時間を戻して異世界最凶ハーレムライフ

葛葉レイ

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ジョンテ城・大広間

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 ラフェリーズ大陸暦1352年8月10日
 私の名前はジョナサン。ジョンテ領土新聞社に所属する記者だ。
 この日に起きた奇跡的な出来事を記事にし、必ず後世に残さねばと思い至り、急ぎ筆を取った次第である。

 以下は、事の顛末を明らかにする為、調査や取材で得た資料に、私の体験談を交え、順序立てて記載したものだが、正確性に欠ける点は配慮頂きたい。

 ————————


 悪魔出現時、新聞社がある家屋三階にいた私は、巨大な火球を前に、今更逃げても無駄だと察し、震えながら空の様子を伺っていた。
 その時である。


 ————バクン!

 何かが空を切り裂いた。
 一陣の風が吹き渡り、それは目にも止まらぬ速さで通り抜け、そして、悪魔はいなくなっていた。

 間髪入れず、耳をつんざくような咆哮が轟く。
 その衝撃波は、巨大な火球を呆気なく掻き消してしまった。

 あまりに一瞬で、何が起こっているのか理解するのに時間が掛かったが、恐らく、二体の巨竜がどこからともなく現れて、白い竜が悪魔を一飲みにし、更に大きい緑竜が魔法を無力化したのだ。


 ————後にジョンテ領兵長ロナウド氏はこう語っている。

「民衆にとって、悪魔の襲撃は脅威的だったと思う。それ以上に、古代竜種二体の出現は、もはや絶望といってもいい大きな衝撃を我々に与えた」
 
 美しいばかりの純白の体躯に長い翼を持つ竜と、余りにも巨大な深緑の竜が、空から民衆を見下ろしている。
 先程まで、大広場を彩っていた魔法障壁は全て消え、民衆はただ何も出来ず立ち尽くしていた。
 古代竜が放つ圧倒的な威圧の前に、我々人類は無力化されてしまったのだ。


 ————古代ラフェリーズ史・抜粋
「戦後三百年において、古代竜種の目撃談は皆無に等しい。
 大天使や魔王といった最上位の存在と並び称され、本来、姿を現す事自体が稀なのである。
 古代竜種は、あらゆる天変地異を巻き起こし、大陸諸々を掌握する」

 静寂を破るように、白き竜が城門に降り立つ。
 突風が巻き起こり、殆どの民衆は吹き飛ばされ転倒してしまう。
 私は今から民衆が、大量虐殺されてしまうのか、それとも食糧になってしまうのか、乏しい知識でもって、想像しうる最悪の展開に恐れ慄いた。

「聞け!ジョンテに集いし民草よ。
 我らは、領主テツオに永遠の忠誠を誓った。
 テツオが治める地はあまねく竜神の庇護下となる!」

 想定の範囲外!
 まさか、言葉を話すとは!いや、竜神ならば話して当然か。いや、そんな事では無い!
 驚愕だったのは、領主テツオ侯爵マーキスが竜神を二体も支配下に置いた事だ。
 つまりこれは、ジョンテ領が我が国で最も安全で平和な地になったという事である。

 ————注:竜神が神という存在ならば、単位は体ではなく柱と数えるべきではあるが、神に近しい天使や悪魔が混在するこの大陸では、竜も等しく体を単位にして数えるものとする。

 古代竜種はそれだけを言い残し、上空をゆっくり一周した後、彼方へと飛び去っていった。
 我に帰った民衆達から、テツオ侯爵マーキスコールが巻き起こり、大広場は大歓声に包まれる。
 この日は、まさに式典前夜祭に相応しい盛り上がりを見せていく。

 以上、ジョナサンの手記より。

 ————————


「あれが谷底の竜…………、俺達が目指した深淵の正体っていうのか。ったく、ふざけた野郎だぜ、テツオは」

「あれ~、団長何か顔赤くね~?」

「え、マジ?団長ってそうだったの?」

「より強き者に惹かれるのは自明の理」

「うるせぇ、なんか白けたから呑みに行くぞ」

「あれ?テツオさんに会わなくていいんすか~?」

「いーんだよ!」

 プレルス領から来た四人組は、しばらく大空を眺めながら話していたが、その後、繁華街へと消えていった。


 ————————

 城門・兵舎

 悪魔襲撃の解決策。
 テツオの選択第一回目は、静観だった。
 あの程度の悪魔デモンなら、広場に集まった冒険者なり貴族なりが、撃退してくれるものだとたかを括っていた。

 避難という名目で急ぎラウールを退室させ、アデリッサをベッドに押し倒した瞬間、大爆発が起こる。
 大広場に炎球が直撃し、多数の領民が絶命してしまう結果に————。
 一万人以上の死傷者を目の当たりにし、激しいショックを受けたテツオはしばらく呆然としていた。
 噴水があった地点が爆心地となり、大きなクレーターが広がっている。そこを囲むように黒焦げの焼死体が山積みになっていた。
 既に助からない者、身体の部位が無くなった者、泣き叫ぶ者、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
 一部の貴族や冒険者達は殆どが生き残り、現場から速やかに避難し、悪魔に挑む者や、負傷者を救助する者はごく僅かだった。
 それもそうだろう。
 貴族に付き添う冒険者の護衛対象は、雇い主であり、民衆ではない。
 領民を守るのは領主の役目なのだ。

「テツオ様ッ!しっかりして下さい!」

「あ、ああ、アディ。大丈夫だ…………多分」

 アデリッサの頭を撫でながら、テツオは思考に耽る。
 前回は自作自演といえ、ジョンテ領は短期間に二度も襲撃されたという事実が残ってしまった。
 領民の不安は、ますます募っていくだろう。
 その都度、俺が悪魔撃退に向かえばいい話だが、それでは領主不在時を狙っての襲撃にまで対処しきれない。
 何かしらの対策が必須となる。
 デカスドームの様な防衛結界魔法陣を張ってしまっては、人の出入りが不可能になってしまう。かといって、クランや領兵、ゴーレムや使い魔では、上位悪魔に勝てない。
 街の防衛如きに、パーティメンバーを割くのは論外。
 考えた末、ついに適任の抑止力を思い付いた。
 悪魔撃退の解決策、選択二回目。
 竜、だ。

 ————テツオは時を戻した。


 ————————

 悪魔撃退後————

 城門・兵舎

「おい、それは悪魔デモンじゃないのか?」

 邪竜ファフニールことラズヴェンラズースが、俺の背中に隠れるアデリッサに詰め寄っていた。
 人型になっているとはいえ、古代竜から放たれる威圧には相当な凄みがある。
 俺でもうっかりチビリそうだ。

「私は人間です…………」

「喝ーッ!うまく隠しているつもりでも、その凶々しい気は、悪魔デモンでも上位のものだ!
 今すぐ、我が婿殿から離れよ!」

「ひっ…………」

 アデリッサはふるふると震えながら、か細い声で反論したが、竜女の怒気を含んだ大声に掻き消された。
 全くもって不憫過ぎる。

「ふえぇーん、テツオ様ぁ」

 予想通りというか、結局泣き出してしまった。
 アデリッサを泣かせると、後でグレモリーがうるさいんだよなぁ。

「おい、ラズ。この子はお前のハーレムメイトなんだぞ?仲良くしろ」

「ハーレムだと?」

「大体、婿殿ってなんだよ。まだヤッてもないだろ?ヤッたとて、婿になる気はないが」

「何だと!我の露わになった胸を吸ったり揉んだりしたのを忘れたのか!」

 ちょっとちょっと、アデリッサが軽く引いちゃってるじゃない。

「やれやれ、ちょっと胸をいじられたくらいでもう俺の女気取りか。まだまだ、淑女としての勉強が足りないようだな」

「ぬぅ…………(そうなのか?)」

「いいか、俺のハーレムには、種族問わず何十人所属している。
 俺の女になりたいなら、もっと女らしくなって出直してこい!
 二度と俺の女を泣かすんじゃないぞ!」

「ぬぬっ…………(何故?何故、我は何も言い返せないんだ?)」

 何も言えず立ち尽くす龍女を見兼ね、テツオの腕にしがみ付いていたアデリッサが、テツオの耳元で囁いた。

「テツオ様、私はもう平気ですから、もう許してあげて下さい」

「なっ!おい悪魔デモン、全部聞こえているんだが…………」

 ラズヴェンラズースはアデリッサを睨んだまま、わなわなと拳を握りしめている。
 アデリッサはまた俺の背中に隠れてしまった。

「よしよし、アディは優しいなぁ」

「女らしさで悪魔デモンに遅れを取るとはな!よぉし、いいだろう!
 究極の淑女となって、婿殿を見返してやろうぞ!」

 そう言い残したラズヴェンラズースは、【転移】でその場から一瞬のうちに消えた。

「竜神さんって変わってるんですね。
 あっ、そういえばテツオ様、お城で貴族の方々がずっとお待ちになってます」

「ラウールじゃダメなのか?」

「領主であるテツオ様に謁見したいと仰られてます。お父様も来てますのでどうか」

 やむを得ないか。

 ————————

 ジョンテ城一階・大広間

 俺が登場するや否や、楽団によって音楽が奏でられ、拍手と歓声がホールいっぱいに響き渡った。

「待っていたよ、テツオ侯爵マーキス
 どうだい?君の為に、これだけの人が集まってくれたんだよ?」

 サルサーレ公が満面の笑顔で駆け寄り、俺の背中に手を添え、会場を見渡す様に大声を張り上げた。
 どうやら、大広場で悪魔を撃退した話で持ちきりだったらしい。

「皆様、お待たせしました!
 巷の話題を独占するテツオ侯爵マーキスのお目見えですよ!」

 再度、大きな拍手が鳴り響く。
 ぱっと見、五十人くらいいるのだろうか。
 これが多いのか少ないのか、俺には見当もつかない。
 見渡していると美女と目が合った。
 誰かと思えばシルビアだ。
 そういえば、彼女は貴族出身であり、社交会への覚えがある。
 ラウールとアデリッサ二人だけで、これだけの人数に対応するのは難しいので、テツオホームから貴族出身者が数名応援しに来ているようだ。

「式典前日にこれだけの人数が集まるのは異例中の異例だぞ」

 サルサーレ公爵が驚いている。
 どうやら多いという認識で合っているらしい。

「今から挨拶に回るが、誰に何を頼まれても安請け合いはしちゃいけないよ」

「分かりました」

 挨拶程度とはいえ、これだけの人数と会話しなきゃいけないなんて、地獄でしかない。
 ここに集う貴族達は、男女問わず全員年上なのだが、俺に少しでも気に入られるように褒め称えてくるので、居心地が悪くて仕方がない。
 彼らは、俺に依頼する為にやってきたのだ。

 一番多い依頼内容は、食品や生活用品、特産品などの商談を持ち掛けてくる事。次に多かったのは、危険地帯デッドゾーン攻略の記事が出回った事が影響しているのか、討伐や攻略を依頼してくる事だった。

 そのどちらも、彼らが住む領地の主を通さずに話を進めるのはリスキーだが、偽金貨作製を封じられた現状、大金を生む依頼要請は大変魅力的である。
 とりあえず、顔と名前を記録しておいて、後でじっくりと話をするとしよう。

 ————————

 苦行とも言える長い挨拶回りを終え、二階の大回廊と呼称される通路へと移動した。
 領主と会う為だ。
 城内には、特別な貴賓室が合計六部屋もある。つまり、領主の人数分だけ部屋が用意されている。
 そこまでする必要があるのだろうか?
 領主は転移装置で自由に移動できるとあって、既に何名か到着しているとの事。
 来賓である領主へは、こちらから赴く慣例があるようだ。

 まずは手前にあるサルサーレ公爵の貴賓室へと招かれた。
 中にはアデリッサと公爵夫人もいる。
 テーブルでお茶を飲みながら、四人で軽く話を交わした。
 サルサーレ家とは幾分か馴染みがあるので、あまり緊張しなくて済む。

「原則として、各領主の貴賓室へは、ここの領主である君が、一人で行かなくてはいけない。
 話をするといっても、新領主への祝辞程度で済めばいいが、中には少々突っ込んだ話題を振ってくる者がいるかもしれない。
 むしろ、その話の為に、わざわざ式典前日に出向いた可能性すらある」

「はぁ。やはり、商談とかですか?」

「それもあるかもしれないが、危険地帯デッドゾーン南の森攻略によって、一気に現実味を帯びてきたのが、南の国進出による利権争いだ」

「利権…………」

「そう。寒冷地帯である北国ボルストンと違い、南国ザーネラームは温暖な気候と豊富な資源に恵まれている。
 もし、西国アディレイを介さず、直に南国と取引できるとしたら、かなり大きな利益が生まれるだろう」

 ボルストンは地形上、アディレイを経由しない限り南国ザーネラームへは辿り着けない。その為、大きな関税は問題になっていた。

「地図上では、ジョンテ領と南国は隣接しているが、巨壁と呼ばれる山脈が国境間に空高くまで聳え、移動自体がとても困難になっている」

「はぁ。交流出来ないんじゃ、そもそも利権など生まれないのでは?」

「実はね、一つだけ移動手段があるんだよ」

「…………転移装置ですか?」

「おお、さすがはテツオ君、鋭いね。
 国境近くの湖水遺跡内に転移装置があるのだが、ジョンテに潜んでいた悪魔が悪用していたとみて間違いないだろう。
 つまり、南の国ザーネラームと接触していたという証拠。
 ここで重要なのは、ジョンテ領内にある転移装置でも、管理権は国にあるってところだ。領主であっても使用するには国の認可が必要なんだ」

「はぁ」

「その認可は、王を含めた領主七名から、過半数の賛成を得なければならない。
 まぁ、私と君で既に二票だから、あと二票必要な訳だが、ううむ。
 南国進出!俄然、現実味を帯びてきた気がするな!」

「はぁ」

 公爵のテンションは次第と高まり、徐々に声が大きくなり、身を乗り出して熱弁している。

「あなた、テツオ様が困ってますわよ」

「ごほん!済まない。私ばかりが熱くなってしまったようだ」

「いえいえ、大丈夫です。南国に何か思い入れでもあるんですか?」

「実はね、三十年前に一度だけ行った事があるんだ。
 あそこはとにかく日差しが強くてね。外を少し歩いただけでもフラフラさ。
 それだけ厳しい環境でも、人々には活気があり、生きる事にとても情熱的で魅力的だった。
 私は、彼らと再び交流したいとずっと願い続けているんだよ」

「そうでしたか」

「もし、南国と交流する事になったら、何でもいいから協力させて欲しい。もちろん、全て君が決める事だがね」

「南の国はあまり治安が良くないと聞いた事があります」

 南の国で戦争が起こっている情報を、盗聴にて入手したが、詳細まではよく知らないので、軽く濁し伝えておこう。

「そうなんだ。
 南の国は、正式名称をザーネラーム連邦国といい、多種族、多民族がそれぞれ小国を造り、それによって小競り合いや衝突が絶えない。
 それでも、小国の代表者達は大きな争いにならないよう努めている。
 私は調和の為にも、力になりたいんだ」

「はぁ」
 
 勇者の話では、悪魔が攻め込んできたみたいな内容だったが。
 そうか。大きな戦争が起こっているわけじゃないのか。

「まだ、南の森が完全に開通した訳では無いのに、早計だったかもしれないな。
 テツオ君、今の話は頭の片隅にでも置いておいてくれ」

 公爵の長話からようやく解放され、脱出するように部屋を出た。
 それでも、まだ二人の領主へ挨拶に行かなくてならないようだ。
 早く自由が欲しい。

 テツオは重い足取りで大廊下を進んでいった。
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