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オベール侯爵家

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昼間は寝ているアンドレの元を離れたジョルジュは些か冷静になった。魅了から解放されるからだ。
「ああ、どうして私はクリステルを手放したのだ?こんなにも愛しているのに」
クラクラする頭で考えたが後から後からアンドレの事が脳内から離れない。一番に愛しているのはクリステルのはずなのに彼の白い相貌が思い浮かんで邪魔をする。

「くぅ……私は冷静になれていない、しばらく通うのはよそうか」
そうしてふらつく体で屋敷へ戻れば冷たい視線で見てくる家令がいた。屋敷のことを丸投げしたいた己に「はっ」とした。

「すまないレイナード、私はどうにかしていた熱い湯を入れてくれないか?」
「畏まりましたメイドに命令しておきます」
新婚旅行をドタキャンして一週間が経った、今日この日は城仕えに戻る日だ。領地の運営をしつつ文化庁に勤めているのだ。


「ふう……あぁ、身体から毒素が抜けていくようだ」
温湯に浸かった彼は目を閉じて物思いに耽る、文字通り魅了魔法が抜けているのだ。いよいよ冷静になった頭でクリステルの事を思った。愛しさが心から湧き出て来た、彼女を思う気持ちは間違い様がない。

「そうだ、私は彼女の事を愛している!どうして気づかなかった!」
バシャリと湯を弾き飛ばして湯船から立ち上がる、いますぐにでも彼女を追わなけばと強く思う。

「レイナード!私は本日文化庁を休ませて貰う、私は重要な事を思い出したのだ!」
「若旦那様、いったいどうしたのです?」
「理由は後だ、任せたぞ」

バスローブも開けて歩き出した彼は頭髪も濡らしたまま肌着を着こむ、朝ご飯も食べずに向かうのはオベール家である。


***


昨夜遅くにオベール侯爵家に戻ってきたクリステルは遅い朝を寝ぼけ眼で迎えていた。よく眠れたはずがどうにも気分が優れない。それはそうだろう離縁を決めて帰って来たばかりなのだから。

「あっふ……ごめんなさいね、ブランチを摂っていいかしら?」
「はい、もちろんでございます」
侍女は丁寧に挨拶すると物の数分で用意をした、予め準備していたのかと驚く。

「ん、美味しい。ありがとう、紅茶が沁みるわ優しい味ね」
「ふふ、ミルクティでございますから」
そんな穏やかな遅めの朝食を摂っていると執事がドアを叩く、緊急事態とのことだ。

「なんです騒々しい」
「はい、お嬢様。バランド伯爵令息が突然現れまして、お会いしたいとの事です」
「まあ、ジョルジュが……」

胸がズクリと痛むかと思ったが予想に反して彼女の心は冷静で凪いでいた。彼女の中で彼は過去の人になっていたのだ。
「可笑しいわね昨日のことだと言うのに」
コロコロと笑うくらいには気持ちは落ち着いていた、そして彼女の判断は「会わない」というものだ。

「先触れも出さず会いに来るとは無礼だわ、追い返してかまわない」
「はい、承知いたしました」





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