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その後、前回はあまり接点がなかったはずのクレマンが離れにやってくるようになった。
動揺を隠せないロザリー、まだ六つのクレマンは八つ当たりする様子もなく穏やかに見えた。
だが、油断ならないと警戒することを忘れないでいた。
「そうよ、腹に内では何を考えているかわからないもの」
そうして彼がやってくると堅い表情で応対していた、それでも人懐っこくクレマンは満面の笑みでやってくる。どういうつもりなのかと彼女は困惑しきりだ。
「ねぇ、まだ名前は教えてくれないの?」
「……無理」
「ええ~それじゃ君をどう呼べば良いかわからないよ」
「どうしてそこまでして聞きたがるの?訳が分からない」
「え、どうしてって」
クレマンはしばし考えこんでから「仲良くしたいから」と答えた。それはロザリーにとって衝撃だった、あれほど憎しみを込めた仕打ちをしていながらと恨みがかった目で相手を睨む。
だがクレマンは物怖じせず「どうか笑って欲しい」と言ってくる。
「呆れた……私は貴方を……」
「うん、なあに?」
そこへ母親のアリーヌがやって来て「何方かいらっしゃるの?」と声を掛けて来た。
「あ、お母様……これは」
「あ」
生垣から顔をひょっこり出している少年の方を見て、母は「あらまぁ」と驚きを隠せずに声を荒げた。母は彼の事を知っている様子で取り繕う微笑みを返していた。
「いらっしゃい坊ちゃま、でもここには長居してはいけないわ」
「……う。はい、わかってます。でも……」
しどろもどろのクレマンは視線を下に向けて項垂れていた。やはり離れに来てはいけないと忠告を受けていたらしい。
「貴方のお母様が悲しみますよ、あぁでもそうね。私が庭を一周分している間は目を瞑りましょうか」
「ほんとですか!?やったぁ!」
「お、お母様……」
許可を出したことに吃驚する二人に「ふふ」と笑って去って行くアリーヌは悪戯が成功した少女のようだった。
近頃が体力がついたのか十分ほど散策しているアリーヌは健康を取り戻そうと躍起になっていた。
「おば様は良く顔を出しているの?いままでは見たことがないよ」
「……そうね、不健康な生活から脱しているのよ」
「ふ~んそっかぁ、お日様の下にいるならきっとダイジョブだよ!」
「そ、そう」
にこやかに話すクレマンに彼女はドキマギして、どう反応して良いかわからない。気を許してはいけないと思いつつ絆されている自分に気が付いていた。
「私は貴方が歪んでしまわないか不安だわ」
「ゆがむ?どういう意味なのかな、キミが話す言葉は時々難しいなぁ」
十六年間の記憶が邪魔をしていて、本当に歪んでいるのは自分なのではないかと怖くなった。目の前の少年は屈託のない笑顔のまま、あれやこれやと話している。
もしも、このまま成長したらあのような牙を剥く青年にはならないのではと考えた。だが、どこか恐ろしいものを抱いているのも事実なのだ。
「ドロシーよ、私の名はドロシー」
「え!?ドロシー、キミの名はドロシーなのか!やったぁ!やっと教えてくれたね」
クレマンは大切な言葉のように「ドロシー」と呼んだ。
果たしてクレマンはこのまま真っ直ぐに成長するのか、一抹の不安を抱えながら彼女は様子を見ることにした。
動揺を隠せないロザリー、まだ六つのクレマンは八つ当たりする様子もなく穏やかに見えた。
だが、油断ならないと警戒することを忘れないでいた。
「そうよ、腹に内では何を考えているかわからないもの」
そうして彼がやってくると堅い表情で応対していた、それでも人懐っこくクレマンは満面の笑みでやってくる。どういうつもりなのかと彼女は困惑しきりだ。
「ねぇ、まだ名前は教えてくれないの?」
「……無理」
「ええ~それじゃ君をどう呼べば良いかわからないよ」
「どうしてそこまでして聞きたがるの?訳が分からない」
「え、どうしてって」
クレマンはしばし考えこんでから「仲良くしたいから」と答えた。それはロザリーにとって衝撃だった、あれほど憎しみを込めた仕打ちをしていながらと恨みがかった目で相手を睨む。
だがクレマンは物怖じせず「どうか笑って欲しい」と言ってくる。
「呆れた……私は貴方を……」
「うん、なあに?」
そこへ母親のアリーヌがやって来て「何方かいらっしゃるの?」と声を掛けて来た。
「あ、お母様……これは」
「あ」
生垣から顔をひょっこり出している少年の方を見て、母は「あらまぁ」と驚きを隠せずに声を荒げた。母は彼の事を知っている様子で取り繕う微笑みを返していた。
「いらっしゃい坊ちゃま、でもここには長居してはいけないわ」
「……う。はい、わかってます。でも……」
しどろもどろのクレマンは視線を下に向けて項垂れていた。やはり離れに来てはいけないと忠告を受けていたらしい。
「貴方のお母様が悲しみますよ、あぁでもそうね。私が庭を一周分している間は目を瞑りましょうか」
「ほんとですか!?やったぁ!」
「お、お母様……」
許可を出したことに吃驚する二人に「ふふ」と笑って去って行くアリーヌは悪戯が成功した少女のようだった。
近頃が体力がついたのか十分ほど散策しているアリーヌは健康を取り戻そうと躍起になっていた。
「おば様は良く顔を出しているの?いままでは見たことがないよ」
「……そうね、不健康な生活から脱しているのよ」
「ふ~んそっかぁ、お日様の下にいるならきっとダイジョブだよ!」
「そ、そう」
にこやかに話すクレマンに彼女はドキマギして、どう反応して良いかわからない。気を許してはいけないと思いつつ絆されている自分に気が付いていた。
「私は貴方が歪んでしまわないか不安だわ」
「ゆがむ?どういう意味なのかな、キミが話す言葉は時々難しいなぁ」
十六年間の記憶が邪魔をしていて、本当に歪んでいるのは自分なのではないかと怖くなった。目の前の少年は屈託のない笑顔のまま、あれやこれやと話している。
もしも、このまま成長したらあのような牙を剥く青年にはならないのではと考えた。だが、どこか恐ろしいものを抱いているのも事実なのだ。
「ドロシーよ、私の名はドロシー」
「え!?ドロシー、キミの名はドロシーなのか!やったぁ!やっと教えてくれたね」
クレマンは大切な言葉のように「ドロシー」と呼んだ。
果たしてクレマンはこのまま真っ直ぐに成長するのか、一抹の不安を抱えながら彼女は様子を見ることにした。
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