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第33話
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その後、グレアムさんが竜騎士団の部下たちを招集し、ルクサール伯爵と金髪男は黒魔術使用未遂の疑いにより捕縛された。
とはいえ、竜の一撃を食らったルクサール伯爵は、命はとりとめたものの、全身にひどい怪我を負っていた。なんと、全治三ヶ月になる見込みとのこと。
ちなみに金髪男の方も同様の攻撃を食らったはずなのだが、彼の方は全身の打撲程度で済んでいた。多分、チート能力とやらの恩恵なのだろう。
そして、今のおれたちはというと――
「そちらにある肖像画の女性……ルクサール伯爵の奥様だそうなのですが。彼女は三年前に病にかかり、亡くなったそうです。療養のために王都を離れて、そのまま戻らなかったと……」
同情的な顔つきで語るのは神父様だ。
中庭から応接室へと場所を移したおれたちは、神父様が西ルムルで攫われてから今までのことを尋ねた。なにせ今回の事件で、一番気になる点は神父様がルクサール伯爵に攫われた理由だ。
ちなみに今、応接室以外の部屋――それこそ寝室や食料庫にいたるまで、竜騎士団の方々が家宅捜索をしている真っ最中だ。なので、いたるところからどたばたと家探しをする物音が響いてくる。
黒魔術の使用はこの国では重罪にあたる。そのため黒魔術に関連がありそうな資料や証拠を手当たり次第に押収するのだそうだ。また、お屋敷にいた使用人や親族の方々も、竜騎士団によって捕縛されるか、あるいは事情聴取をされている。
こんな夜中でなくとも、夜が明けてからでいいのではとも思ったが――時間をあけると、事件のことが中央騎士団の耳に入り、捜査を邪魔される可能性があるとか。
ルクサール伯爵は中央騎士団の高位の騎士だった。そのため、今回の件は中央騎士団にとってかなり不名誉な出来事となる。そのため、中央騎士団がルクサール伯爵を庇うために口を挟んでくる前に、早めに証拠を回収してしまいたいのだそうだ。
ちなみに、先日、西ルムルでお会いした第二番隊の隊長さんもこちらに来ていた。
グリフォン討伐から戻って早々、今夜は徹夜になるだろうとかわいた笑みを浮かべていた彼に、おれは何も言えなかった……
「――肖像画の女性が、ルクサール伯爵の奥方とは聞いていたが……亡くなっていたのか。しかし、王都で葬儀は出さなかったのか?」
「ええ、そのようです。奥様の遺言で、葬式は自身の家族だけで済まてほしいと」
神父様の言葉に、ルクサール伯爵が肖像画に向けていた眼差しを思いだす。
ならばルクサール伯爵は――
「じゃあ、もしかして……ルクサール伯爵は黒魔術で、亡くなった自分の奥様を蘇らせようとしていたんですか?」
おれの質問にグレアムさんは目を見開き、対して、神父様は神妙な顔で頷いた。
「ええ、その通りです。先ほど、ルクサール伯爵は、黒魔術のために必要になる素材を『グレイプニル種の竜の血、聖白銀、奥様の血縁にあたる人間の血肉』だと言っていたのを覚えていますか?」
「そう言っていましたね」
「貴方たちの手前、婉曲的な表現をしていたようですが……実際には私の心臓が必要になるのだそうです。黒魔術で呼び出した悪霊に私の心臓を捧げることによって、亡くなった奥様を蘇らせてもらうのだと言っていました」
「し、心臓!?」
じゃあルクサール伯爵は、やはり神父様を黒魔術の犠牲にするつもりだったのか。
奥様の病死には同情するけれど……それでも、神父様を生贄にしようとするなんて許せない。そもそも、そんな恐ろしい儀式で、本当に奥様が生前と同じ状態で戻ってくるのだろうか?
「儀式の詳細を聞かされたのは、私も貴方たちと引き合わされる直前でした。大人しくしていれば私1人の犠牲で済むが、抵抗すればグレアムやアオイを口封じに殺すと脅されて……」
「なっ……!」
「しかし、心臓が必要なら、睡眠薬で意識を失わせて連れてきたほうが手っ取り早いように思うがな。どうしてリンドはそうしなかったんだ?」
「儀式に捧げる心臓は、対象者の意識が失われている状態では駄目なのだそうです。生きた状態で、なおかつ意識がある状態で心臓を取り出さなければならないと言っていました」
「意識がある状態で心臓を……!?」
「え、えぐすぎますね。さすが黒魔術……」
というか、そんな恐ろしい選択を迫られて、神父様はそれでもおれとグレアムさんの命を優先してくださったのか……気持ちは嬉しいけれど、もっと自分を大切にしてほしい。
「ところで、エルトン……君がルクサール伯爵の奥方の血縁だというのは本当なのか? まあ、こうやって肖像画と見比べてみると確かな話だとは思うんだが」
グレアムさんの言う通りだ。
こうして実際に見比べると、肖像画の女性と神父様はとても似ている。最初に気づかなかったのが不思議なくらいだ。
なんというか、目鼻立ちのパーツや顔立ちはそこまで似ているわけでもないのだけれど……二人が纏っている穏やかな空気や、あたたかな笑顔がとてもそっくりなのだ。
「……そうですね、それは本当の話のようです」
神父様はそう言うと、自身の懐からある二枚の紙を取り出した。
どちらとも端は擦り切れてぼろぼろになっている。ちょっと力をこめたら、今にも破れてしまいそうだ。
「これは?」
「一枚は、私の出生証明書です。この屋敷に連れてこられた時に、ルクサール伯爵に渡されました。私の母はリィナ・パウエルという女性で……ルクサール伯爵の奥方の妹であったようです」
グレアムさんが手にとった紙を、おれも横から覗き込む。
その紙によると、リィナ・パウエルという女性は、パウエル男爵家から三十年前にある貴族家へ嫁ぎ、男児を一人出産していたそうだ。
だが、嫁ぎ先の貴族家はほどなくして没落したとも記されており、男児の家名部分が二重線で消されていた。
他にも、出生証明書の下部には、赤ん坊のものらしき小さな指紋の印が、黒インクでくっきりと押されている。
出生証明書の他にあったのは、一通の手紙だった。
こちらはインクが滲んでいて、ところどころ読めなくなっているが、どうやら女性が書いたもののようだ。
「この出生証明書にある指紋は、神父様のものと一致したんですか?」
「はい、全て一致しました」
「であれば、エルトンがリィナ・パウエルの遺児というのは本当のことなんだな……だが、リィナ・パウエルはどうしてパウエル男爵家に戻らなかったんだ?」
グレアムさんの問いに、神父様は顔を曇らせた。
「それが……その貴族家を政争争いによって取り潰したのが、実家であったパウエル男爵家だったそうなんです」
「えっ? 娘さんの嫁ぎ先ですよね?」
「はい……もともと両家には、長いあいだ確執があったそうです。その歩み寄りのためにパウエル男爵家から次女を嫁がせたそうなのですが、美女と評判だった長女が未婚だったのにも関わらず次女の方を嫁がせたことによって、逆に両家の溝は深まってしまったそうでして」
「両家の政争争いが激化し、最終的にパウエル男爵家が勝利したというわけか」
「はい。ですが、リィナ・パウエルは自分を切り捨てたパウエル男爵家を快く思わず、そのまま貴族家を出て市井にくだったそうです。そこで身分を偽り、赤ん坊の私を育てながら平民として暮らしていたということでした」
「それはすごい。リィナさん、すごく勇気のある女性だったんですね」
おれの言葉に、神父様はなぜか複雑そうな顔をした。
どうかしたのかと尋ねる前に、神父様はさらに話の先を続ける。
「ルクサール伯爵の奥方は、そんな妹に金銭的援助をしていたそうです」
「へぇ、姉妹仲が良かったんですね」
「ええ。二人は周囲には秘密で連絡を取り合っていたそうなのですが……ある日、リィナ・パウエルと、赤ん坊だった私たちは、そろって王都の平民の間で流行していた熱病にかかってしまったそうです。ちょうど、彼女に援助していた姉が、ルクサール伯爵家への輿入れが決まった頃のことでした」
「熱病……ですか」
「平民に身をやつしていた自分が姉を頼れば、その良縁を潰してしまうかもしれない……そう思ったらしくて、リィナ・パウエルは私と所持金のすべてを神学校の前に置いて、自分は救貧院へと入ったそうです」
「じゃあ、その後リィナさんは……?」
「……病が悪化して、亡くなったということでした」
おれもグレアムさんも、何も言えずに沈黙をした。
……この話を最初に知った神父様は、どれほどショックを受けて、どれほど辛い思いをしたのだろうか。
できることなら、その時に隣にいてあげたかった。
しばらくの沈黙の後、神父様は重苦しい溜息を一つ吐いた後に、ぽつりぽつりと話を続けた。
「ルクサール伯爵夫人は、連絡の途絶えた妹と、その子どもである私のことをずっと探してくれていたそうなのです。ですが、妹の死と私の行方を知った時には、ご自身も持病が悪化して療養のために王都を離れざるを得なくなったらしく……そこで、自分の夫であるルクサール伯爵に私宛の手紙をたくし、その上で『もしも自分が死んだら妹の子どもを気にかけてやってほしい』と言い残したということでした」
「えっ。じゃあ、ルクサール伯爵は、そんな遺言を託されていたのにも関わらず、神父様を黒魔術の犠牲にしようとしたんですか? 本末転倒というか、なんというか……」
「まったく愚かだな。話を聞いた限りでは、妹の子を犠牲にして生き永らえたいと思うような女性ではないだろうに」
おれとグレアムさんは、口々にルクサール伯爵の行いに対して悪態をついた。
しかし、意外にもそれを止めたのは神父様だった。
「それほどまでに奥様のことを愛していたんでしょう。それに、彼ならもうグレアムの竜によって十分な報いを受けたのですから、いいじゃありませんか」
「神父様は優しすぎますよ。もしかすると今夜殺されるかもしれなかったのに」
「そうかもしれませんが、その……誰かを好きになった時に、自分でも制御できない愚かな行動をするという事象には私も心当たりがあるので、他人をとやかく言えない立場かと思いまして……」
そう言って、神父様は頬をわずかにピンク色に染めながら、おれの顔をちらりと見た。
なんだろうと思って首を傾げると、慌てたように顔をそむけられてしまう。一体どうしたんだろう、本当に。
とはいえ、竜の一撃を食らったルクサール伯爵は、命はとりとめたものの、全身にひどい怪我を負っていた。なんと、全治三ヶ月になる見込みとのこと。
ちなみに金髪男の方も同様の攻撃を食らったはずなのだが、彼の方は全身の打撲程度で済んでいた。多分、チート能力とやらの恩恵なのだろう。
そして、今のおれたちはというと――
「そちらにある肖像画の女性……ルクサール伯爵の奥様だそうなのですが。彼女は三年前に病にかかり、亡くなったそうです。療養のために王都を離れて、そのまま戻らなかったと……」
同情的な顔つきで語るのは神父様だ。
中庭から応接室へと場所を移したおれたちは、神父様が西ルムルで攫われてから今までのことを尋ねた。なにせ今回の事件で、一番気になる点は神父様がルクサール伯爵に攫われた理由だ。
ちなみに今、応接室以外の部屋――それこそ寝室や食料庫にいたるまで、竜騎士団の方々が家宅捜索をしている真っ最中だ。なので、いたるところからどたばたと家探しをする物音が響いてくる。
黒魔術の使用はこの国では重罪にあたる。そのため黒魔術に関連がありそうな資料や証拠を手当たり次第に押収するのだそうだ。また、お屋敷にいた使用人や親族の方々も、竜騎士団によって捕縛されるか、あるいは事情聴取をされている。
こんな夜中でなくとも、夜が明けてからでいいのではとも思ったが――時間をあけると、事件のことが中央騎士団の耳に入り、捜査を邪魔される可能性があるとか。
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ちなみに、先日、西ルムルでお会いした第二番隊の隊長さんもこちらに来ていた。
グリフォン討伐から戻って早々、今夜は徹夜になるだろうとかわいた笑みを浮かべていた彼に、おれは何も言えなかった……
「――肖像画の女性が、ルクサール伯爵の奥方とは聞いていたが……亡くなっていたのか。しかし、王都で葬儀は出さなかったのか?」
「ええ、そのようです。奥様の遺言で、葬式は自身の家族だけで済まてほしいと」
神父様の言葉に、ルクサール伯爵が肖像画に向けていた眼差しを思いだす。
ならばルクサール伯爵は――
「じゃあ、もしかして……ルクサール伯爵は黒魔術で、亡くなった自分の奥様を蘇らせようとしていたんですか?」
おれの質問にグレアムさんは目を見開き、対して、神父様は神妙な顔で頷いた。
「ええ、その通りです。先ほど、ルクサール伯爵は、黒魔術のために必要になる素材を『グレイプニル種の竜の血、聖白銀、奥様の血縁にあたる人間の血肉』だと言っていたのを覚えていますか?」
「そう言っていましたね」
「貴方たちの手前、婉曲的な表現をしていたようですが……実際には私の心臓が必要になるのだそうです。黒魔術で呼び出した悪霊に私の心臓を捧げることによって、亡くなった奥様を蘇らせてもらうのだと言っていました」
「し、心臓!?」
じゃあルクサール伯爵は、やはり神父様を黒魔術の犠牲にするつもりだったのか。
奥様の病死には同情するけれど……それでも、神父様を生贄にしようとするなんて許せない。そもそも、そんな恐ろしい儀式で、本当に奥様が生前と同じ状態で戻ってくるのだろうか?
「儀式の詳細を聞かされたのは、私も貴方たちと引き合わされる直前でした。大人しくしていれば私1人の犠牲で済むが、抵抗すればグレアムやアオイを口封じに殺すと脅されて……」
「なっ……!」
「しかし、心臓が必要なら、睡眠薬で意識を失わせて連れてきたほうが手っ取り早いように思うがな。どうしてリンドはそうしなかったんだ?」
「儀式に捧げる心臓は、対象者の意識が失われている状態では駄目なのだそうです。生きた状態で、なおかつ意識がある状態で心臓を取り出さなければならないと言っていました」
「意識がある状態で心臓を……!?」
「え、えぐすぎますね。さすが黒魔術……」
というか、そんな恐ろしい選択を迫られて、神父様はそれでもおれとグレアムさんの命を優先してくださったのか……気持ちは嬉しいけれど、もっと自分を大切にしてほしい。
「ところで、エルトン……君がルクサール伯爵の奥方の血縁だというのは本当なのか? まあ、こうやって肖像画と見比べてみると確かな話だとは思うんだが」
グレアムさんの言う通りだ。
こうして実際に見比べると、肖像画の女性と神父様はとても似ている。最初に気づかなかったのが不思議なくらいだ。
なんというか、目鼻立ちのパーツや顔立ちはそこまで似ているわけでもないのだけれど……二人が纏っている穏やかな空気や、あたたかな笑顔がとてもそっくりなのだ。
「……そうですね、それは本当の話のようです」
神父様はそう言うと、自身の懐からある二枚の紙を取り出した。
どちらとも端は擦り切れてぼろぼろになっている。ちょっと力をこめたら、今にも破れてしまいそうだ。
「これは?」
「一枚は、私の出生証明書です。この屋敷に連れてこられた時に、ルクサール伯爵に渡されました。私の母はリィナ・パウエルという女性で……ルクサール伯爵の奥方の妹であったようです」
グレアムさんが手にとった紙を、おれも横から覗き込む。
その紙によると、リィナ・パウエルという女性は、パウエル男爵家から三十年前にある貴族家へ嫁ぎ、男児を一人出産していたそうだ。
だが、嫁ぎ先の貴族家はほどなくして没落したとも記されており、男児の家名部分が二重線で消されていた。
他にも、出生証明書の下部には、赤ん坊のものらしき小さな指紋の印が、黒インクでくっきりと押されている。
出生証明書の他にあったのは、一通の手紙だった。
こちらはインクが滲んでいて、ところどころ読めなくなっているが、どうやら女性が書いたもののようだ。
「この出生証明書にある指紋は、神父様のものと一致したんですか?」
「はい、全て一致しました」
「であれば、エルトンがリィナ・パウエルの遺児というのは本当のことなんだな……だが、リィナ・パウエルはどうしてパウエル男爵家に戻らなかったんだ?」
グレアムさんの問いに、神父様は顔を曇らせた。
「それが……その貴族家を政争争いによって取り潰したのが、実家であったパウエル男爵家だったそうなんです」
「えっ? 娘さんの嫁ぎ先ですよね?」
「はい……もともと両家には、長いあいだ確執があったそうです。その歩み寄りのためにパウエル男爵家から次女を嫁がせたそうなのですが、美女と評判だった長女が未婚だったのにも関わらず次女の方を嫁がせたことによって、逆に両家の溝は深まってしまったそうでして」
「両家の政争争いが激化し、最終的にパウエル男爵家が勝利したというわけか」
「はい。ですが、リィナ・パウエルは自分を切り捨てたパウエル男爵家を快く思わず、そのまま貴族家を出て市井にくだったそうです。そこで身分を偽り、赤ん坊の私を育てながら平民として暮らしていたということでした」
「それはすごい。リィナさん、すごく勇気のある女性だったんですね」
おれの言葉に、神父様はなぜか複雑そうな顔をした。
どうかしたのかと尋ねる前に、神父様はさらに話の先を続ける。
「ルクサール伯爵の奥方は、そんな妹に金銭的援助をしていたそうです」
「へぇ、姉妹仲が良かったんですね」
「ええ。二人は周囲には秘密で連絡を取り合っていたそうなのですが……ある日、リィナ・パウエルと、赤ん坊だった私たちは、そろって王都の平民の間で流行していた熱病にかかってしまったそうです。ちょうど、彼女に援助していた姉が、ルクサール伯爵家への輿入れが決まった頃のことでした」
「熱病……ですか」
「平民に身をやつしていた自分が姉を頼れば、その良縁を潰してしまうかもしれない……そう思ったらしくて、リィナ・パウエルは私と所持金のすべてを神学校の前に置いて、自分は救貧院へと入ったそうです」
「じゃあ、その後リィナさんは……?」
「……病が悪化して、亡くなったということでした」
おれもグレアムさんも、何も言えずに沈黙をした。
……この話を最初に知った神父様は、どれほどショックを受けて、どれほど辛い思いをしたのだろうか。
できることなら、その時に隣にいてあげたかった。
しばらくの沈黙の後、神父様は重苦しい溜息を一つ吐いた後に、ぽつりぽつりと話を続けた。
「ルクサール伯爵夫人は、連絡の途絶えた妹と、その子どもである私のことをずっと探してくれていたそうなのです。ですが、妹の死と私の行方を知った時には、ご自身も持病が悪化して療養のために王都を離れざるを得なくなったらしく……そこで、自分の夫であるルクサール伯爵に私宛の手紙をたくし、その上で『もしも自分が死んだら妹の子どもを気にかけてやってほしい』と言い残したということでした」
「えっ。じゃあ、ルクサール伯爵は、そんな遺言を託されていたのにも関わらず、神父様を黒魔術の犠牲にしようとしたんですか? 本末転倒というか、なんというか……」
「まったく愚かだな。話を聞いた限りでは、妹の子を犠牲にして生き永らえたいと思うような女性ではないだろうに」
おれとグレアムさんは、口々にルクサール伯爵の行いに対して悪態をついた。
しかし、意外にもそれを止めたのは神父様だった。
「それほどまでに奥様のことを愛していたんでしょう。それに、彼ならもうグレアムの竜によって十分な報いを受けたのですから、いいじゃありませんか」
「神父様は優しすぎますよ。もしかすると今夜殺されるかもしれなかったのに」
「そうかもしれませんが、その……誰かを好きになった時に、自分でも制御できない愚かな行動をするという事象には私も心当たりがあるので、他人をとやかく言えない立場かと思いまして……」
そう言って、神父様は頬をわずかにピンク色に染めながら、おれの顔をちらりと見た。
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