カイリーユと山下美那、Z(究極)の夏〜高2のふたりが駆け抜けたアツイ季節の記録〜

百一 里優

文字の大きさ
121 / 141
第3章

3-44 深まる苦悩

しおりを挟む
【前回のあらすじ】
 美那のまともなキスに戸惑い、心乱れるリユは、再び有里子に相談を持ちかける。有里子の答えは「美那ちゃんが異性としてリユくんを好き」というもの。リユは、美那と付き合いたいという願望を自分自身で封印してきたのでは? と有里子に指摘される。これまで暖めてきた香田真由への想いも断ち切れずにいるリユは、自分の本当の気持ちと向き合うことを決意する。



 有里子さんとの電話が終わってしばらくして、美那からメッセージが入った。
——>明日は午前中ルーシーを送っていくし、午後は部活、夕方は木村主将との練習があるから、サスケコートはなしね。
 むむ。
 さっきのキスのことは完全にスルーな感じのシンプルな内容だ。だけど、なんか、前みたく、突き放した感じでもない。なんとなく柔らかい。
 むむ。
 なんて、返信するか……。

 それにしても、美那が俺の彼女になるかも?
 でも、そうなっても、なんか、今までとそんな変わらない気もするな。
 いや、待て。
 付き合い始めたら、今日みたいなキスを毎日のようにするようになるわけ?
 え、それヤバイだろ。そのうち、たぶん、もっとディープなやつになっていったりして……なるよね、たぶん。
 そんな、今まで想像もしたことない関係になるよな、たぶん。
 それって、どうなのよ?
 そりゃ、男子としては、美那とそんな風になれるのは本望ほんもうなわけだが、今までみたいな友情は?
 友情は友情で続くか……たぶん。

 え、ちょっと、待て。
 長野からのバイトから帰ってきたあの日、俺は洗面所で美那のフルヌードを見てしまったわけだが、あの時美那は、「リユならいい」って言っていた。俺は勝手に、弟に見られたようなものだからどうってことない、って解釈していたけど、違ったのか? 好きなリユだから見られてもいい、ってことだったのか? そういうことなのか?
 だとすると、このところの美那の言動を俺はすべて誤解して、間違った解釈していたってことなる。全部、好きのあらわれだったってことなのか?
 最近、美那の仕草や俺に対する当たりが柔らかくなってきたこととか、女っぽくなったとか、そんな風に感じてたことは、全部、俺のことを男として好きだから?

 ちょっと待て。
 自称・恋愛予知能力者のナオさんは、練習試合の1ゲーム目をふたりで上から見ていた時、なんか言ってたよな?
 最近ナオさんが変なタイミングで笑うみたいな話題になって、なんだっけ? 美那が最近、「強そうな相手に嬉しそうで、バスケ部の時は強豪との対戦で気持ちがダウンする」とかいう話でナオさんがクスリ笑いした意味を、ナオさんは早い時点で俺にわかってもらいたい、とか言ってたな。
 あれはどういう意味だ?
 好きな俺と一緒に戦うから? まあ、俺と一緒にプレーして楽しそうだとは感じていたが、そういう意味だったのか? 早く美那の気持ちに気付いてあげて!——そういうナオさんのアドバイスだったのか?
 そういや、美那は、最近やたらと香田さんのことを気にしているみたいけど、それってもしかして、嫉妬しっとってやつ⁈
 そんなことまったく想像もしてなかったけど、一連の流れを考えると、あり得なくはないよな。

 え? 練習試合の前の日、香田さんから美術館に誘われた後、つっけんどんな返事が来たのも、それが原因? 試合の日も朝からなんかずっと不機嫌というか、無愛想というか、そんな感じだったのも、それが理由?
 いや、でも、今度の土曜日に予定が入った、とは連絡したけど、香田さんの名前はもちろん、女子とどこかに行くなんて話は出してないし、香田さんだってそんなこと美那に報告するほどの仲じゃないはずだよな。美那も、香田さんも、お互い時々言葉をわす程度な感じの言い方だったし。あの日の美那の不機嫌は、また別の何か理由があるんだろうな……難しい。難しすぎる。

 香田さんかぁ。
 終業式の日、駅までの帰り道、可愛かったよなぁ。
 美那とは全然、違うタイプだもんな。いやされるというか、目の前に存在するだけでホッとするような可憐かれんさだもんな。
 もしかして、俺って、気が多い駄目な男なのか? 前田俊みたいなクソ野郎なのか? 香田さんと美那との間を目移りして。
 てか、今まであまりにも何もなさすぎて、そこへ来て、この状況だ。まだそうと決まったわけじゃないけど、有里子さんの理解では、俺は今、美那と香田さんという誰もがうらやむようなふたりの素晴らしい女子から想いを寄せられている、ってことになる。柳本に知られたら殺されるな、マジで。
 明後日あさっての土曜日は、もう香田さんと美術館に行く日だもんな。こんな、人生で二度とないであろう究極の選択を、たった二日で決断しなきゃならないのかぁ? 
 いや、まあ、土曜日に、普通に、香田さんから「やっぱり森本くんはナイかな」とか思われる可能性も否定できないわけだが。
 でもそうなってから美那の気持ちを受け入れるというのも、美那に対して失礼だ。
 だったらやっぱり、香田さんと会うまでに——もし有里子さん説が正しいのであれば——ある程度決断しておくべきだよな。それなりの覚悟で香田さんと会うべきだろう。
 ただ、考えてみると、俺はまだ香田さんのこと、よく知らないんだよな。
 逆に美那のことは、ある意味、よく知りすぎてるしな。もちろん、心の中はまったく読めていなかったわけだけど。

 トントン、といきなりドアをノックする音に身体からだがビクッとして、尻が椅子から浮き上がる。
「ねえ、どうかした?」と、かーちゃん。
「あ、いや、別に」
「なら、いいけど。もうひと仕事したいから、もしよかったら、先にお風呂に入ってくれる?」
「ああ、うん、わかった」
 うぇー、びっくりした。完全に自分の世界に入り込んでたからな。やっぱり、帰宅した時の俺のかーちゃんに対する対応は、かなりの違和感だったのだろう。うわそらもいいところだった。終業式の香田さんの時もそんな感じだったっけな。
 洗面所に行くと、美那の裸を思い出す。
 ほんと美那はスタイルいいよな。グラマラスってのとは違うけど、全体的に締まってるくせに、女性らしいところはそれなりに女性らしい。
 あ、やば、思い出すと……。
 俺は完全に美那を女性として見てる。少なくとも身体はそういう反応を示す。まあ、別にグラビアみたいなの見ても、そういう反応はするけど……。ただ、意識では、美那をそういう風な目で見ないよう、見ないよう、と気をつけてきた。香田さんに至っては、そんな目で見ないし、ある意味、偶像アイドル化しちゃってるもんな。香田さんの内面とか全然、わかんないもんなぁ。そういう意味では、美那のことを、美那の女性の部分を、俺は神聖化しちゃってる感じもする。親友としては全然そんなことないけど。

 気がつくと、俺は風呂から上がって、頭も乾かして、ベッドに座っていた。
 しまった。美那への返信を忘れてた。スマホを見て、思い出した。
 なんて言い訳しよう。風呂入ってたとか、うたた寝してたとか、あのキスの後にあり得ないな。だからといって、美那と香田さんのはざまで悩んでたとも言えねえし。既読スルーもなんだしな。ま、すぐに返信がない時点で、美那も俺が戸惑ってるとか思ってるだろうな。
 だけど、あれって、美那にしてみればコクったようなもので、それで返信がないのは不安な気持ちになるよな。完全に拒否キョヒられたとか思って。もし、逆の立場だったら、そうなるよな。
 だったら先延さきのばしはできない。
<——うん、わかった。じゃ、夕方な。返事、遅くなってゴメン。
 こんな感じか。よし、エイ。
 う、すぐに既読が付いた。
 ま、でも、たぶん、俺の心が動揺しまくってる感じは伝わったんじゃないかな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わり、転校してきたのは、初恋の相手だった——。 鬱々とした気分で二学期の初日を迎えた高須明希は、忘れかけていた記憶と向き合うことになる。 名前を変えて戻ってきたかつての幼馴染、立石麻美。そして、昔から気になっていたクラスメイト、河西栞。 親友の田中浩大が麻美に一目惚れしたことで、この再会が静かに波紋を広げていく。 性と欲の狭間で、歪み出す日常。 無邪気な笑顔の裏に隠された想いと、揺れ動く心。 そのすべてに触れたとき、明希は何を守り、何を選ぶのか。 青春の光と影を描く、"遅れてきた"ひと夏の物語。   前編 「恋愛譚」 : 序章〜第5章 後編 「青春譚」 : 第6章〜

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...