9 / 12
月下の二人 甘いひと時
同盟国のどこよりも迅速に馳せ参じた帝国の皇子ことロウナード・ジュスト・ヨーグスグランデ。自称旅人のロウナは歓迎され盛大な晩餐で持て成される。
真っ先にきた帝国の皇子に感謝する王は旅の途中で愛娘カリノとのことを聞いて頭を下げた。
そして、一日遅れてカリノが到着すると改めて感謝の意を示した。
「ほんとうに助かりました、いま頃はまだ森の中を彷徨っていたことでしょう」
「もうお礼は十分頂きましたよ、姫君にも王にもね」
二日目の歓迎晩餐の席で互いの近況を語り合う、カリノは強奪同然に獣人の王子に嫁いだことを吐露した。
彼女の心情を慮るロウナード皇子は「ご苦労されましたね」と労う。
「いいえ、婚姻を続ける条件を二つも反故されましたので今は自由の身ですわ」
カリノは禁を破った箇所から見る見ると浸食して紫に変色し、腐り果てた羊皮紙を思い浮かべて苦笑した。
「やはり人は人と愛を育むべきなのですよ」
「そうでわね、例え外見が似ていても相いれないものですわ」
どこか熱い視線を向けてくる皇子にカリノは頬を赤らめる、決してワインだけのせいではない。それを見守る父王は良縁とはこういうものだと独り言ちる。一月も満たずに出戻った娘だがこれで良かったのだとグラスを傾けた。
彼女らは食事を終えるとサロンへと移動した。
今宵はとても穏やかな月夜だという皇子、釣られてカリノも夜空を見上げた。浮かぶ三日月の横を小さな雲がゆっくり流れていくのが見えた。
どちらともなく手を繋ぎ窓辺から届く風音を聞きながら踊り出した、とても自然な行為だ。二人を見守る侍女達は「ほぅ」とため息を漏らす。淡い金髪の皇子と銀髪の王女はとても絵になっていた。
「まるでオペラのワンシーンのようですわ」
「ええ、本当にお似合いで」
羨望の眼差しを向ける侍女達は”どうかこのまま穏やかな時間が続くように”と祈れずにおれない。
カリノ王女が帰国した翌日、各国の重鎮達がコルジオン王国に集結した。
同盟国の五つの国の大臣らが集まり大会議の席が設けられた、蛮族討つべしと鼻息が荒い彼らは長年、力で捻じ伏せてきた獣人たちを嫌っているのだ。
帝国の代表として参じたロウナード・ジュスト・ヨーグスグランデ皇子が会議開始の演説をする。
「我らは神より賜った叡智の力で獣人に怯えることはなくなった、長く虐げられてきた歴史は今世で終わらせるのだ!」
「うむ、その通りですぞ!」
「獣など恐るるに足らず!」
「我らの力を存分に見せつけてやろうではないか!」
決起した彼らは熱い思いを吐くのであった。
白熱する作戦会議は夜通し続き心に火が付いた彼らは「眠るのも惜しい」と猛るのだ。
「頼もしい方々が集まりましたわね」
「うん、人族は繋がりを大切にするからね。有難い事だよ」
会議の休憩にサロンへ来たロウナードは王女が手ずから淹れた茶をゆっくり嚥下しているところだ。さすがの重鎮たちも睡魔には勝てず各々が客室で仮眠をとっていた。
獣人たちが統べる国々は東大陸側に六国存在しているが一枚岩とはいかない連中だ。力を誇示し合い矜持が高い彼らは手を結ぶのを良しとしない。
「獣人は同盟を結ぶことをしないそうですわね、なんて愚か」
「ああ、その通りだよ。ヤツらは縄張り意識が強いから、牽制し相手を蹴り落とすことをしても協力することはしない」
茶を飲み干した皇子は些か眠くなってきたのか目を閉じて船を漕ぎ始めた。見兼ねた王女が「どうか客室へ」と促す。だが皇子はカウチに寝そべりたいと言う。
そして、カリノの膝枕を所望する。
「ああ、良い寝心地だ……オヤスミ」
「おやすみなさいませ、皇子殿下」
窓の隙間からは爽やかな微風が吹いてきて彼の淡い金髪を撫ぜる。王女はその刹那を「なんて幸せな時間なのでしょう」と小さく呟く。
彼らは近いうちに婚約を交わすであろうと侍従たちは噂した、獣王国フォルヴェスとの諍いが生じた今は不謹慎であるという声も上がりそうだったが、そんな些末なことは父王が蹴散らすに違いないと彼らは思う。
コルジオンの王都では、各国からお歴々共の魔導車が集まりだしたことを知りキナ臭さを感じ取っていた。
「やっぱり戦は避けられねぇのかな」
「そうだろうよ、だって攫うように姫を娶った癖に虐げて追い出したって話だろう?」
「いいや、姫が獣を嫌って逃げたってよ」
「どちらにせよ争いごとに発展してんだよ、なーに原始のままの獣人なんざ目じゃねぇよ」
今や、逞しい体躯を手に入れた人族は更に叡智の結晶と言える魔道具を開発している。侮っているのは頑迷なままの獣人族だけだ。学のない平民とて人族が優位な立場に変化しているのは理解していた。剣を交えるまでもなく歴然だ。
コルジオンを護る国境壁には自動式の弩砲を各所に設置を終えていた。これは帝国から派遣された兵によるものである。あまりに早い手際にコルジオン王は敬意すると共に畏怖した。
「流石としか言えませんな、帝国には頭が上がりませんぞ」
「なに、こちらへ出向くついでの仕事に過ぎませんよ。貴国は平坦な土地が多いですから先手を取ったほうが良いと考えました」
「なるほど……野戦築城を建て、塹壕を掘り敵襲に備える考えはありましたが古かったですかな」
「いいえ、それもまた戦い方の一つ。獣人は考えなしに突撃する傾向が強い。罠は多い方が良いですよ」
人海戦術に及ぶまでもなく叩き潰してくれようと、未来の皇帝ロウナードは腕を組んで唸る。
真っ先にきた帝国の皇子に感謝する王は旅の途中で愛娘カリノとのことを聞いて頭を下げた。
そして、一日遅れてカリノが到着すると改めて感謝の意を示した。
「ほんとうに助かりました、いま頃はまだ森の中を彷徨っていたことでしょう」
「もうお礼は十分頂きましたよ、姫君にも王にもね」
二日目の歓迎晩餐の席で互いの近況を語り合う、カリノは強奪同然に獣人の王子に嫁いだことを吐露した。
彼女の心情を慮るロウナード皇子は「ご苦労されましたね」と労う。
「いいえ、婚姻を続ける条件を二つも反故されましたので今は自由の身ですわ」
カリノは禁を破った箇所から見る見ると浸食して紫に変色し、腐り果てた羊皮紙を思い浮かべて苦笑した。
「やはり人は人と愛を育むべきなのですよ」
「そうでわね、例え外見が似ていても相いれないものですわ」
どこか熱い視線を向けてくる皇子にカリノは頬を赤らめる、決してワインだけのせいではない。それを見守る父王は良縁とはこういうものだと独り言ちる。一月も満たずに出戻った娘だがこれで良かったのだとグラスを傾けた。
彼女らは食事を終えるとサロンへと移動した。
今宵はとても穏やかな月夜だという皇子、釣られてカリノも夜空を見上げた。浮かぶ三日月の横を小さな雲がゆっくり流れていくのが見えた。
どちらともなく手を繋ぎ窓辺から届く風音を聞きながら踊り出した、とても自然な行為だ。二人を見守る侍女達は「ほぅ」とため息を漏らす。淡い金髪の皇子と銀髪の王女はとても絵になっていた。
「まるでオペラのワンシーンのようですわ」
「ええ、本当にお似合いで」
羨望の眼差しを向ける侍女達は”どうかこのまま穏やかな時間が続くように”と祈れずにおれない。
カリノ王女が帰国した翌日、各国の重鎮達がコルジオン王国に集結した。
同盟国の五つの国の大臣らが集まり大会議の席が設けられた、蛮族討つべしと鼻息が荒い彼らは長年、力で捻じ伏せてきた獣人たちを嫌っているのだ。
帝国の代表として参じたロウナード・ジュスト・ヨーグスグランデ皇子が会議開始の演説をする。
「我らは神より賜った叡智の力で獣人に怯えることはなくなった、長く虐げられてきた歴史は今世で終わらせるのだ!」
「うむ、その通りですぞ!」
「獣など恐るるに足らず!」
「我らの力を存分に見せつけてやろうではないか!」
決起した彼らは熱い思いを吐くのであった。
白熱する作戦会議は夜通し続き心に火が付いた彼らは「眠るのも惜しい」と猛るのだ。
「頼もしい方々が集まりましたわね」
「うん、人族は繋がりを大切にするからね。有難い事だよ」
会議の休憩にサロンへ来たロウナードは王女が手ずから淹れた茶をゆっくり嚥下しているところだ。さすがの重鎮たちも睡魔には勝てず各々が客室で仮眠をとっていた。
獣人たちが統べる国々は東大陸側に六国存在しているが一枚岩とはいかない連中だ。力を誇示し合い矜持が高い彼らは手を結ぶのを良しとしない。
「獣人は同盟を結ぶことをしないそうですわね、なんて愚か」
「ああ、その通りだよ。ヤツらは縄張り意識が強いから、牽制し相手を蹴り落とすことをしても協力することはしない」
茶を飲み干した皇子は些か眠くなってきたのか目を閉じて船を漕ぎ始めた。見兼ねた王女が「どうか客室へ」と促す。だが皇子はカウチに寝そべりたいと言う。
そして、カリノの膝枕を所望する。
「ああ、良い寝心地だ……オヤスミ」
「おやすみなさいませ、皇子殿下」
窓の隙間からは爽やかな微風が吹いてきて彼の淡い金髪を撫ぜる。王女はその刹那を「なんて幸せな時間なのでしょう」と小さく呟く。
彼らは近いうちに婚約を交わすであろうと侍従たちは噂した、獣王国フォルヴェスとの諍いが生じた今は不謹慎であるという声も上がりそうだったが、そんな些末なことは父王が蹴散らすに違いないと彼らは思う。
コルジオンの王都では、各国からお歴々共の魔導車が集まりだしたことを知りキナ臭さを感じ取っていた。
「やっぱり戦は避けられねぇのかな」
「そうだろうよ、だって攫うように姫を娶った癖に虐げて追い出したって話だろう?」
「いいや、姫が獣を嫌って逃げたってよ」
「どちらにせよ争いごとに発展してんだよ、なーに原始のままの獣人なんざ目じゃねぇよ」
今や、逞しい体躯を手に入れた人族は更に叡智の結晶と言える魔道具を開発している。侮っているのは頑迷なままの獣人族だけだ。学のない平民とて人族が優位な立場に変化しているのは理解していた。剣を交えるまでもなく歴然だ。
コルジオンを護る国境壁には自動式の弩砲を各所に設置を終えていた。これは帝国から派遣された兵によるものである。あまりに早い手際にコルジオン王は敬意すると共に畏怖した。
「流石としか言えませんな、帝国には頭が上がりませんぞ」
「なに、こちらへ出向くついでの仕事に過ぎませんよ。貴国は平坦な土地が多いですから先手を取ったほうが良いと考えました」
「なるほど……野戦築城を建て、塹壕を掘り敵襲に備える考えはありましたが古かったですかな」
「いいえ、それもまた戦い方の一つ。獣人は考えなしに突撃する傾向が強い。罠は多い方が良いですよ」
人海戦術に及ぶまでもなく叩き潰してくれようと、未来の皇帝ロウナードは腕を組んで唸る。
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
どうぞお好きになさってください
みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。
婚約者の第一王子殿下は言った。
「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」
公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。
「好きになさればよろしいわ」
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
お飾り妻は天井裏から覗いています。
七辻ゆゆ
恋愛
サヘルはお飾りの妻で、夫とは式で顔を合わせたきり。
何もさせてもらえず、退屈な彼女の趣味は、天井裏から夫と愛人の様子を覗くこと。そのうち、彼らの小説を書いてみようと思い立って……?
【短編】ルルリア第2夫人の穏やかな一生
ゆ
恋愛
帝国の騎士団長、ダグラス・ルルリアに嫁入りしたのは現宰相の次女、ダグラスより10も年の若いミリア・サランだった。
※不定期投稿
※タイトル訂正致しました
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~
山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。
この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。
父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。
顔が良いから、女性にモテる。
わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!?
自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。
*沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】