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騎士達で構成された部隊は歩兵、騎兵諸々合わせて約五十組だ、城を護る白聖騎士団を三十置いて魔物の争闘に向かうのである。中々壮観な部隊を前に見送る民たちはワーワーと奇声を上げて「ガンバレ」などと声高に鼓舞をする。その中にはマルガネット達魔法使いらが含まれていた、後方支援組とはいえその出で立ちは婀娜婀娜しく妖美であると衆目を集めている。
「なんて美しいのでしょう、見惚れてしまうわ」
「えぇ、本当に……まるで男装した俳優のようだわ麗しい」
どういう訳か女性に人気で黄色い声が響くのだ、これにはマルガネットは苦笑するほかない。男装の麗人だと口口に励ます声が止まない。
「どうも女性は不思議な感覚を持つのね、男装の麗人などと擽ったいわ」
「ふふ、でも本当にそう見えます。あやかりたいですね」
そんな軽口を交わすのは魔法剣士であるレイという男だ、彼は予行演習からの知り合いで、こうしてちょくちょく話をしていた。
「貴方も災難だわね、魔法など使えたばかりに」
「いいえ、こうしてお国の為に働けるのなら本望ですよ。炎の魔法が使えても役に立つ場面がない、まさに燻ぶっていたと言えます」
「あら、ふふふ、面白いことを言うのね」
合い変わらずの適当な返答に彼女は「ふふふ」と笑わずにおれない、騎士と呼ばれる者達はどこか他所余所しく気難しいので話し掛け難いと思っていた。こんな風に気軽に会話出来ることは珍しい。
そして、部隊はいよいよ魔物が出る領域に入った、まだチラホラと農民達があくせく働いているを見かけると騎士たちは「早く逃げなさい」と注意を呼び掛ける。
「呑気ねぇ……すぐそこに魔物がいるというのに」
「そうですね、ちょっと大きい猪とでも思っているのかも知れない」
実際、オークと呼ばれる猪型の魔物は二足歩行するものだが、中には猪とさして変わらない個体がいる。其の油断が思わぬ悲劇を出すのだ。
「ん?なにか聞こえない?子供の悲鳴のような」
「え、そうかな」
レイは耳を澄ましたものの何も聞こえないよと頭を振る、警戒しすぎて幻聴でも聞いかと思った。だが、やはり聞こえると確信したマルガネットは馬を駆りそちらに向かうのだった。
「見過ごすわけにはいかないわ、幻聴ならばそれでいい」
「わかった、援護しよう」
二人はつれだって部隊から逸れて走り出した、すこしばかり走らせればやはり、か細く泣いている子供が木の上で震えているではないか。
「グルルル、ガウガウ!」
「ひい、嫌ぁぁ……誰か……怖いよぉぉ」
怯えて泣く少年がいる木の周囲には犬型魔物のヘルハウンドが数匹取り囲んでいた。少年がしがみ付いている幹はいまにも折れそうである。
「私は少年の足元を固めるわ、凍傷にはならないと思う。だから」
「ああ、解っていますよ。軽く炙ってやりましょうか」
言うが早いか、マルガネットが少年の足元を狙って氷の足場を作った。それに続くようにレイがヘルハウンド五頭のうち二頭をジュッと消し炭にしてしまう。
「バウバウ!グルルル!」
三頭が怒り狂いレイ目指して突進した、だが残り三頭もあっさり炭にしてしまった。
「いやあ見事だわ、炎の魔法は敵なしね」
パチパチと手を叩き褒めちぎるマルガネットは少年を木から下ろしながら凄い凄いと言った。
「はは、大袈裟だよ。さて、一旦この子を撤退班に預けようか」
「なんて美しいのでしょう、見惚れてしまうわ」
「えぇ、本当に……まるで男装した俳優のようだわ麗しい」
どういう訳か女性に人気で黄色い声が響くのだ、これにはマルガネットは苦笑するほかない。男装の麗人だと口口に励ます声が止まない。
「どうも女性は不思議な感覚を持つのね、男装の麗人などと擽ったいわ」
「ふふ、でも本当にそう見えます。あやかりたいですね」
そんな軽口を交わすのは魔法剣士であるレイという男だ、彼は予行演習からの知り合いで、こうしてちょくちょく話をしていた。
「貴方も災難だわね、魔法など使えたばかりに」
「いいえ、こうしてお国の為に働けるのなら本望ですよ。炎の魔法が使えても役に立つ場面がない、まさに燻ぶっていたと言えます」
「あら、ふふふ、面白いことを言うのね」
合い変わらずの適当な返答に彼女は「ふふふ」と笑わずにおれない、騎士と呼ばれる者達はどこか他所余所しく気難しいので話し掛け難いと思っていた。こんな風に気軽に会話出来ることは珍しい。
そして、部隊はいよいよ魔物が出る領域に入った、まだチラホラと農民達があくせく働いているを見かけると騎士たちは「早く逃げなさい」と注意を呼び掛ける。
「呑気ねぇ……すぐそこに魔物がいるというのに」
「そうですね、ちょっと大きい猪とでも思っているのかも知れない」
実際、オークと呼ばれる猪型の魔物は二足歩行するものだが、中には猪とさして変わらない個体がいる。其の油断が思わぬ悲劇を出すのだ。
「ん?なにか聞こえない?子供の悲鳴のような」
「え、そうかな」
レイは耳を澄ましたものの何も聞こえないよと頭を振る、警戒しすぎて幻聴でも聞いかと思った。だが、やはり聞こえると確信したマルガネットは馬を駆りそちらに向かうのだった。
「見過ごすわけにはいかないわ、幻聴ならばそれでいい」
「わかった、援護しよう」
二人はつれだって部隊から逸れて走り出した、すこしばかり走らせればやはり、か細く泣いている子供が木の上で震えているではないか。
「グルルル、ガウガウ!」
「ひい、嫌ぁぁ……誰か……怖いよぉぉ」
怯えて泣く少年がいる木の周囲には犬型魔物のヘルハウンドが数匹取り囲んでいた。少年がしがみ付いている幹はいまにも折れそうである。
「私は少年の足元を固めるわ、凍傷にはならないと思う。だから」
「ああ、解っていますよ。軽く炙ってやりましょうか」
言うが早いか、マルガネットが少年の足元を狙って氷の足場を作った。それに続くようにレイがヘルハウンド五頭のうち二頭をジュッと消し炭にしてしまう。
「バウバウ!グルルル!」
三頭が怒り狂いレイ目指して突進した、だが残り三頭もあっさり炭にしてしまった。
「いやあ見事だわ、炎の魔法は敵なしね」
パチパチと手を叩き褒めちぎるマルガネットは少年を木から下ろしながら凄い凄いと言った。
「はは、大袈裟だよ。さて、一旦この子を撤退班に預けようか」
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