18 / 23
砂漠の奇跡
しおりを挟む
国から追放された大司教達が荒野で彷徨うはめになって八日目、体の弱い者はこと切れる寸前に陥り痙攣して寝そべっている。そうでない者もいずれは朽ちて行く運命である。
彼らは砂地に落とされてからアレコレと足掻いたが、傾斜が低いところへ這い出てみても結界が阻んで抜け出せない。だが、諦めきれずその境目あたりに穴を掘り土魔法が出来る者が小さな日除け小屋を建て直射日光を浴びるのを避けていたが、それがせいぜいだった。
水も食糧もなく放逐された彼らは餓死は免れない、生きる頼りは皆無なのだ。時々、死体を期待したハゲ鷹が飛んできて彼らを眺めていたが結界に入ったばかりに出られなくなって先に死んだ。その骸を罪人たちが見逃すはずもない。
理性を失った彼らは取り合いの大喧嘩を勃発、勝者たちは鳥の羽を毟り生のまま齧りつき骨までしゃぶった。
肉にありつけなかった者たちはその骨を拾って飢えを凌ぐ。
そして、水魔法や風魔法を駆使できる修道士が一団の頂点に立ち、デカイ顔をするようになっている。こうなれば上下関係など容易く崩れる、あれほど敬われていた大司教ことアルゴリオは役立たずの最底辺に落ちていた。なんと人間とは残酷で愚かな事だろう。
「おい、豚!水が欲しければ土下座しな、無様だな俺の事をアゴでこき使ってた癖に」
雑用を強いられてきたらしい水魔法が得意な下位の修道士が、貴重な水を指先から滴らせて砂に染みを作る、熱砂はすぐにそれを吸い跡形もなく蒸発させた。
「ぐ……水をお恵みください……お願いします」
「ふん!役立たずの豚が!」
大司教はよほど恨みを買っていたのか、顔面にビシャリと浴びせられて罵倒されていた。それでも貴重な水だ、顔に浴びた水滴を手で集めて啜る。なんとも惨めなことだがそうする他生きる術はないのだ。
調子に乗った修道士が日除け小屋の隅にいたドナジーナに絡みだす、頭を小突き髪の毛引っ張り平手を打つ、だが誰も彼を止められやしない。
「なぁ巫女様よ、いまこそ奇跡の一つでも起こしてくれよ。肉の生る木でもなんでも良いぞ?なぁ?」
「そ、そんなこと出来るわけが…ギャァ!」
言い終わる前に再び平手を往復で食らわされた彼女は痛みに悲鳴をあげる。修道士は殴られないだけ有難く思えと嗤う。
「なあ、皆!朽ちる前に奇跡の御業とやらを見物したくはねーか?」
声高に言う彼に幾人かが賛同してパラパラと拍手をした、飢えている彼らにはそれが精いっぱいなのだ。気を良くした修道士はさらに図に乗ってドナジーナを蹴りだした。加減はされていても攻撃されれば痛いし腹も立つというもの。彼女は歯を食いしばり最低限の抵抗をする。
「なによ、散々持ち上げて良いように使って来たくせに……アンタ達なんて例え神がいても救うはずがないのよ!」
「なんだと!?」
怒って腕を振り上げた修道士だったが躱されて腕を引っ掛かれた。怒りに任せて爪を立てたのか深く抉られた傷が五本出来る。あまりの痛みにのたうち周る男は水をやるから治せとアルゴリオに怒鳴った。
「チクショー!巫女には水は与えないからな!干乾びて死ね!」
「ふん!要らないわよジワジワ生きたってどうせ死ぬのよ!全員ね!奇跡が見たいなら祈ってあげるわよ!」
憤慨してヤケを起こした彼女は日除けの小屋から出て、熱砂の大地に両手を着いて女神ペスシモへ祈る。口上など出鱈目だが一心不乱に彼女はペスシモへ祈祷した。
「女神様!聞こえているのならこんな生き地獄を終わらせてよ!ゴミクズ共に鉄槌を下ろして、私に冷たいリカルデル王子もなにもかもどうでも良いわ!こんな都合の悪い世界なんて壊れちゃえば良い!」
偽姫巫女ドナジーナは火傷する手の平を気にも留めずに喚き散らして天に祈った。
それを眺めていた修道士たちは嘲笑して「バカがブチ切れて可笑しくなった」と囃し立てる。
炎天下の元、「聞き届け」と泣き叫び声が枯れるまでドナジーナは祈祷を行った。やがて力尽きドシャリと崩れた彼女を見ていた修道女がさすがに気の毒と思って駆け寄った。
――だが、その時だ。
荒野と砂漠にゴウゴウと地鳴りの音が轟いたではないか、同時に大地が揺れて砂漠が円錐状になり流砂が発生した。地に伏していたドナジーナはその流れに飲まれて消えて行く。
教団の者たちは突然の異変に大騒ぎになって逃げおおせようと上部の方へ這い上がる。我先と夢中な彼らは他人を蹴散らして上ろうと必死だ。
幾人かが蟻地獄化した砂に飲まれて行った、辛うじて止まれた者たちはあまりの恐怖に震えるしかできない。異変は砂漠以外でも発生していて、荒野を囲むように隆起していた山からもうもうと噴煙が空へ上っていた。
「姫巫女が最悪な奇跡を起こした……」
彼らは砂地に落とされてからアレコレと足掻いたが、傾斜が低いところへ這い出てみても結界が阻んで抜け出せない。だが、諦めきれずその境目あたりに穴を掘り土魔法が出来る者が小さな日除け小屋を建て直射日光を浴びるのを避けていたが、それがせいぜいだった。
水も食糧もなく放逐された彼らは餓死は免れない、生きる頼りは皆無なのだ。時々、死体を期待したハゲ鷹が飛んできて彼らを眺めていたが結界に入ったばかりに出られなくなって先に死んだ。その骸を罪人たちが見逃すはずもない。
理性を失った彼らは取り合いの大喧嘩を勃発、勝者たちは鳥の羽を毟り生のまま齧りつき骨までしゃぶった。
肉にありつけなかった者たちはその骨を拾って飢えを凌ぐ。
そして、水魔法や風魔法を駆使できる修道士が一団の頂点に立ち、デカイ顔をするようになっている。こうなれば上下関係など容易く崩れる、あれほど敬われていた大司教ことアルゴリオは役立たずの最底辺に落ちていた。なんと人間とは残酷で愚かな事だろう。
「おい、豚!水が欲しければ土下座しな、無様だな俺の事をアゴでこき使ってた癖に」
雑用を強いられてきたらしい水魔法が得意な下位の修道士が、貴重な水を指先から滴らせて砂に染みを作る、熱砂はすぐにそれを吸い跡形もなく蒸発させた。
「ぐ……水をお恵みください……お願いします」
「ふん!役立たずの豚が!」
大司教はよほど恨みを買っていたのか、顔面にビシャリと浴びせられて罵倒されていた。それでも貴重な水だ、顔に浴びた水滴を手で集めて啜る。なんとも惨めなことだがそうする他生きる術はないのだ。
調子に乗った修道士が日除け小屋の隅にいたドナジーナに絡みだす、頭を小突き髪の毛引っ張り平手を打つ、だが誰も彼を止められやしない。
「なぁ巫女様よ、いまこそ奇跡の一つでも起こしてくれよ。肉の生る木でもなんでも良いぞ?なぁ?」
「そ、そんなこと出来るわけが…ギャァ!」
言い終わる前に再び平手を往復で食らわされた彼女は痛みに悲鳴をあげる。修道士は殴られないだけ有難く思えと嗤う。
「なあ、皆!朽ちる前に奇跡の御業とやらを見物したくはねーか?」
声高に言う彼に幾人かが賛同してパラパラと拍手をした、飢えている彼らにはそれが精いっぱいなのだ。気を良くした修道士はさらに図に乗ってドナジーナを蹴りだした。加減はされていても攻撃されれば痛いし腹も立つというもの。彼女は歯を食いしばり最低限の抵抗をする。
「なによ、散々持ち上げて良いように使って来たくせに……アンタ達なんて例え神がいても救うはずがないのよ!」
「なんだと!?」
怒って腕を振り上げた修道士だったが躱されて腕を引っ掛かれた。怒りに任せて爪を立てたのか深く抉られた傷が五本出来る。あまりの痛みにのたうち周る男は水をやるから治せとアルゴリオに怒鳴った。
「チクショー!巫女には水は与えないからな!干乾びて死ね!」
「ふん!要らないわよジワジワ生きたってどうせ死ぬのよ!全員ね!奇跡が見たいなら祈ってあげるわよ!」
憤慨してヤケを起こした彼女は日除けの小屋から出て、熱砂の大地に両手を着いて女神ペスシモへ祈る。口上など出鱈目だが一心不乱に彼女はペスシモへ祈祷した。
「女神様!聞こえているのならこんな生き地獄を終わらせてよ!ゴミクズ共に鉄槌を下ろして、私に冷たいリカルデル王子もなにもかもどうでも良いわ!こんな都合の悪い世界なんて壊れちゃえば良い!」
偽姫巫女ドナジーナは火傷する手の平を気にも留めずに喚き散らして天に祈った。
それを眺めていた修道士たちは嘲笑して「バカがブチ切れて可笑しくなった」と囃し立てる。
炎天下の元、「聞き届け」と泣き叫び声が枯れるまでドナジーナは祈祷を行った。やがて力尽きドシャリと崩れた彼女を見ていた修道女がさすがに気の毒と思って駆け寄った。
――だが、その時だ。
荒野と砂漠にゴウゴウと地鳴りの音が轟いたではないか、同時に大地が揺れて砂漠が円錐状になり流砂が発生した。地に伏していたドナジーナはその流れに飲まれて消えて行く。
教団の者たちは突然の異変に大騒ぎになって逃げおおせようと上部の方へ這い上がる。我先と夢中な彼らは他人を蹴散らして上ろうと必死だ。
幾人かが蟻地獄化した砂に飲まれて行った、辛うじて止まれた者たちはあまりの恐怖に震えるしかできない。異変は砂漠以外でも発生していて、荒野を囲むように隆起していた山からもうもうと噴煙が空へ上っていた。
「姫巫女が最悪な奇跡を起こした……」
4
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~
水無月あん
恋愛
私は伯爵家の娘ローザ。同じ年の侯爵家のダリル様と婚約している。が、ある日、私とはまるで性格が違う従姉妹のフランを預かることになった。距離が近づく二人に心が痛む……。
婚約者を奪われた側と奪った側の二人の少女のお話です。
5話で完結の短いお話です。
いつもながら、ゆるい設定のご都合主義です。
お暇な時にでも、お気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
旦那様、彼は仕事において必要不可欠なパートナーなのです
ましゅぺちーの
恋愛
伯爵夫人フルールは、夫である伯爵と愛人の秘書に長年頭を悩ませていた。
何度夫に苦言を呈しても「彼女は仕事において必要不可欠なパートナーだから」と一切聞く耳を持たない。
困り果てていたそのとき、彼女は突然前世の記憶を取り戻した。
このままだと夫と愛人の真実の愛の犠牲になってしまう。
それだけは御免だ。
結婚五年目にして、彼女はようやく夫を見限り、新たな事業を立ち上げた。
そして事業を成功させたフルールの隣には、いつも同じ男が立っていた。
その男は誰なのかと問い詰める夫に、フルールはニッコリ笑って言った。
「彼は仕事において必要不可欠なパートナーなのです」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる