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第19話

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 ――まぁ、案の定、おれは三十分も経たないうちに、アザゼルにこてんぱんに負けたわけであるが。

 そもそもノリと勢いで真正面からケンカを売ったけれど、それが間違いだよな……
 魔法攻撃と物理攻撃をパッシブスキルで無効化する相手に、真っ向から勝負を挑んでどうする自分。正攻法じゃ勝ち目はないだろ。正気になれよ自分。

 そういえば、おばあちゃんにも「俊一は考えなしに行動することがあるから心配だ」って言われてたな……

 おれは、まどろむ意識の中で、そんなことを考えていた。

 先程のアザゼルとの性行為の後、疲れのせいなのか眠ってしまったようだ。とはいえ、感覚からしてそれほど長く意識を失っていたわけではなさそうだ。
 アザゼルは同じ室内にいるのか、ごそごそとなにかをしている気配を感じる。

 それにしても、腰と身体のふしぶしが痛い。喉もひりひりする。
 目をさますのがおっくうで、おれは瞼を閉じたまま、異世界での出来事を思い出していた。

(あの後、おれはアザゼルに完膚なきまでに負けたんだよなぁ……で、喜んでるアザゼルを騙して、魔剣グラムを借りたんだよな。「おれが戻ってこなかったら王国の皆が不安に思うし、魔王城に攻めてくるかもしれない。魔剣グラムを見せればおれがアザゼルを倒したってみんなが納得するだろうから、落ち着いたらここに戻ってくるから」って言って……)

 おれの言葉に、あの時のアザゼルはちょっと考え込んだだけで「いいよ、じゃあ終わったらハネムーンに行こうね!」とすぐに頷いたのだった。

 やけにあっさりとおれの言葉を信じてくれたので、少し不思議には思っていたのだが……おれは嘘がバレる前に一刻もはやく王国に戻りたかったから、そこまで気にしていなかった。

 アザゼルは多分、最初から分かっていたのだろう。
 おれが戻るつもりなんてないことを。

 だから、自身のパッシブスキルを使っておれの動向を見張っていたのだ。
 その結果、「世界渡りの門」が開かれたのを察知したので後を追いかけてこの世界に来たのだろう。

「…………」

 おれがアザゼルとの約束を破った理由は二つある。

 まず一つは、家族のためだ。

 おれはこちらの世界におじいちゃんとおばあちゃんがいる。二人とも、おれが失踪なんてことになったらひどく悲しむだろう。もしかすると東京の学校へ送り出した自分たちを責めるかもしれない。

 二人のためにも、おれはこの世界に戻らなければいけなかった。

 そして――二つめの理由は、自分のためだ。

 あの頃のおれは、アザゼルのことがまったく理解できなかった。

 人間のおれには親し気な態度をみせるくせに、同族であるはずの魔族のことを語るときは一線を引いていて、冷淡ですらあった。

 だからおれは――心の隅で「おれに対して親し気にふるまっているのは今だけで、きっかけさえあれば、いつでも態度を豹変させるのだろうな」と思っていた。だからあいつに好きだとかそんな言葉を言われても、真剣に捉えていなかった。

 アザゼルはいつかおれのことも切り捨てるだろう。なら、最初から距離を置こう――そんな風に考えていたのである。

 けれど、今は違う。

 過去の自分はアザゼルのことを信用も信頼していなかった。だから、その内面を知ろうともしなかった。
 けれど、今日、あいつが必死になっておれを助けようとしてくれたのを見て――自分の感性が鈍かったのかもしれないな、と感じるようになったのだ。

 一緒にいて分かったけれど、意外とあいつには人間臭いというか、子供っぽいところがある。
 平面上では平静に見えていても、焦ったり怒ったり、こちらを心から心配してくれている。

 異世界にいた時の自分は、そういう彼の一面が見えていなかった。
 いや、もしかすると、見ないふりをしていたのかも――

「あ、シュンくん起きた?」

 薄目を開けてぼんやりと天井を見つめていたら、急にアザゼルがおれの顔を覗き込んできた。

 あまりにもビックリして、寝ているふりをしていたのも忘れて跳ね起きてしまう。が、その瞬間、腰にずきんと大きな痛みがはしって再びシーツの上に突っ伏した。

「……~~~ッ!」

「わわ、シュンくん大丈夫?」

「大丈夫、ではないけれど、大丈夫だ。"ヒール"、それと"クリーン"」

 おそるおそる身体を起こした後、おれは自分に初級の治癒魔法と洗浄魔法をかけた。
 おかげで身体の痛みが引き、体液のこびりついていた身体もきれいになっていく。ついでにアザゼルにも同じく"ヒール"と"クリーン"をかけてやった。

「わ、ありがとうシュンくん」

「別に……もともと、お前にもらった魔力だしな」

「…………」

 痛みは引いたけれど、まだ身体には気だるさが残っている。このまま二度寝したい気持ちだったが、傍らでアザゼルが正座をしながらおれの顔をちらちらと窺っている。
 なんか、数秒後にご主人様に怒られることを察した大型犬みたいだな……

「なんだよ、アザゼル。お前にしちゃ珍しく、何も言わないんだな」

 てっきり、ああいうコトをした後だからこいつなら「素敵だったよ」とか「可愛かったよ」みたいな月並みな台詞を言うのかと思ってたのに。いや、期待してたわけじゃないけれど。

「えっと……シュンくん、怒ってないの?」

「? おれに怒ってたのはお前だろ」

「えーっと、いや、そうなんだけれど」

 そわそわしながら言葉を濁すアザゼルに、おれは首を横にかしげた。
 その時、ふと、自分の右腕が視界に入った。そこにはゾンビに噛まれた歯型の痕がうっすらと残っている。先程の治癒魔法でも傷跡は治りきらなかったらしい。

「…………」

 噛まれてから数時間が経過して、発症していないのだから状態異常回復の魔法が効いたのだと思うが……それでも魔法がどの程度効いたかは分からない。
 もしかすると今は大丈夫でも、明日には発症するのかもしれない。

 そんなことを考えていたら、おれの右手にアザゼルの手が触れてきた。
 掌で傷跡を覆い隠すようにそっと触れられる。

「大丈夫だよ。もしもシュンくんがゾンビになったら私が必ず治す方法を見つけるから。だから大丈夫」

「アザゼル……」

 血のように赤い瞳が真っ直ぐに見つめてくる。
 その真剣な顔を見つめ返しながら、おれの唇からは、言おうと思っていたこととは違う言葉が口をついて出ていた。

「アザゼル、お前……なんでここまでしてくれるんだ?」

「え? そりゃ、シュンくんのことが好きだからだけど」

 アザゼルはきょとんとした顔で、なんでもないことのように答えた。
 おれはその返答にもどかしさを感じながら、苛立つ心を落ち着かせて尋ねた。

「おれは……アザゼルに好きになってもらう理由がないだろ。お前のことを魔界に帰してやれなかったし、仲間の魔族たちも何人も殺した。その、それに……剣も壊しちゃったし、お前に黙ってこっちの世界に帰ってきちゃったし」

「えっ、そんなこと気にしてたの?」

「そんなこと!?」

 思ってもみなかった返答に唖然とする。
 だが、対するアザゼルの方もいささか困惑した表情を浮かべていた。

「えー、そんなの全然気にしなくてよかったのに! そもそも私が魔界に帰れなくなったのって、もともとは帝国の連中が原因なんだからシュンくんのせいじゃないでしょ?」

「い、いや、それを抜きにしてもおれはお前の仲間の魔族を殺してるんだぞ?」

「それだって、シュンくんのレベル上げのために私と王国の人たちが仕組んだことだし……というか言ってなかったっけ? そもそも私、純粋な魔族じゃないから彼らにあまり同族意識もないんだよねー」

「えっ!?」

 ちょっと待て、前者はともかく後者は初耳だぞ!?

「魔族じゃないってどういうことだよ。お前、魔界の魔王なんだろ?」

「えーっとね……実際に見てもらった方が早いかな。シュンくん、私のこと鑑定魔法で鑑定してみてくれない?」

「それはいいけど……」

 アザゼルに言われた通り、おれは鑑定魔法のアプレイザルを発動させた。
 すると、彼の現在のステータスがおれの視界に表示される。


 名前:アザゼル
 職業:魔族を統べていた王、合成獣、魔界の支配者だった者
 レベル:1
 パッシブスキル:疲労無効、食事不要、睡眠不要、身体能力超強化、筋力増加、物理防御、魔力自動回復、体力自動回復、負傷自動回復、病気耐性


 以前話をした通り、彼のパッシブスキルはだいぶ少なくなっていた。
 また、パッシブスキルだけではなく、職業欄にも変更があった。

 かつては「魔族を統べし王」が「魔族を統べていた王」になっており、「魔界の支配者」が「魔界の支配者だった者」へと変わっている。

 しかし、その間の「合成獣」というのが謎だ。
 そういえば最初に出会って鑑定魔法を使ったときにも、職業欄にこの表記があったような気がするけれど……あの時は膨大な量のパッシブスキルに気を取られていたから、この部分は気に留めていなかったな。

「合成獣っていうのは……キメラってことだよな? これって一体……」

「うん。実は私、純粋な魔族じゃなくて、大昔に魔界にいた魔族の賢者たちが作り上げた合成獣なんだ。デーモンとか人間とか、攫えるだけの生き物を攫ってきて合成した生き物なんだって」

「……え」

 おれは目を見開いた。
 しかし、アザゼルはなんでもないことのように淡々とした口調で説明を続ける。

「シュンくん、私の外見が他の魔族とは違って、かなり人間寄りなのを不思議に思わなかった? しかもパッシブスキルの量もすごいでしょ?」

「……言われてみれば確かに」

「五百年以上前の魔界は、そりゃもう無法地帯だったんだって。いや、今も別に平穏な世界ではないんだけれどね? でも、あまりに荒れ放題でそこらじゅうで戦争が絶えず起きているから、これはまずいってことで魔界の三賢者って呼ばれてる人たちが『魔族たちをコントロールすることができる統治者』を作り出そうって計画をたてて……それでできたのが私なんだ」

「…………」

「計画は大成功で、三賢者は合成前の生物が持ってたパッシブスキルをすべて合成獣に引き継がることができた。ついでに、飲食不要、睡眠不要、性欲制御をパッシブスキルに盛り込むことで三大欲求を感じないようにさせたから、感情面もコントロールしやすい最強の合成獣を作り上げることができたんだ」

「それって……そんなの酷すぎる。そんなの機械と変わりないじゃないか」

 おれが憤るのを見て、アザゼルは穏やかな笑みを浮かべた。

「んー……機械よりも、この世界にいるゾンビたちに似てたと思うよ、あの頃の私は。生きているのに死んでいるんだもんね。まさしくリビングデッドだ」

「ご、ごめん」

「ああ、大丈夫だよ。全然私、過去のこととか引きずってないし。私のことを作り上げた三賢者も皆殺しにしたしね! だからもう気は済んでるというか」

「皆殺しにしたのか!? な、なんでだよ?」

 それはまた、驚きの新情報だった。
 というか、この数分だけでかなり衝撃の情報ばかりだな。

「や、やっぱりその人達のことが憎かった、とかか……?」

「うーん、嫌いではあったけれど、憎いっていうほどじゃなかったよ。ただ、退屈だったから」

「退屈……?」

 冗談を言っているのかと思って、おれはアザゼルの顔をまじまじと見つめた。

「うん。だって、魔族の制圧が百年くらいで終わっちゃったからさー、退屈でしょうがなくって。パッシブスキルのせいで三大欲求を感じないし、魔族は私のことを怖がって反逆すらしてこないから、暇になっちゃって」

「…………」

「だから、私が製造されて二百年目の時かな。三賢者って、私を生み出した人たちだから親的な存在なわけでしょ? だから彼らを殺したら、さすがに何か悲しさや寂しさを感じるのかなって思ったんだけれど……なんとも思わなかったんだよねぇ」

 アザゼルの顔には、かけらほどの罪悪感も浮かんでいなかった。
 どうやら嘘をついているわけではなく、本当に、三賢者を暇つぶしのために殺したことに対して何の感情も抱いていないらしい。

 そのことについて抵抗感や違和感を覚えないでもなかったが、おれは言葉を飲み込んだ。

 だって、おれにはわからない。
 生まれながらにして食べることも、眠ることも、誰かを好きになることも不要とされた身体なんて。三大欲求を感じることのできない身体で、荒れ果てた世界の統治なんていう重荷を背負わされる人生なんて。

 だから今は言葉を飲み込んだ。何かを言うのは、彼が背負わされた重責が、一部でも理解できた時でいいだろう。

 なんとなく、アザゼルが時折見せる子供っぽい一面や、おれに対するストレートな好意の言葉の経緯が分かったような気がした。

「……アザゼルのことは分かったけれど、なんでそれでおれにこだわるんだ? おれなんかより、たとえば魔族の中にも可愛い女の子とかいただろ?」

「まぁ、そりゃ私に寄ってくる女も男もそれなりにいたけれど……でも、私のこと叱ってくれたのはシュンくんが初めてだったから、かな」

「叱った? ああ、最初の時のあれか?」

 確かに、アザゼルに対して叱ったというか、怒った覚えがあるな。
 じゃあ――裏を返せば、こいつにはそんな経験すらなかったのだろうか。

「シュンくんのこと見てたら、こんなに弱いのにすごく強いなって思ってさ。すごくきらきらして見えて……初めて誰かを羨ましいなって思ってさ」

「…………」

「初めて自分の心臓が脈打ってるのを感じたよ。君のこと、もっとそばで見てたいなって思ったから会いに行って話をしたり、そうじゃない日もちょっと遠くから様子を見てたりしてたんだ。他の魔族との戦いで君が怪我をしないか心配でもあったし。気づいてたと思うけれど」

「…………」

 いや、全然気がついてなかったけれど。

 え、じゃあこいつ、他の日もおれの様子をどこかから見てたのか?
 マジか。おかしなことしてなかったろうな自分。

「だから、魔族を殺したことは私は怒ってないよ、その権利もないしね。だからシュンくんも気にしなくていいんだよ? そもそも魔族を殺さないと王国が蹂躙されてたでしょ」

「そういえば……おれのレベル上げのために魔族と戦わせたのは分かってるけれど、そもそもお前が魔族たちに厳命したら良かったんじゃないか? 王国の人たちを襲ったりしないように」

「いや、もちろん厳命してたよ! でも魔族って弱肉強食な価値観で、人間のことはもとから下に見てるからさぁ。むしろ、魔界からあの世界に来て『いけ好かない魔王の支配から開放されたから人間を襲いまくるぞ!』ってはしゃいでる子たちばっかりでさー」

「ああ、そういえばエレギナールもおれを殺そうとしてきたもんな……」

 側近だったエレギナールがあの調子でアザゼルの命令に逆らってたもんな。
 なら、他の魔族たちが命令に従わないのもすぐに想像できる。

「じゃあ魔族のことは抜きにして、おれがお前を騙して剣を持っていったこととか、黙ってこっちの世界に帰ってきたことはどう思ってるんだ? 怒ってないのか?」

「うん? まぁそれは、私も最初からシュンくんはそういうつもりなんだろうなって思ってたし。シュンくんって嘘つくの下手だよねぇ」

「…………」

「まぁ、私もあの時は悪かったなぁって思っててさ。シュンくんと一緒にいたいあまりに、君をしばりつけることばっかり考えてた。でも、シュンくんからすれば、こっちの世界にいる家族のところにすぐにでも帰りたかったよね。ごめんね」

「……はぁ、なんでお前が謝るんだよ」

 アザゼルがすまなさそうな表情で謝罪をするのに、おれは溜息をついて頭をがりがりと掻いた。

「おれの方が謝るべきだろ。くそ、お前がいつもそんなんだから……」

「じゃあさー、過去のことはお互い様ってことにしようよ。それよりも、これからの話をしない?」

「これから?」

「私、まだシュンくんのそばにいていいの?」

 珍しく、アザゼルは、おそるおそるといった様子で尋ねてきた。
 尋ねられたことの意味がわからず、おれは小首を傾げる。

 だって、そんなこと、今まで一度も尋ねてこなかったくせに。
 世界を跨いでまで押しかけてきたくせに、今さら何を言っているんだろう。

「べつに、そんなのお前の好きにすればいいだろ」

「え、シュンくんは私のことが嫌いなんじゃないの? だって私、無理やり君のこと犯したし」

 こいつマジか、とおれはアザゼルのことを見つめ返した。
 いつもならその要領の良さと思考能力で勝手に答えにたどり着いているくせに。

 おれは舌打ちをすると、そっぽを向いて唇を開いた。
 耳が熱くなっているのを感じる。

「別に……嫌いなんて一度も言ってないだろ。ああいうことを無理やりされるのは困るけれどな。でも、それ以外だったらお前の好きにすれば――って、うわっ!?」

 急にアザゼルに抱きしめられて、おれは驚きの声を上げてしまった。
 だが彼はそんなおれをさらに強く、痛いほどに両腕で抱きしめてくる。こいつ、自分の腕力のこと忘れてないか!?

「ア、アザゼル、痛いって……!」

「今の言葉って、シュンくんも私のことが好きだっていう意味に捉えていいのかい?」

「…………」

「答えてよ、シュンくん」

「ぁ、や、やだ、耳噛むなっ……ん、ぅ」

 耳の上部のやわらかい部分をアザゼルの唇で喰まれて、ぞくぞくとしたものが背筋を奔る。
 しかし、こちらが答えない限りアザゼルはおれの耳を甘噛みするのをやめるつもりはないようだ。おれは身体をよじってこそばゆさを堪えながら、なんとか唇を開いた。

「き、嫌いじゃないけれど……でも、そういう意味で好きなのかどうかはわからない、んっ。だ、だから今はまだちょっと……保留にさせてほしい、ふっ、だ、だからそこ噛むなって……ぅ、ぁっ」

「保留?」

「だから! ちゃ、ちゃんと真剣に考えてみるから、もう少し時間がほしいってことだよ! これで分かったか!?」

「うん、分かった。ありがとうね、シュンくん」

 アザゼルはおれの耳をようやく解放してくれた。
 そして今度はおれの顔に唇を寄せると、額や頬についばむようなキスを何度も落としてくる。

「いや、だから、お前のことは嫌いじゃないけど……こういうことをされるのは困るって言ってるだろ……んっ」

「でも、これからもシュンくんに魔力譲渡のためにキスやセックスはし続けるんだし。それなら普段からスキンシップはしておこうよ。用事がある時だけ身体をつなげるなんて、寂しいじゃない」

「…………」

 そういえば、今はアザゼルとの性行為によって魔力が潤沢にあるけれど……これも魔法を使い続けたら枯渇するよな。

 おれ的には一日に二回の初級魔法さえ使えればいいと思っていたが……やはりそれだけでは限度がありそうだ。
 今日はおれがゾンビに噛まれたが、アザゼルが同じことにならないとも限らない。その時に備えて、やはり魔力は余裕を持っておいたほうがよさそうだ。
 となれば、セックスはともかく、キスくらいはして魔力をもらっておいた方がいい。やっぱり魔法が使えると便利だしな。

「ふふ、じゃあ改めて、これからよろしくねシュンくん!」

「……うん」

「シュンくんに振り向いてもらえるように、私これからもっと頑張るから。シュンくんのためならなんでもするからね!」

「…………」

 にこにこと上機嫌でおれを抱きしめてくるアザゼルに、なんだか、もしかすると早まったかなぁという気がしないでもない。

 でも――もう少しだけなら、こうしててもいいかな、なんて思った。
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