶりメリィちゃん、仲良くしてね。ほら、姉さんも」
妹が姉の脚をガシガシと蹴りながら、メルロスに笑顔を向ける。ヴァルガは引き攣った笑顔を浮かべて、本音を語った。
「痛い痛い、サビーナ。私はね、嬉しいの、喜んでるの。同胞が感情豊かに過ごしてる事が。ねぇメリィちゃん、今幸せなんでしょ?」
「はい、とても。
そうですね、少々大人げなかったようです。これからは力を合わせ、ご主人様をお支えしましょう」
ほっ、丸く収まったようで何よりだ。
最近のメルロスは、本当に色んな表情を見せるようになったと思う。知らない感情にまだ戸惑っている部分もあるが、この姉妹が成長させてくれるだろう。
あくまで願望だが。
「では。後はメリィに任せた。俺は少し寝る」
「お休みなさいませ」
————————
————テツオホーム・プライベートルーム
ふぅ、やはり自分のベッドは落ち着く。
……………………
いつもは一日の出来事を回想し、整理してから寝るのだが、流石に疲れていたのか、あっという間に眠りに落ちてしまい、気が付くと既に朝だった。
————十日目・朝
唯一、この部屋への出入りの自由を許可している存在である妖精のビビが、俺に朝食の準備が出来た事を伝え、一日が始まる。
睡眠時間は一時間程度だが、魔女エリン特製の寝具で休んだので、体力と魔力はすっかり全快していた。冒険者にとって素晴らしい魔導具だ。
眩しい朝日を浴びながら、ダイニングルームへと向かう。
そういえば、エリンと言えば、先代勇者の仲間だったリザラズの事を伝えてやらないとな。
ショックを受けるかな?いや、浮世離れしたあの魔女なら大丈夫だろう。
おっと、伝えると言えばカルロスの件も、ロナウドに話さなきゃいけないかな?
頭の中で、連想ゲームのように次々思い浮かべているうちに、リビングルームへ着いてしまったようだ。
リビングルームの横に、数えてちょうど七段の幅広い波状型階段があり、そこを上った先がダイニングルームとなっている。
幅5メートル程度の階段だが、両端から水が流れ落ち、そのままリビングルームで繋がり、エントランスへ川のように流れていく仕組みだ。
水の流れは心を癒し、ゆとりが生まれる。
つまり、女性達へのアクアセラピー効果を期待した設計という訳だ。
ダイニングルームへ至る間仕切り。
決して濡れはしない霧で出来たカーテンの向こうに、多数の人影が見えた。
女性達が俺の到着を歓談しながら待っているようだ。
いつもより、賑やかな気がする。
僕は、談笑の場に加わりたく、勢いよく霧のカーテンをくぐり抜けたわけで。
ところが、テツオが現れた途端、殆どの女性達が固まってしまった。
今朝は特に硬直時間が長く感じるのは気のせいだろうか?
ちなみに今朝の服装は、ゆるふわニットの大きめセーターと、下に何も履いてないと錯覚しそうなショートパンツだった。
まったくもう!朝から刺激的だぜ!
「テツオー!帰ってきてたんだ!よかったー!おはよー、テツオ!」
静寂を破ったのはナティアラだった。体当たりのように抱き付いつきて、胸に顔を埋めたまま、甘えてくる。
「また呼び捨てにして。テツオ様、あるいはご主人様、でしょ?ナティアラ」
「なんだよー、一日以上会ってなかったんだからいいじゃんかー」
アマンダが注意しながら、俺からナティアラを引き剥がした。
基本的に、明るい時間帯において、女性達から主人への過剰な接触は禁止されている。
余計な軋轢を避ける為だ。
「おはようございます」
ここでようやく女性達から、気持ちのいい朝の挨拶と朝に相応しい眩しい笑顔を向けられた。
「おはよう。さぁ、食事にしようか」
今朝の朝食は、デカスファームで採れた野菜のサラダやフルーツの盛り合わせ。
それと、怪鳥アイアンウィングの辛口トマトパスタ。
この世界にも、トマトに似た野菜を使ったパスタに似た麺料理があるという事で、便宜上、そう呼ぶ事にしている。
それにしても、ボルストン料理は雪国で寒いからなのか、比較的辛い味付けが多い。
俺の口に合わせ、かなり辛味を抑えてあるらしいが、朝からこの辛さはちょっとキツいと言わざる得ない。
そういえば、最近分かった事があって、俺はそれをこの世界の常識七不思議の一つと、勝手に認定したのだが、レベルが高いモンスター程、味が美味いという事だ。
「ご主人様?」
「ん?ああ、すまない」
メルロスが心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
「辛過ぎましたか?」
「大丈夫、大丈夫。そういえば、リリィとアディが居ないみたいだが」
テーブルを見渡すと、メルロス、ナティアラ、アマンダ、そしてメリーズ達三十五人が座っている。
昨日、酔った勢いでヤッてしまった女性達の、態度が明らかにおかしい。
目が合うと、平静を装う者、俯く者、笑顔になる者等はまだいいが、挙動不審になる者、更には食材や食器を落とす者までいる。
そして、その様子を見た者は、俺に抱かれたのだろう、と全員が勘付いているのだ。
「リリィはまだ目覚めていないようです。
アディはジョンテ城に泊まり込みのようですね」
「泊まり込み?何かあったのか?」
「あら、明日はテツオ様の領主就任を祝う祭典が開かれる大切な日でございます」
「え?そうなの?」
「あら?お忘れですか?テツオ様がお決めになったのですよ?
現在、早急に準備が進み、既に多数の王侯貴族が到着されているとの事」
「え?そうなの?」
ラウールに全任しているので、全く覚えていない。もしかすると、数回の空返事が原因かもしれない。
「ラウール様やボルストンから派遣された大臣達が、対応にあたっているみたいですが、肝心の領主不在に、不満の声が出始めているようです」
嫌だなぁ。何が嫌って、こういった誰とも分からない偉そうな連中に、波風立てず社交的に接しなければいけない事がだ。
「式典行かなきゃだめ?」
「もちろん、全ての事は、ご主人様の意のままでございます」
「そうだよな。さすがメリィ!」
メルロスはいつだって俺に従順で優しいんだ!
「いや、だめだよ!俺、セレモニーで歌う曲、すっごい練習してるんだから!」
「え?そうなの?」
ナティアラが口から豆を吹き出して、凄い剣幕で怒鳴り出した。
やっぱ可愛いな、コイツ。
「そうだよ!セレモニーで披露するダンスを練習してるヤツもいるんだし!みんな、テツオに見て欲しいからやってんだぞ!」
アマンダが式典セレモニーに参加する女性達を紹介してくれた。
この美女集団が歌にダンスだと?そんなご褒美、見ない訳にはいかないじゃないか。
「げふんげふん、そ、それじゃあ、行くしか無いな。
そうだな。明日は全員仕事を休みにしよう!
手が空いた者から祭典を楽しんでくれ」
俺の一言に、女性達から歓喜の声が上がった。
え?みんなの仕事そんな大変なの?
メルロスに仕事を減らすように言っておこう。
「みんなおふぁようぅ」
霧のカーテンから、リリィが欠伸をしながら入ってきた。
隣の席に座り、フルーツジュースをコップに注ぎ過ぎてこぼしている。まだ、寝ぼけているようだ。
あれだけの激戦を繰り広げ、短い睡眠しかとっていないのに、もう起きてきて大丈夫なのだろうか?
「リリィ、身体の調子はどうだ?まだ寝てていいんだぞ?」
「ええ、少し寝不足気味だけど、もうすっかり大丈夫よ」
「そうか。
今日の予定だが、これからジョンテに行って、明日開催される式典の打ち合わせや、来賓への挨拶やらをしなきゃいけないらしい。
リリィは、好きなように過ごしていいぞ」
「水臭いわね。王侯貴族への挨拶なら私がいた方がいいでしょ?私も着いて行くわ」
「うーん…………じゃあ、それでもいいか」
「よし決まり!準備出来たらすぐにジョンテに行くわね」
さっきまであれだけ眠そうにしていたくせに、急に元気になった気がするのは、俺の錯覚だろうか?
とはいえ、リザラズの一件で相当落ち込んでいると思っていたから、早々に立ち直ってくれるのであれば何よりだ。
その後、女性達と会話をしながら、時間はゆっくりと過ぎていった。
ああ、それにしても、なんて和やかで穏やかで清々しい朝なんだ。
いつでもヤれる美女に囲まれ、のんびり朝食を食べる。
まさに至福の時間。
これだけ危険な冒険の連続だったんだ、少し羽を伸ばしたっていいだろう。
グッドモーニング!
「まさか、あの二人を手懐けるとはな」
「エルメス様、困りますよ。殺されそうになるご褒美なんて聞いた事がありません」
「フフフ、そこまで面倒はみれぬよ。
交配するかどうかは、彼女達が決める事でな。
だが、ふむ…………この先、交配を断る者がいれば、私が代わりを務めよう。どうだ?」
何という事だ、神々し過ぎる。
頬を薄っすら赤らめるエルメス様に、こう言われてはこれ以上何も言えないじゃないか。
「ご配慮恐悦至極に存じます」
頭を深く下げ、自らの浅慮を恥じた。
「して、あの姉妹は何といいますか、ハイエルフにしては、とても感情が豊かに感じましたが」
「うむ、端的に言えば、あの子らは大陸で過ごした過去があるのだ。人間の感情に触れ、学んだのであろう」
実際、エルフ族にだって元々感情はある。悠久の時を過ごすうちに、喜怒哀楽といった感情の振り幅が少なくなっていくのは仕方の無い事なのだ。
「そうでございましたか」
「その昔、風精霊を司る神官が、勇者に協力する為、エルドールを出た際、あの姉妹も同行してな。
その後、戦争が終わって十年程経過し、姉妹は無事戻ってきたが、神官は未だ戻っておらぬ。
姉妹は、深い悲しみと激しい怒りに長く苦しんでいた。余程、辛い体験をしたのだろう。
のぅ、テツオ。これからもあの子らを気に掛けてやってくれぬか?」
「もちろん、御意に御座います。では、しばらく彼女達の身を預かっても宜しいでしょうか?」
「無論、構わぬよ。あの子らがそれを望むのであれば、な」
美人姉妹ハーレム加入の言質ゲットォー!
今後、じっくり調教してやろうて。
「では、私はこれで失礼致します。ささ、エルメス様、いつもの別れの挨拶を」
「うぶっ」
長の後頭部を手で抑え、遠慮なく舌をぶち込み、口内を凌辱する。ついでに空いた片手で胸を揉む。
このように、今ではベロチューの習慣化に成功していた。
交配済みの人間との挨拶であり、最低限のマナーだと教えると、すんなり信じ込むところも、とっても可愛いエルメス様。
いずれ魔玉無しでエッチ出来る関係に持っていきたいですね。
「はぁはぁ、気を、付けるのだぞ」
息を乱すエルメス様を残し、部屋を後にした。
————————
キロ単位の落差がある滝の大瀑布に囲まれた浮遊する小島群。
その島のとある館へ、ハイエルフの姉妹を迎えに来た。
白を基調とした質素な洋館から、肌の露出が殆ど無い白いローブを着た姉妹が現れた。
館の様子が気になったが、中には入れてくれないみたいだ。私はとても残念です。
「待たせたな。長老の許可は頂いた。これでお前らは、正式に俺の所有物となった。
今から俺の家へ向かうぞ。40秒で支度しな」
「わぁ、良かったです!」
「はぁ…………何言ってるのサビーナ。こいつに着いてくって事は、再び人間界へ戻る事なのよ?」
満面の笑みで両手を広げ、その場でピョンピョンと飛び跳ねる妹サビーナ。
並外れた跳躍力で、軽く一メートル以上は飛んでいる。
それを苦々しい顔で嗜める姉ヴァルガ。
よく似た顔で、こうも違いを生み出せるのか。
「百歩譲ってこいつの物になったのは認めるわ。でも、私の居場所はここエルドールよ」
「えっ…………?姉さんは一緒に行かないの?」
「着いていかなくても、こ、交配なら、ここで、いつだって出来るわ」
「姉さん言ってたじゃない。彼の力ならチェレスローネ様を探し出せるかもって」
「ちょ、ちょっとサビーナ!」
「チェレスローネ。それが風精霊の神官の名前だな。行方不明なのか?」
「はぁ、長から聞いたのね。何百年も昔の話よ。今更どうでもいいわ」
パシン!
「えっ?」
ヴァルガの頬をはたく音が響く。
姉は突然の事に、呆然としている。
理由は分からないが、サビーナが姉にビンタをかました。ハイエルフの白い肌がみるみる赤くなっていく。
「絶対見つける!探し出してみせるって、私に言ったじゃない!あの時の約束はどうしたの!」
サビーナが怒り出すと、目が青く光った。
彼女を中心にして、強烈な水の竜巻が発生。
飛んでくる鋭い水の刃が、俺の身体を切り刻む。
え?出血したんですけど!
同じ水属性だからなのか、ヴァルガに水が当たっても何とも無い。え?俺だけ攻撃されてるの、なんで?
「ちょ、ちょっとちょっと、サビーナちゃん?一旦落ち着こう?ね?」
「うわあーん!」
遂には泣き出してしまい、全く聞く耳を持ってくれない。泣き叫べば泣き叫ぶ程、水流がどんどん強力なものになっていく。
もしかすると、妹の方がヤバいのかもしれない。
「おい、ヴァルガ!俺に本気を出させる気か!大人しくさせろ!」
「あ、はい!」
テツオの喝に気圧され、ヴァルガは急いで竜巻の中へ入っていく。
すると、たちまち水流は消え去り、そこには、妹を抱きしめる姉の姿だけが残った。
「サビーナ、約束忘れてないよ。ただ……」
「うぅー、ひっく、ひっく」
「もう、泣かないでよぉ。私、泣いた事なんて無いから、どうしたらいいか分かんないのよぉ」
「一緒に来てくれる?」
「もー、分かった、分かったわよ!
じゃあ、チェレスローネ様を見つけるまで、サビーナに付き合ってあげるわ」
「見つけるだけじゃなくて、連れ戻す、だよ。でも、私達はテツオ様の忠実な下僕なんだからね」
「それも分かったわよ。もう、すっかり懐いちゃって」
「また、姉さんと冒険出来るきっかけを作ってくれた恩人だもん。感謝でいっぱいよ」
サビーナはそう言って、血だらけの俺に抱きついた。純白のローブが、血で赤く染まっていく。
姉妹がキャッキャと笑顔ではしゃいでいるのを見て、俺は一人、薄ら寒い恐怖を感じていたのだった。
気を取り直し、【転移】でデカスドームへ。
俺の仲間になった者は、まずこの【転移】に驚き、そして、デカス山頂に聳える広大な建造物デカスドームに唖然とする。
更に、次々と紹介される住人達に、言葉を失っていく。
それもそうだろう。人間の女性だけでなく、エルフ族、竜族、本来ならば敵である魔族までもが同居しているのだから。
「貴女達がここにいる事実に、戸惑いと苛立ちを覚えます。まさか、テツオ様のハーレムに私以外のエルフが増えるなんて」
メルロスの言葉が俺の胸を抉る。
相談も無しにエルフを増やすのはまずかったか?
「へぇ、いつも無愛想で無表情だったメリィちゃんが、そんな顔するようになったんだ」
なんでそんな刺激するような事を、ニヤニヤしながら言うのよ、ヴァルガさん。
「やめなよ、姉さん。久しぶりメリィちゃん、仲良くしてね。ほら、姉さんも」
妹が姉の脚をガシガシと蹴りながら、メルロスに笑顔を向ける。ヴァルガは引き攣った笑顔を浮かべて、本音を語った。
「痛い痛い、サビーナ。私はね、嬉しいの、喜んでるの。同胞が感情豊かに過ごしてる事が。ねぇメリィちゃん、今幸せなんでしょ?」
「はい、とても。
そうですね、少々大人げなかったようです。これからは力を合わせ、ご主人様をお支えしましょう」
ほっ、丸く収まったようで何よりだ。
最近のメルロスは、本当に色んな表情を見せるようになったと思う。知らない感情にまだ戸惑っている部分もあるが、この姉妹が成長させてくれるだろう。
あくまで願望だが。
「では。後はメリィに任せた。俺は少し寝る」
「お休みなさいませ」
————————
————テツオホーム・プライベートルーム
ふぅ、やはり自分のベッドは落ち着く。
……………………
いつもは一日の出来事を回想し、整理してから寝るのだが、流石に疲れていたのか、あっという間に眠りに落ちてしまい、気が付くと既に朝だった。
————十日目・朝
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睡眠時間は一時間程度だが、魔女エリン特製の寝具で休んだので、体力と魔力はすっかり全快していた。冒険者にとって素晴らしい魔導具だ。
眩しい朝日を浴びながら、ダイニングルームへと向かう。
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ショックを受けるかな?いや、浮世離れしたあの魔女なら大丈夫だろう。
おっと、伝えると言えばカルロスの件も、ロナウドに話さなきゃいけないかな?
頭の中で、連想ゲームのように次々思い浮かべているうちに、リビングルームへ着いてしまったようだ。
リビングルームの横に、数えてちょうど七段の幅広い波状型階段があり、そこを上った先がダイニングルームとなっている。
幅5メートル程度の階段だが、両端から水が流れ落ち、そのままリビングルームで繋がり、エントランスへ川のように流れていく仕組みだ。
水の流れは心を癒し、ゆとりが生まれる。
つまり、女性達へのアクアセラピー効果を期待した設計という訳だ。
ダイニングルームへ至る間仕切り。
決して濡れはしない霧で出来たカーテンの向こうに、多数の人影が見えた。
女性達が俺の到着を歓談しながら待っているようだ。
いつもより、賑やかな気がする。
僕は、談笑の場に加わりたく、勢いよく霧のカーテンをくぐり抜けたわけで。
ところが、テツオが現れた途端、殆どの女性達が固まってしまった。
今朝は特に硬直時間が長く感じるのは気のせいだろうか?
ちなみに今朝の服装は、ゆるふわニットの大きめセーターと、下に何も履いてないと錯覚しそうなショートパンツだった。
まったくもう!朝から刺激的だぜ!
「テツオー!帰ってきてたんだ!よかったー!おはよー、テツオ!」
静寂を破ったのはナティアラだった。体当たりのように抱き付いつきて、胸に顔を埋めたまま、甘えてくる。
「また呼び捨てにして。テツオ様、あるいはご主人様、でしょ?ナティアラ」
「なんだよー、一日以上会ってなかったんだからいいじゃんかー」
アマンダが注意しながら、俺からナティアラを引き剥がした。
基本的に、明るい時間帯において、女性達から主人への過剰な接触は禁止されている。
余計な軋轢を避ける為だ。
「おはようございます」
ここでようやく女性達から、気持ちのいい朝の挨拶と朝に相応しい眩しい笑顔を向けられた。
「おはよう。さぁ、食事にしようか」
今朝の朝食は、デカスファームで採れた野菜のサラダやフルーツの盛り合わせ。
それと、怪鳥アイアンウィングの辛口トマトパスタ。
この世界にも、トマトに似た野菜を使ったパスタに似た麺料理があるという事で、便宜上、そう呼ぶ事にしている。
それにしても、ボルストン料理は雪国で寒いからなのか、比較的辛い味付けが多い。
俺の口に合わせ、かなり辛味を抑えてあるらしいが、朝からこの辛さはちょっとキツいと言わざる得ない。
そういえば、最近分かった事があって、俺はそれをこの世界の常識七不思議の一つと、勝手に認定したのだが、レベルが高いモンスター程、味が美味いという事だ。
「ご主人様?」
「ん?ああ、すまない」
メルロスが心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
「辛過ぎましたか?」
「大丈夫、大丈夫。そういえば、リリィとアディが居ないみたいだが」
テーブルを見渡すと、メルロス、ナティアラ、アマンダ、そしてメリーズ達三十五人が座っている。
昨日、酔った勢いでヤッてしまった女性達の、態度が明らかにおかしい。
目が合うと、平静を装う者、俯く者、笑顔になる者等はまだいいが、挙動不審になる者、更には食材や食器を落とす者までいる。
そして、その様子を見た者は、俺に抱かれたのだろう、と全員が勘付いているのだ。
「リリィはまだ目覚めていないようです。
アディはジョンテ城に泊まり込みのようですね」
「泊まり込み?何かあったのか?」
「あら、明日はテツオ様の領主就任を祝う祭典が開かれる大切な日でございます」
「え?そうなの?」
「あら?お忘れですか?テツオ様がお決めになったのですよ?
現在、早急に準備が進み、既に多数の王侯貴族が到着されているとの事」
「え?そうなの?」
ラウールに全任しているので、全く覚えていない。もしかすると、数回の空返事が原因かもしれない。
「ラウール様やボルストンから派遣された大臣達が、対応にあたっているみたいですが、肝心の領主不在に、不満の声が出始めているようです」
嫌だなぁ。何が嫌って、こういった誰とも分からない偉そうな連中に、波風立てず社交的に接しなければいけない事がだ。
「式典行かなきゃだめ?」
「もちろん、全ての事は、ご主人様の意のままでございます」
「そうだよな。さすがメリィ!」
メルロスはいつだって俺に従順で優しいんだ!
「いや、だめだよ!俺、セレモニーで歌う曲、すっごい練習してるんだから!」
「え?そうなの?」
ナティアラが口から豆を吹き出して、凄い剣幕で怒鳴り出した。
やっぱ可愛いな、コイツ。
「そうだよ!セレモニーで披露するダンスを練習してるヤツもいるんだし!みんな、テツオに見て欲しいからやってんだぞ!」
アマンダが式典セレモニーに参加する女性達を紹介してくれた。
この美女集団が歌にダンスだと?そんなご褒美、見ない訳にはいかないじゃないか。
「げふんげふん、そ、それじゃあ、行くしか無いな。
そうだな。明日は全員仕事を休みにしよう!
手が空いた者から祭典を楽しんでくれ」
俺の一言に、女性達から歓喜の声が上がった。
え?みんなの仕事そんな大変なの?
メルロスに仕事を減らすように言っておこう。
「みんなおふぁようぅ」
霧のカーテンから、リリィが欠伸をしながら入ってきた。
隣の席に座り、フルーツジュースをコップに注ぎ過ぎてこぼしている。まだ、寝ぼけているようだ。
あれだけの激戦を繰り広げ、短い睡眠しかとっていないのに、もう起きてきて大丈夫なのだろうか?
「リリィ、身体の調子はどうだ?まだ寝てていいんだぞ?」
「ええ、少し寝不足気味だけど、もうすっかり大丈夫よ」
「そうか。
今日の予定だが、これからジョンテに行って、明日開催される式典の打ち合わせや、来賓への挨拶やらをしなきゃいけないらしい。
リリィは、好きなように過ごしていいぞ」
「水臭いわね。王侯貴族への挨拶なら私がいた方がいいでしょ?私も着いて行くわ」
「うーん…………じゃあ、それでもいいか」
「よし決まり!準備出来たらすぐにジョンテに行くわね」
さっきまであれだけ眠そうにしていたくせに、急に元気になった気がするのは、俺の錯覚だろうか?
とはいえ、リザラズの一件で相当落ち込んでいると思っていたから、早々に立ち直ってくれるのであれば何よりだ。
その後、女性達と会話をしながら、時間はゆっくりと過ぎていった。
ああ、それにしても、なんて和やかで穏やかで清々しい朝なんだ。
いつでもヤれる美女に囲まれ、のんびり朝食を食べる。
まさに至福の時間。
これだけ危険な冒険の連続だったんだ、少し羽を伸ばしたっていいだろう。
グッドモーニング!
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