完結 獣臭い夫に嫌われているようなので、戦を仕掛けます。

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
3 / 12

王女は契約を求める

獣王国の王子シンギル・イェナ・フォルヴェスが、異種族の姫に拘る理由を父王は聞かせる。
運命の番とやらの伝承について王女は耳を傾けるが、その顔は快い表情ではなかった。

「番を得ないと狂死するほど苦しいとのことだ……シンギル殿下はやがて王になる人物、その彼がもし心を病み儚くなったら獣王国は荒れるだろうとのことだ」
「まぁ!御気の毒なことではありますが、私は殿下に対して何も感じませんわ。しかも相手側の都合をこちらへ押し付けるなど恐喝同然ではないですか」
「獣王国とはそういう手段で国力を高めて来たのだ、彼らには当然の行為なのだろうよ」
「んまぁ!益々嫌悪しますわ!やはり蛮族ですのね」
魂で引き合うという”番”の事を説明された王女は「独りよがりの愛を囁かれても迷惑千万」と嫌そうに気持ちを述べる。

姫の反応を予想していたらしい王は、預かって来た宝石箱を王女に手渡して「見分しなさい」と言う。
「これは魔石……生命の源ではありませんか、それを砕いて寄越したのですか?」
「あぁ、命を削ってまで求婚してきたということだ」
「そんな……」
ここまでされて断ればどのような諍いが発生するかわからない、カリノ姫は瞳を固く閉じて長い溜息を吐いた。
「お父様、いいえ我が王よ。フォルヴェス国と一戦交えたとしてどちらが優位でしょうか?」
「なんだと!?」
「嫌だ、例え話ですわ」
深刻な顔で反応する父王に対してカリノ王女はコロコロと笑う。彼女はあくまで仮の話として質問したに過ぎないと押し通すのだ。

王は王女の問に渋面になりながらも思案する、そして真実を告げた。
「……ふむ、百年前だったなら圧倒的に獣王国が強かろうな」
「そうですか、ですね?」
彼女は良い答えを聞いたと言って高らかに笑う。いま現在において人族の国は強硬な獣王国に抗えるだけの力を有しているのだと父の顔を見て判断した。拮抗する強さではなく、相手を打ち負かすほどの力があるのだと父王の強い眼差しは語っていたのである。

「喧嘩して我が国が勝てるというならば憂いはございません、ですがワザワザ最初から事を荒立てるのも賢明ではないですね」
「うむ、そうだな……人身御供のような縁談を其方に押し付けるようで心苦しい」
愛娘を獣の王子にやるなど身を焼かれる辛さだと父王は項垂れる、だが国同士の諍いを避けて良好を選ぶのなら嫁ぐほか選択はない。

「よろしい、この話をお受けします。ですが、あちらが無理強いしてきた縁談なのですから、こちらの言い分も押し付けなければ平等ではございませんよね、ふふふ……」
扇を広げて意味深な笑みを浮かべる王女を見て王は我が娘ながら恐ろしいと思うのだった。
王女は王宮の客室に居座っているシンギルの元へ向かって行った。もちろん護衛をたくさん引き連れてだ。
彼女が顔を出すなり彼は勢いよく立ち上がり上気した顔を見せる、本能から欲する番へ今にも飛び掛かりそうな勢いだ。緊張した護衛達は剣の柄に手を当てる。

しかし、王女は挨拶も省いて極めて冷静に対峙してこう告げる。
「契約致しましょう殿下、婚姻に際して守っていただきたい事項がございますの。それらを飲んでくださるのなら私は喜んで番になりましょう」
「ほ、ほんとうか!わかった、どのような条件でも飲もう!私は其方が欲しいのだ!」
王女の答えに歓喜する王子は先のことを考えずに二つ返事で承諾した。見下されているとも知らず、なんて浅慮で愚かな男だとカリノは扇の裏で嘲笑した。

王女の合図で侍女が銀盆に乗せた羊皮紙の契約書をシンギルに渡す。手に取った彼は丸まれたそれを開いて吟味する。
 
========

婚姻契約書

夫となるシンギル・イェナ・フォルヴェスは以下の事を厳守し妻となるカリノ・コルジオンに尽くすことを宣誓すること。

一つ、王女が成人するまで同衾はしない
一つ、浮気をしない
一つ、無理矢理に愛を請わない
一つ、力に任せて妻を威圧しない
一つ、妻が不快だと進言したら速やかに対処する

これらの事項を破りカリノ・コルジオンを不幸にさせた際は婚姻終了に同意したとみなす。
契約を反故した慰謝料はシンギル・イェナ・フォルヴェスの全財産とする。又、離縁を拒絶した場合はカリノ・コルジオンの名の下に裁き相応の罰を与えるものとし、その罪科はフォルヴェス国全体にも代償を求める。

========

書面を読んだ王子は「なんだこんな程度のことか」と軽口を叩きサラサラとそこへサインを書き、指先を噛んで血判を押した。呪魔法によって縛られる契約書になんの躊躇いもせず同意した王子を見て王女と侍従らは目を疑う。
「ずいぶんアッサリ署名なさるのね、豪胆ですこと」
「ああ、愛しい番殿と結婚できるのだからな!私に迷いなどない」
「……そうですか、ではここに血の契約は成立致しました。よろしいですか殿下、契約を破り私が少しでも不幸だと感じたらその時点で離縁と致します。努々忘れませんように」
「わ、わかった。我が魂に刻み努めよう」
分厚い羊皮紙に魔法契約を交わした王子は小柄な彼女に気圧されながら鷹揚に頷いたのだ。

こうして結婚の約束を交わした王子は意気揚々と帰国して行った。


「なんて愚かな男でしょうか、咎が国にも及ぶ契約であるというのに……あんな者が次代の王になるだなんて世も末ね」

感想 1

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

お飾り妻は天井裏から覗いています。

七辻ゆゆ
恋愛
サヘルはお飾りの妻で、夫とは式で顔を合わせたきり。 何もさせてもらえず、退屈な彼女の趣味は、天井裏から夫と愛人の様子を覗くこと。そのうち、彼らの小説を書いてみようと思い立って……?

【短編】ルルリア第2夫人の穏やかな一生

恋愛
帝国の騎士団長、ダグラス・ルルリアに嫁入りしたのは現宰相の次女、ダグラスより10も年の若いミリア・サランだった。 ※不定期投稿 ※タイトル訂正致しました

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~

山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。 この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。 父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。 顔が良いから、女性にモテる。 わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!? 自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。 *沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】