手癖の悪い娘を見初めた婚約者「ソレうちの娘じゃないから!」

音爽(ネソウ)

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人の話はちゃんと聞け(ミルフィの嘆き)

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ボンヤリと現実逃避してたら馬車は貴族街の高級商店街に着いての!
洗練された仕立て屋でドレスを3着注文されちゃった、来ていく場所がないってば。
そう訴えたら……。

「なんてことだ!茶会にさえ呼ばれてないのか、あのクソブスが意地悪しているんだろう。可哀そうに!心配ないぞミルフィ嬢、次の夜会でエスコートをしてあげよう!」
「や、夜会!?」
ムリムリ、なにを言ってるの作法も知らないし、ダンスなんてできないわよ!

「困ります!夜会って踊るのでしょう?習ってませんもの」
「なんてことだ!……くそ、家族にまで君は虐げられてるのだね。ろくな淑女教育もさせないだなんてあんまりだ!」

ミルフィが否定や断る度に目の前の男は曲解していく、ますます焦るミルフィは涙目で訴える。
「お願いです、無理です……こんなこと(お嬢様の婚約者にドレス貰ったなど)バレたらオリヴィエ様に知れたら」
「だいじょうだ!クソブスの姉なんてこの俺が撃退してくれよう!大船に乗ったつもりでいたまえ」

ちょ!大船じゃねーよ!泥船だよ!溺死不可避な案件だよ!
オリヴィエ様がわたしの姉とか言ってる!?なんでそーなった!ぜんぜん似てないでしょーが!
早く誤解をとかないと!

「あ、あのわたしはですね!オリヴィエさmゴキュルルルル……グギュー」
いやぁ!腹の虫が鳴いたー!

「おや、お昼を食べてないのかい?そーだ!評判のカフェが近くにあるんだ、軽食をつまみに行こう」
「え、ちょ……困りますー!わたしは帰って洗濯の仕事がぁああ!」

貴族の令嬢は洗濯などをしないよと強引に連れられてしまった。
だーれーかー!

***

屋敷に戻れたのは夕刻で、すっかり陽が落ちた時間だったの。
とうぜん洗濯は出来てなくて――。

「いったい何をしていたんですか!シーツ一枚洗ってないでしょう!」
「す、すみません……わたしあの」
怒り狂った侍女長は言い訳さえ聞いてくれなかった。
つぎにサボったら追い出すって言われてしまった、どうしよう紹介状は期待できない。

そうだ、あのお貴族様に会わなきゃいい。
洗濯場は屋敷の裏手だもの、庭園のほうへ行かなきゃ遭遇しようもないわ!

明日からは真面目にやります!


……でも素敵な一日だったわ、王子みたいな人は手にキスをしてきて。
「きょうは楽しかったよ、ミルと呼んでいいかい?」なんて蕩けるような優しい笑みをくれた。
仮初の御姫様は悪くなかった!

連れて行かれたカフェは夢心地だったわ。
ミルクたっぷりの紅茶に、とろとろチーズのホットサンド。
デザートは新鮮な果物が散らされた生クリーム山盛りのスフレケーキで、宝石みたいにキラキラしていた。

「あんなデザートは賄いでなんてでないわよねぇ」
思い出してニヤニヤしてたら、同室のメイドの子達に変な目で見られちゃった。

儚い夢だったわ。
下女用の質素な大部屋を見渡し現実は厳しいと嘆いた。

いろいろあって疲れていた私は仕立てたドレスのことをスッカリ失念していたの。
まさかあんな騒ぎになるなんて……。
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