完結 とある令嬢の都合が悪い世界 

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
1 / 23

悪夢を見た朝に

しおりを挟む
その晩、彼女はとても不愉快で悲しい夢を見て魘されていた。

『嫌よ行かないで!私は貴方がいれば何も要らないの!お願いよ!あの事は何も咎めないから!だから、お願い……貴方だけは側にいてよ』
見覚えのない面差しの男性が誰かの視点を通して自分を見てくる、その人物はとても冷たい目をしていた。縋って来る女性を心底毛嫌いしてるようだ、無関係のはずの己の心が泣き叫ぶ女と同調して悲愴感でいっぱいになった。

待ってという哀願を無視してその男性は『忘れろ』と言って去って行く。なんて慈悲の欠片もないことか。
誰かが号泣する声が頭にガンガン響いて辛い心で狂いそうだ。
『見捨てないで』と自分の口から零れた、泣く女と同調し過ぎた彼女は苦しくて仕方がない。


「ううん、変な夢ねぇ……」
頭痛のせいで目覚め、漸く悪夢から解放された彼女はボンヤリした視界に映るいつもの天井を見て息を吐いた。苦しかった心中がまだ奥の方でドクドクと煩い。そして、頭の下の枕が涙で濡れて酷く冷たかった。

「好きでない男に捨てられる夢を見たわ……とっても不快」
朝の支度に訪れた侍女に悪夢のことを打ち明けた、彼女は苛立ちながら顔を洗い口を漱いだ。
「まぁ、フィオ様!それは良くないですね。一日が台無しになってしまいますよ」
「そうでしょう?たかが夢のくせにこれほど神経を疲弊されるなんてね」
目覚めても青い顔色のままな主を見て、夢占いをしないかと侍女が誘う。

「夢占い、私はそういう荒唐無稽なのは信じないのよ」
「まぁまぁ、そうおっしゃらず!間もなく王都学園に入園なさるし小物などを揃えに街へでますでしょ?出先の次いでですわ」
そう言われた彼女フィオネ・ステラロザーデ侯爵令嬢は「気晴らしになるのなら」と了承する。
実は占いをしたいのは侍女の方で、街でよく当たると言う評判の店へ行きたいらしいのだ。




「ふふ、可愛いところがあるじゃない。ねぇアリネ?」
「そりゃあ年頃ですから、恋占いに興味があります!お屋敷に若い男達はいますが何か違うんですよねぇ身分も合わないし」
朝食を摂ってすぐに二人は街へ出ていた、馬車に揺られながら今日一日の過ごし方について話し合う。年齢が近いことから令嬢と侍女は友人のように親しい。
占いの館にはすぐに着いたが、かなりの人気で長蛇の列が出来ていた。令嬢がうんざりした顔をしたので侍女は慌てて予約しておきましょうと提案した。

「うん、そうね。時間を無駄にしては勿体ないから」
共に来ていた執事が列に並び順がきたら予約しておきますとお辞儀をした、申し訳ないと思ったフィオネは予約の手付金と褒美を手渡す。

「さぁ、私達は雑貨店巡りをしましょうか。新しいハンカチが欲しいのよ、それから手帳と筆をね」
「はい!参りましょう!」


***

予約が取れたという報せを持って執事が合流し、指定された午後二時に占いの館へ再度訪れた。
出入り口は小さいのに入館してみるとかなり奥行きがあり驚かされる。
「何か空間魔法でもかけてあるのかしら?」
「さすがお嬢様、御名答です!望みの占いによって部屋が異なってドアの色が違うんですよ」
「まぁ、手の込んでいる事」

桃色のドアは当然の如く恋占い、黄は健康、緑は商売、青は総合運。そして目当ての夢占いは黒に星が描かれたドアだった。
侍女のアリネは迷わず桃のドアへ突進していった。主そっちのけで消えたので執事と護衛が文句を言う。
「いいのよ、気にしてないわ。待たせてしまうけどごめんね」
「お気になさらず、仕事でございますから」
執事は腰を折ると「どうぞ、楽しんでください」と言った。フィオネは手をヒラヒラ振るとドアを開けて占いに挑む。

入室するとすぐ目の前に小さなテーブルセットが目に入り、対面に占い師の老婆がニコニコと笑って「ようこそ」と言って招き椅子にどうぞと促す。緊張が解れた彼女はさっそく椅子に腰を下ろした。

「さて、どのような夢をご覧になられた?」
「はい、実は――」
客人の話を粗方聞くと占い師は表裏が真っ白なカードを五枚並べて、一つだけ選ぶように指示をした。
違いがわからないまま彼女は右から二番目のカードを指差した、これが気になると述べる。

指差したカードをヒラリと返すと真っ白だったはずの面に暗紫の星が三つ並んで描かれているではないか。魔法の一つだろうと思うフィオネはさほど驚かない。
「ふむ、未来を暗示する夢と出たわねぇ、もし、あなたに恋人や将来を約束した殿方がいるのなら別れが近いのよ」
「え……」
身に覚えがあった彼女は占いの結果を聞いて固まってしまう。夢の中で見た、泣いて縋る女性の姿を思い出し凍り付いた。

「そんな……あの方と別れて、人生の道が違えてしまうなんて」
幼馴染で婚約者の顔を思い浮かべた彼女は堪えられずに涙を零した。占いなど信じていなくとも、やはり悪い結果がでれば悲しいものなのだ。





しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~

水無月あん
恋愛
私は伯爵家の娘ローザ。同じ年の侯爵家のダリル様と婚約している。が、ある日、私とはまるで性格が違う従姉妹のフランを預かることになった。距離が近づく二人に心が痛む……。 婚約者を奪われた側と奪った側の二人の少女のお話です。 5話で完結の短いお話です。 いつもながら、ゆるい設定のご都合主義です。 お暇な時にでも、お気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

旦那様、彼は仕事において必要不可欠なパートナーなのです

ましゅぺちーの
恋愛
伯爵夫人フルールは、夫である伯爵と愛人の秘書に長年頭を悩ませていた。 何度夫に苦言を呈しても「彼女は仕事において必要不可欠なパートナーだから」と一切聞く耳を持たない。 困り果てていたそのとき、彼女は突然前世の記憶を取り戻した。 このままだと夫と愛人の真実の愛の犠牲になってしまう。 それだけは御免だ。 結婚五年目にして、彼女はようやく夫を見限り、新たな事業を立ち上げた。 そして事業を成功させたフルールの隣には、いつも同じ男が立っていた。 その男は誰なのかと問い詰める夫に、フルールはニッコリ笑って言った。 「彼は仕事において必要不可欠なパートナーなのです」と。

処理中です...