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それは季節の変わり目だった、秋口になり寒さが忍び寄るようになった頃。
母アリーヌの体調が芳しくなく、日々の散歩も目に見えて減ってきていた。突然の事にロザリーは震えてこのまま儚くなったらどうしようと思った。
「時期が早すぎる……でもいつ何時変化するかわからないもの」
人生2週目だというのに、やはり運命は替えられないのかと嘆いた。父はといえば「やはり散歩などしたせいだ」と言葉を荒げていた。
「待って下さい!散歩はお母様を元気にしておりました!別の理由があるはずです!」
「……とにかく医者を呼ぶ、話は後だ」
「はい」
心ここにあらずの状態で母の容態を考えた、寝室から遠ざけられたロザリーは気が気ではない。新しく雇ったメイドが「お嬢様は心配なさらず」と声を掛けてくれたが右から左だった。
「あぁ……お母様、どうか神様連れて行かないで!」
木枯らし吹き荒れる中で庭先に出て悲しむ彼女に、ガサリと音を立てて様子を見ていたクレマンが「なにがあったの?」と気遣う声を掛けて来た。
「あ、クレマン……お母様が病に倒れて」
「なんだって!それは良くない、でもボクらは何もできないな」
「そうね……」
いまにも泣き出しそうなロザリーの顔を見て、クレマンは勇気ずけるように言った。
「ボクも神に祈るよ!だからきっと大丈夫!一緒に祈ろうロザリー」
「うん、ありがとう……」
***
「は?いまなんて?」
「はい、ですからお目出度でございます。バイヤール卿、二人目の御子がいるのです」
医者の力強い言葉に卿は腰が砕けそうになった。
「は、はは……それは真か」
思ってもいなかった朗報にテレンツォは茫然としていた、いまはまだ性別は不明だったが確かにアリーヌの腹には新しい命が芽生えていると言う。
その報せは間もなくロザリーの耳にも届き大いに喜びに満ちた。
「お母様に御子が私に妹か弟が出来るのね!なんて素晴らしいの!」
「おめでとうございます、お嬢様」
「ええ、ありがとう!」
早速とクレマンに報せたいと思ったロザリーは一目散に生垣のほうへ走って行った。
「クレマンいる?お母様は御病気ではなかったの、御子が赤ちゃんが出来たのよ!」
「それは本当かい?やったじゃないか!」
「ええ、その通りよ。良かった、良かったわ」
満面の笑みを浮かべるロザリーには喜びの涙が溢れていた、クレマンも釣られて微笑み「やったやった!」と飛び跳ねる。ふたりは暫く喜びを分かち合うとクレマンは「お勉強の時間だから」と去っていった。
「あぁ、良かった。私の早とちりだったのだわ、でも違う方向で心配なことになりそう」
人生二度目の5歳は思いがけずお目出度いことになったのだが、こうなると父の出方が心配だと思うのだ。
案の定、父テレンツォは必要以上に神経質になり、日々の散歩も全面中止だと言い放つ。
「お父様、御心配はわかりますが、もう少し母を自由にしてあげてください」
父にお母様を思うならばもっと自由にして欲しいと懇願するのだ。
「……どうしてそのような事を言う、私はアリーヌさえいれば何も要らない」
「まぁ、お父様!どうしてそのような事を御子に何かありましたら許しませんよ!」
「な、なにを?」
アリーヌに瓜二つのロザリーに捲し立てられた卿はしおしおとなってしまう。誰よりも妻を愛しているとはいえ、その言動はいかがなものかと問いただす。
「わ、わかった……そのように怒ってくれるな。まったく……アリーヌにソックリの顔で」
バツが悪い卿は面倒そうにしながらも折れた。これまで通り散歩をしても良いと許可を捥ぎ取ったのだ。
「ありがとう御父様!」ロザリーは思わず卿に抱き着いて感謝を述べた。
「っ!……よ、よさないか、感謝される覚えはない」
あからさまに狼狽える父に気を良くするロザリーは離せと言われるまで傍にいたのだ。
「これ、この花を……その」
ぶっきら棒に話して来る彼に戸惑いながらも花を受け取るロザリーである。
「冬に花をみつけるなんて、素晴らしいわ。お母様に届けるわね」
「う、うん。野端の花で申し訳ないんだけど」
それは黄色いタンポポの花だった、彼女はクレマンの心使いに感謝した。やがて二人は嬉しそうに笑い合って油断していた。
「そこで何をしているのだ、クレマン」
「っ!?父上……」
母アリーヌの体調が芳しくなく、日々の散歩も目に見えて減ってきていた。突然の事にロザリーは震えてこのまま儚くなったらどうしようと思った。
「時期が早すぎる……でもいつ何時変化するかわからないもの」
人生2週目だというのに、やはり運命は替えられないのかと嘆いた。父はといえば「やはり散歩などしたせいだ」と言葉を荒げていた。
「待って下さい!散歩はお母様を元気にしておりました!別の理由があるはずです!」
「……とにかく医者を呼ぶ、話は後だ」
「はい」
心ここにあらずの状態で母の容態を考えた、寝室から遠ざけられたロザリーは気が気ではない。新しく雇ったメイドが「お嬢様は心配なさらず」と声を掛けてくれたが右から左だった。
「あぁ……お母様、どうか神様連れて行かないで!」
木枯らし吹き荒れる中で庭先に出て悲しむ彼女に、ガサリと音を立てて様子を見ていたクレマンが「なにがあったの?」と気遣う声を掛けて来た。
「あ、クレマン……お母様が病に倒れて」
「なんだって!それは良くない、でもボクらは何もできないな」
「そうね……」
いまにも泣き出しそうなロザリーの顔を見て、クレマンは勇気ずけるように言った。
「ボクも神に祈るよ!だからきっと大丈夫!一緒に祈ろうロザリー」
「うん、ありがとう……」
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「は?いまなんて?」
「はい、ですからお目出度でございます。バイヤール卿、二人目の御子がいるのです」
医者の力強い言葉に卿は腰が砕けそうになった。
「は、はは……それは真か」
思ってもいなかった朗報にテレンツォは茫然としていた、いまはまだ性別は不明だったが確かにアリーヌの腹には新しい命が芽生えていると言う。
その報せは間もなくロザリーの耳にも届き大いに喜びに満ちた。
「お母様に御子が私に妹か弟が出来るのね!なんて素晴らしいの!」
「おめでとうございます、お嬢様」
「ええ、ありがとう!」
早速とクレマンに報せたいと思ったロザリーは一目散に生垣のほうへ走って行った。
「クレマンいる?お母様は御病気ではなかったの、御子が赤ちゃんが出来たのよ!」
「それは本当かい?やったじゃないか!」
「ええ、その通りよ。良かった、良かったわ」
満面の笑みを浮かべるロザリーには喜びの涙が溢れていた、クレマンも釣られて微笑み「やったやった!」と飛び跳ねる。ふたりは暫く喜びを分かち合うとクレマンは「お勉強の時間だから」と去っていった。
「あぁ、良かった。私の早とちりだったのだわ、でも違う方向で心配なことになりそう」
人生二度目の5歳は思いがけずお目出度いことになったのだが、こうなると父の出方が心配だと思うのだ。
案の定、父テレンツォは必要以上に神経質になり、日々の散歩も全面中止だと言い放つ。
「お父様、御心配はわかりますが、もう少し母を自由にしてあげてください」
父にお母様を思うならばもっと自由にして欲しいと懇願するのだ。
「……どうしてそのような事を言う、私はアリーヌさえいれば何も要らない」
「まぁ、お父様!どうしてそのような事を御子に何かありましたら許しませんよ!」
「な、なにを?」
アリーヌに瓜二つのロザリーに捲し立てられた卿はしおしおとなってしまう。誰よりも妻を愛しているとはいえ、その言動はいかがなものかと問いただす。
「わ、わかった……そのように怒ってくれるな。まったく……アリーヌにソックリの顔で」
バツが悪い卿は面倒そうにしながらも折れた。これまで通り散歩をしても良いと許可を捥ぎ取ったのだ。
「ありがとう御父様!」ロザリーは思わず卿に抱き着いて感謝を述べた。
「っ!……よ、よさないか、感謝される覚えはない」
あからさまに狼狽える父に気を良くするロザリーは離せと言われるまで傍にいたのだ。
「これ、この花を……その」
ぶっきら棒に話して来る彼に戸惑いながらも花を受け取るロザリーである。
「冬に花をみつけるなんて、素晴らしいわ。お母様に届けるわね」
「う、うん。野端の花で申し訳ないんだけど」
それは黄色いタンポポの花だった、彼女はクレマンの心使いに感謝した。やがて二人は嬉しそうに笑い合って油断していた。
「そこで何をしているのだ、クレマン」
「っ!?父上……」
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