完結 とある令嬢の都合が悪い世界 

音爽(ネソウ)

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砂漠の奇跡

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国から追放された大司教達が荒野で彷徨うはめになって八日目、体の弱い者はこと切れる寸前に陥り痙攣して寝そべっている。そうでない者もいずれは朽ちて行く運命である。
彼らは砂地に落とされてからアレコレと足掻いたが、傾斜が低いところへ這い出てみても結界が阻んで抜け出せない。だが、諦めきれずその境目あたりに穴を掘り土魔法が出来る者が小さな日除け小屋を建て直射日光を浴びるのを避けていたが、それがせいぜいだった。

水も食糧もなく放逐された彼らは餓死は免れない、生きる頼りは皆無なのだ。時々、死体を期待したハゲ鷹が飛んできて彼らを眺めていたが結界に入ったばかりに出られなくなって先に死んだ。その骸を罪人たちが見逃すはずもない。
理性を失った彼らは取り合いの大喧嘩を勃発、勝者たちは鳥の羽を毟り生のまま齧りつき骨までしゃぶった。
肉にありつけなかった者たちはその骨を拾って飢えを凌ぐ。

そして、水魔法や風魔法を駆使できる修道士が一団の頂点に立ち、デカイ顔をするようになっている。こうなれば上下関係など容易く崩れる、あれほど敬われていた大司教ことアルゴリオは役立たずの最底辺に落ちていた。なんと人間とは残酷で愚かな事だろう。

「おい、豚!水が欲しければ土下座しな、無様だな俺の事をアゴでこき使ってた癖に」
雑用を強いられてきたらしい水魔法が得意な下位の修道士が、貴重な水を指先から滴らせて砂に染みを作る、熱砂はすぐにそれを吸い跡形もなく蒸発させた。
「ぐ……水をお恵みください……お願いします」
「ふん!役立たずの豚が!」

大司教はよほど恨みを買っていたのか、顔面にビシャリと浴びせられて罵倒されていた。それでも貴重な水だ、顔に浴びた水滴を手で集めて啜る。なんとも惨めなことだがそうする他生きる術はないのだ。
調子に乗った修道士が日除け小屋の隅にいたドナジーナに絡みだす、頭を小突き髪の毛引っ張り平手を打つ、だが誰も彼を止められやしない。

「なぁ巫女様よ、いまこそ奇跡の一つでも起こしてくれよ。肉の生る木でもなんでも良いぞ?なぁ?」
「そ、そんなこと出来るわけが…ギャァ!」
言い終わる前に再び平手を往復で食らわされた彼女は痛みに悲鳴をあげる。修道士は殴られないだけ有難く思えと嗤う。

「なあ、皆!朽ちる前に奇跡の御業とやらを見物したくはねーか?」
声高に言う彼に幾人かが賛同してパラパラと拍手をした、飢えている彼らにはそれが精いっぱいなのだ。気を良くした修道士はさらに図に乗ってドナジーナを蹴りだした。加減はされていても攻撃されれば痛いし腹も立つというもの。彼女は歯を食いしばり最低限の抵抗をする。

「なによ、散々持ち上げて良いように使って来たくせに……アンタ達なんて例え神がいても救うはずがないのよ!」
「なんだと!?」
怒って腕を振り上げた修道士だったが躱されて腕を引っ掛かれた。怒りに任せて爪を立てたのか深く抉られた傷が五本出来る。あまりの痛みにのたうち周る男は水をやるから治せとアルゴリオに怒鳴った。
「チクショー!巫女には水は与えないからな!干乾びて死ね!」
「ふん!要らないわよジワジワ生きたってどうせ死ぬのよ!全員ね!奇跡が見たいなら祈ってあげるわよ!」

憤慨してヤケを起こした彼女は日除けの小屋から出て、熱砂の大地に両手を着いて女神ペスシモへ祈る。口上など出鱈目だが一心不乱に彼女はペスシモへ祈祷した。
「女神様!聞こえているのならこんな生き地獄を終わらせてよ!ゴミクズ共に鉄槌を下ろして、私に冷たいリカルデル王子もなにもかもどうでも良いわ!こんな都合の悪い世界なんて壊れちゃえば良い!」

偽姫巫女ドナジーナは火傷する手の平を気にも留めずに喚き散らして天に祈った。

それを眺めていた修道士たちは嘲笑して「バカがブチ切れて可笑しくなった」と囃し立てる。
炎天下の元、「聞き届け」と泣き叫び声が枯れるまでドナジーナは祈祷を行った。やがて力尽きドシャリと崩れた彼女を見ていた修道女がさすがに気の毒と思って駆け寄った。

――だが、その時だ。
荒野と砂漠にゴウゴウと地鳴りの音が轟いたではないか、同時に大地が揺れて砂漠が円錐状になり流砂が発生した。地に伏していたドナジーナはその流れに飲まれて消えて行く。
教団の者たちは突然の異変に大騒ぎになって逃げおおせようと上部の方へ這い上がる。我先と夢中な彼らは他人を蹴散らして上ろうと必死だ。
幾人かが蟻地獄化した砂に飲まれて行った、辛うじて止まれた者たちはあまりの恐怖に震えるしかできない。異変は砂漠以外でも発生していて、荒野を囲むように隆起していた山からもうもうと噴煙が空へ上っていた。

「姫巫女が最悪な奇跡を起こした……」

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