完結 獣臭い夫に嫌われているようなので、戦を仕掛けます。

音爽(ネソウ)

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変色して行く羊皮紙

カリノ姫が獣王国に嫁いで二日目。
契約書を納めていた金庫から、不快な臭いが漏れ出ていたことに彼女と侍女は気が付く。
「王女殿下……」
「ええ、契約事項の一つが破られたようね。ずいぶんと早い事だわ」

侍女が金庫から丸めた羊皮紙を取りだして主に差し出した、カリノがそれを広げると二番目の事項の”浮気しない”という文字列が紫に変色していた。それを確かめた彼女はフッと笑みを浮かべる。
「新婚初夜に他の女性を連れ込んだみたいね……なんて堪え性のないこと。自身を慰める手立てくらいあったでしょうに、なんて気持ちが悪いの」
「左様ですね、さすが獣に近しい種族です。性の本能に負けたのでしょう」

他の事項の列も僅かに変色が始まっていた、これは離縁成立まであまり時間がないだろうとカリノ王女はクツクツ笑った。良い兆候だと王女と侍従達は頷き合う。


愛でる例えが下手過ぎる上にツンデレ気味なシンギル王子は、王城にて王女とすれ違う度に耳を疑うような褒め方をしてきて神経を逆なでしてきた。愛情表現が壊滅的と思われる。
「やぁ、昨夜はよく眠れたかい?キミのことだきっと牛カエルのような鼾なのだろうな!」
「はあ?私の声が醜いとおっしゃるのね」
「う、いや!獣人が心休まる時はそういう寝息を立てる者が多いのだ(嘘)」
「不愉快です!」
「誤解だ!」

またあくる日には庭園で王子と遭遇すると、愛らしい花ではあっても鋭利な棘だらけのそれを捥ぎ取って血濡れの手を気にせずに彼女へ差し出した。
「ひぃ!?」
「黄色い鬼茨の花はキミに似合うと思うぞ」
「どこがですか!女性に血まみれの花を贈るだなんて喧嘩を売ってますのね!」
「誤解だ!」
「あ”あ”っ?」

このように顔を合わせる度に喧嘩に発展している王子夫妻の様子を見た城の侍従達は「王子殿下は妃殿下を嫌っている」と受け止めた。いくら運命の番とは言え相性が悪いのだと思い込んだ。
悪い方向へ誤解した配下と侍従たちは王子妃が嫌いなら追い出そうと嫌がらせをするようになった。

食事が届かないのは当たり前になり、水差しに腹を下す毒が混入することもあった。散歩に出れば泥がどこからともなく降って来て、「まぁ妃殿下が泥まみれに」とワザとらしく侍女達が叫びバケツの水で洗い流してくる。さらには、王子殿下が川遊びに誘っていると嘘を吹き込み誘った川に落とされ瀕死に陥った。


そして、介護されたカリノ王女がベッドから目覚めた時とうとう決意する。
「そちらがその気ならば容赦いたしませんよ、戦争です!」陰に忍ばせていた暗黒騎士と密偵を使って反撃に出たのである。彼らには敢えて手出しさせず、城の者達の悪辣な行為に目を瞑り耐えてきたのは離縁の理由を集めるためだ。

***

「私に危害を加えた者達に相応の罰を与えなさい、生涯後悔するほどに。手段は任せます死なない程度にね」
「御意、お任せください。コルジオンが誇る隠密部隊は抜かりなく働きましょう」
「心強いわ、期待していますね」

密偵達が報復に動く合間にカリノ王女の侍女達は出奔の準備を急ぐ、報復終了と同時に生国へ逃げ帰るためだ。
カリノ王女は、一秒たりとも獣王国にいたくないと額に怒りの筋を浮かばせて歯ぎしりしていた。
転移魔道具を発動させて先に国外に出ても良かったが、大切な侍従を置いてはいけないと耐えた。

「お労しや姫様、ですが間もなく自由です」
「ええ、ありがとう。皆良くやってくれました、数分後には騎士が戻るでしょう」
彼女は魔道具を起動するために待機して吉報を待った。そして、予定通りカタがついたと報せにきた騎士達を労ってから転移を開始した。


そうとは知らないシンギル王子は、昼間から寝具の上で乱れて過ごしていた。
番であるカリノのフェロモンに当てられたと嘯き、部下の女を抱いているのだ。生来から色事が好きな王族の血には抗えないらしい。
『番以外とは交わらない』などと宣言したのは一体なんだったのか。欲に任せて抱かれているマイアーレ・ビヌレは腹にタネが芽吹くのは時間の問題だろうとほくそ笑んでいる。

側近の紅一点である彼女はかねてから王子妃の座を狙っていた、身分も高位貴族である彼女はその資格を持っていた。だが、王子が番を求めた為に計画が狂い野心家の彼女は大いに荒れた。人族の王女を排除したい彼女は暴挙に出る。

王子妃の居室の調度品の不手際や、ドレスサイズの不具合などはマイアーレの手引きによるものだったのだ。そうとは知らないシンギル王子は側近の彼女を重宝してしまっている。今は閨へ誘惑され続けて番ではない腹に種を奪われている。懐妊を目論むマイアーレは側室にでも収まってしまえば良しとしているのだ。
「ふふ、正室は無理でも側室ならば確実……先に世継ぎを設けてしまえばこちらのものよ」

だが、彼女は知らなかった。
番を求め、たった一つの運命に目覚めた王子の種は他の母体には着床しないことを……。


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