カイリーユと山下美那、Z(究極)の夏〜高2のふたりが駆け抜けたアツイ季節の記録〜

百一 里優

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第3章

3-22 ノー・クッキー

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【前回のあらすじ】
 オツとリユとの話に不安げな美那。「大丈夫だ」というリユの言葉にも不安を払拭ふっしょくできないが、リユの気持ちが伝わり、美那に笑顔が浮かぶ。気合の入ったMCモンスターズ・クッキーとの試合がいよいよスタート。コンビネーションからルーシーにシュートを打たれるが美那が渾身のブロックを見せる。



 試合開始から、わずか8秒のワンプレーを終えただけだけど、MCのメンバーたちの熱い気持ちをがっつり感じる。とはいえ、美那のファイトだって今まで以上だ。

 美那がボールをラインの外に出したので、もう一度MCの攻撃でチェックボールだ。
 トップのペギーに、俺がボールをワンバンで渡す。
 ペギーは俺に1on1を挑んでくる。
 と、思ったら、ルーシーのいる右のインサイド方向に低くて速いパスを出されてしまう。
 完全にきょを突かれた。
 ボールの向かう先に振り向くと、ルーシーが上手い位置どりでダイブしていく。
 美那は背後から追う形で、ディフェンスは厳しい状況だ!
 必死に追う美那を従えて、ルーシーは軽~くレイアップシュート。
 ボールはふわっとバスケットに吸い込まれていく……。
 そして、ルーシーが叫ぶ。
「クッキーーーーーー!」

 残り時間9分48秒。
(Z)0対2(MC)。
 くそっ! 完全に出し抜かれた。

 攻守交代。
 美那がボールを拾う。
 俺は右サイドに走る。
「美那!」
 俺は、走りながら、美那にパスを要求する。
 美那はルーシーにガードされているけど、俺の声に反応する。
 くるっと反転した美那は、ほとんどこっちを見ずに、ルーシーの脇の下を抜ける低いパスを出してくれる!
 俺のゼロ発進は確実にペギーよりも速い。それに、そもそも動きに主導権のある攻撃側が有利だ。
 ナイスパス!
 パスは通るけど、すぐにペギーもディフェンスに来る。

 今日の最初の2試合で少し分かったことがある。
 ボールを受けて時間をかけると、バスケ歴が長くて技術の高い守備の壁を破るのは難しい。追い込まれて、動けなくなって、トラベリングを取られちゃったりする。
 だけど、今みたいに、相手が若干遅れて来て、その止まった瞬間に動き出すと、相手は動きの慣性かんせいを止めようと踏ん張っているから、次のアクションが一瞬遅れて、かわせる可能性が高くなるっぽい。
 まあ、カイリー・アービングの動画で学んだことでもあるわけだが。

 俺は、ペギーが止まろうとしたタイミングで、ペギーが来た方向に動き出そうとする。
 想定通り、ペギーがやや遅れて反応する。
 で、俺はさらに逆を突いて、低い姿勢で反対側にドライブで突っ込もうとする。
 ペギーは、バランスを崩しながらも、ディフェンスに付いて来ようとする。
 そこで俺は、ボールを一度だけ床に突いてから、ボールをホールドしてステップバック。
 すると、ペギーは、完全にバランスを失った状態。
 十分な距離が取れた。
 そこから、得意の2Pシュートだっ!
 俺より数センチ背が高くて、ジャンプ力も結構あるペギーのディフェンスを避けて2Pを打つには、このくらいしないと難しい。

 ボールはいい感じに飛んでいくけど、ちょっとだけ長いか⁈
 やっぱり……リングの付け根辺りに当たったボールは、コートの中央付近にいた美那とルーシーのところに飛んでいく。
 ポジション争いの技術は、美那に一日いちじつちょうがあるのか? それにフィジカルでも美那の方が強いみたいだ。なにしろ、スクリプツのマッチョな女子0番にも結構抵抗できていたくらいだからな。
 ジャンプした美那がキャッチ。すぐさまその場でシュート!
 ルーシーがディフェンスを試みるものの、美那は上手く遠ざけている。
 ボールがリングを捉える。
 よっしゃっ!
 美那もガッツポーズをしている。

 残り時間9分40秒。
(Z)2対2(MC)。

 ルーシーがゴールから落ちたボールを取る。
 美那のマークを背負いながら、ゆっくりとしたドリブルでアークの外に戻る。オツは左サイドのテッドをがっちりマークしているし、俺も右側でペギーをしっかりらえているから、パスを出せないのだ。
 明らかに、俺たちZ—Fourのディフェンスも、気合が入りまくりだ。
 オツなんか、さっきからオフボールでもテッドとガツガツ身体をぶつけて、やりあっているっぽい。
 美那は両腕を広げて、ルーシーのドライブを阻止しようと立ちはだかっている。
 俺の目の前のペギーは虎視眈々こしたんたんとカットインの機会をうかがっている。この間のしおかぜ公園の時のゲームとは目つきが全然違う。というか、試合前よりも鋭い目つきになっている。

 ショットクロックはかなり経過しているはずだ。
 ペギーが、トップにいるルーシーに向かって動き出す。
 これはたぶん、スクリーンを使うプレーだ!
 ルーシーもこっちに動き出す。
 ボールが、ルーシーからペギーにトスされる。
 ペギーは、ルーシーの外側から、すかさずテッドに速いパス。
 と、ルーシーがコート中央に向かってカットして、美那にスクリーンをかける。
 今度はペギーが右側にカットしていく。俺はそれを追う。
 すると、美那にスクリーンをかけていたルーシーが、俺と美那の間からダイブ。
 そこにテッドが低いバウンスパスを出しやがる。
「カイリーユ!」
 思わず、美那が叫ぶ。
 俺はすでにルーシーに反応している。
 ルーシーがスピードに乗りながら、パスをキャッチして、ドリブルに入る。俺はその右を並走する。
 確かに俺の方が加速力がある。しかも、ドリブルしてねえから、一層速い。
 ルーシーが俺を感じたのが分かる。いや、もう視界のはしとらえているはずだ。
 ステップを踏んだルーシーが、俺に背中を向けるようにして、飛ぶ。
 同時に俺も飛んでいる。
 ルーシーは、ボールを右手から左手に持ち替えてダブルクラッチ、シュートを放つ。
 届く!
 交差するようにしてルーシーより高く飛んだ俺の右手が、ボールをらえる。
 下にたたく。
 ボールがラインを割る。

「っしゃぁっ!」
 思わず、俺は叫ぶ。
 美那に向かって、拳を挙げる。美那もガッツポーズで応えてくれる。まるでにらむような表情だけど、なんか瞳は優しげだ。
「美那さ~ん!」
 反対側のコートから聞き覚えのあるちょっと高い女の子の声。
 さっきの、おしゃべりな方の中バス女子が美那に手を振っている。
 それに続いて、「ナイス、ディっディフェンス!」と別の声。
 なんと、もう一人の、バスケに熱心な方の中バス女子が俺に向かって手を振ってくれるじゃん!
 もしかして、俺のファンになっちゃったのか? まさかな……。
 すると、今度は、すぐ横で悔しげにかがんでいたルーシーが両方の拳を握りしめて立ち上がる。
 そして、叫ぶ。
「ノー、クッキーーー!」
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