手癖の悪い娘を見初めた婚約者「ソレうちの娘じゃないから!」

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
2 / 8

お馬鹿同士の出会い

しおりを挟む
「まったく不愉快極まりない!相手が公爵家だからと毎回なぜ俺が向かわなければならん!」
ルワンは庭園をノシノシと歩き不平を漏らす、侍従達は黙って後を追う。決して諌言など口にしない、癇癪を起されたら面倒だからだ。

「なにが初恋だ、あんなすかした女など一生好きになるものか!だいたいだな……うわっ!」
「きゃっ!?」
ルワンが垣根を曲がろうとした時だ、誰かとぶつかってしまった。
カッカしていた所に邪魔が入り激高するルワン。

「誰だ!転んだら汚れるだろうが!洗濯代を請求するぞ!」
「ひっ……申し訳ございません……わたし、わたし、あぁどうしましょう」
薄茶の髪をツインテールに結んだ小柄な女性が、縮こまって座り込んでいた。
焦げ茶の大きな瞳を潤ませルワンを上目つかいで見つめている、それは庇護欲を掻き立てる姿だった。
小花を散らしたレモンイエローのドレスがとても似合っている。

「な、なんて可憐で愛らしいんだ!キミ、名前は?」
「え?わたしはミルフィです……失礼しました」
少女は恥じらうような仕草で困った困ったとしきりに呟き、ポロポロ涙を流した。

「あぁすまない、怒ってないよ。それより素敵なドレスを汚してしまったね。そうだ、お詫びに新しいのを買いに行こう」
「え!?で、でも困ります。わたしは洗濯仕事がありまして」
(困ったわ、洗濯前のお嬢様のドレスをこっそり着てたのバレちゃう!クビだわ!)


「なんだって?令嬢のキミが洗濯させられてるなんて!そんなの許されない!そうか、きっとあのクソブスがやらせてるんだな!あの気が強そうな相貌はやはり性悪なんだ!」
「え……?」
(何言ってんのコイツ!?わたしのこと令嬢と間違えてんの?バカ?)

「さあさあ、遠慮は要らないよミルフィ嬢。流行りのドレスを仕立てようじゃないか!」
ぐいぐい押しの強いお貴族様に洗濯メイドはアワアワ、身分を正すのも言えず馬車に押し込められてしまう。
それに丁寧な扱いを生まれて初めて体験した少女は浮かれた。加えて見目だけは上等の腹黒令息にうっとり見惚れてしまう。

プラチナブロンドにアイスブルーの整った顔立ちは、絵本で読んだ憧れの王子そのものだった。
(だ、だいじょうぶ!ほんのちょっと夢を見るだけよ、いまだけ仮初の姫気分を味わうだけ)

「それくらい神様も許してくれるわよね……」
揺れる馬車の中、小さな呟きは誰にも聞こえない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたに婚約破棄されてから、幸運なことばかりです。本当に不思議ですね。

香木陽灯
恋愛
「今まではお前が一番美人だと思っていたけれど、もっと美人な女がいたんだ。だからお前はもういらない。婚約は破棄しておくから」 ヘンリー様にそう言われたのが、つい昨日のことのように思い出されます。別に思い出したくもないのですが、彼が我が家に押しかけてきたせいで思い出してしまいました。 婚約破棄されたのは半年も前ですのに、我が家に一体何の用があるのでしょうか。 「なんでお前なんかが……この数ヶ月の出来事は全て偶然なのか?どうしてお前ばかり良い目にあうんだ!」 「本当に不思議ですねー。あなたに婚約を破棄されてから、良いことばかり起きるんですの。ご存じの通り、我が領地は急激な発展を遂げ、私にも素敵な婚約話が来たのです。とてもありがたいですわ」 子爵令嬢のローラ・フィンレーは、第三王子のヘンリーに婚約を破棄されて以来、幸運なことばかり起きていた。 そして彼女が幸運になればなるほど、ヘンリーは追い詰められていくのだった。

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

最難関の婚約破棄

灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
婚約破棄を言い渡した伯爵令息の詰んでる未来。

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

だってわたくし、悪役令嬢だもの

歩芽川ゆい
恋愛
 ある日、グラティオーソ侯爵家のラピダメンテ令嬢は、部屋で仕事中にいきなり婚約者の伯爵令息とその腕にしがみつく男爵令嬢の来襲にあった。    そしていきなり婚約破棄を言い渡される。 「お前のような悪役令嬢との婚約を破棄する」と。

婚約破棄されたけど、今さら泣かれても遅いですわ?

ほーみ
恋愛
「リリアナ・アーデル。君との婚約は――今日をもって破棄する」  舞踏会の真ん中で、王太子エドガー殿下がそう宣言した瞬間、ざわりと会場中の空気が揺れた。  煌びやかなシャンデリアの下、無数の視線がわたくしに集まる。嘲笑、同情、好奇心。  どれも、わたくしがこれまで何度も浴びてきた視線だ。  けれど、今日は違う。  今日、ようやく――この茶番から解放される。 「理由をお聞かせいただけますか、殿下?」  わたくしは冷静に問い返す。胸の奥では、鼓動が少しだけ早まっていた。

殿下は私を追放して男爵家の庶子をお妃にするそうです……正気で言ってます?

重田いの
恋愛
ベアトリーチェは男爵庶子と結婚したいトンマーゾ殿下に婚約破棄されるが、当然、そんな暴挙を貴族社会が許すわけないのだった。 気軽に読める短編です。 流産描写があるので気をつけてください。

地味だからいらないと婚約者を捨てた友人。だけど私と付き合いだしてから素敵な男性になると今更返せと言ってきました。ええ、返すつもりはありません

亜綺羅もも
恋愛
エリーゼ・ルンフォルムにはカリーナ・エドレインという友人がいた。 そしてカリーナには、エリック・カーマインという婚約者がいた。 カリーナはエリックが地味で根暗なのが気に入らないらしく、愚痴をこぼす毎日。 そんなある日のこと、カリーナはセシル・ボルボックスという男性を連れて来て、エリックとの婚約を解消してしまう。 落ち込むエリックであったが、エリーゼの優しさに包まれ、そして彼女に好意を抱き素敵な男性に変身していく。 カリーナは変わったエリックを見て、よりを戻してあげるなどと言い出したのだが、エリックの答えはノーだった。

処理中です...