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最終話
しおりを挟む執拗にブラックライトを浴びせてくるジョルジュに、アンドレは藻掻き苦しみながら憤慨した。すっかり虜にしたと思っていた人族如きが己に牙を剥いたことが許せない。
「ぐああああ!人族の分際で良くも!許さない、許さないぞ!」
ドロドロにとろけた皮膚を撒き散らしながら襲ってくる様は尋常ではない、焼け爛れた皮膚と肉が嫌な臭気を漂わせる。
「く、臭い!なんて臭いなんだ!寄るな化物め!あっちへ行け!」
「許せない!ぎぎゃああああ!」
ドスンバタンと暴れまわるジョルジョたちの異変に家人たちも「何事だ」と起き出してきた。だが、内鍵が掛けられていた主人の部屋は中々開きはしない。
「誰か家令を呼んできて、マスターキーが無ければ」
「あ、ああ分かった……なんてこった」
執事が家令がいるであろう一階に駆け下りて行く、一番奥の部屋にいる家令にはこの騒ぎが届かないらしい。
「……はぁはぁ、捕らえたぞジョルジュ……貴様を殺してボクも死ぬ!フハハハハッ」
「ぐう、止めろ……鼻が曲がりそうだ」
夜が明け始めたのか辺りが白みだしている、細身で華奢なはずのアンドレは渾身の力でもって彼の首を絞めていた。目鼻が腐り落ち、おどろおどろしい相貌に変化したアンドレはただの魔物だ。片方の目がドロリと汁を滴らせてジョルジュの口に入った。
「うごぉ!ぎぼぢ悪い……ゲホゲホ」
「まだだ、もっと苦しんでから死ね……くふふっ。どうだいグチャグチャにとろけたボクも可愛いだろう綺麗だろう?」
「ゲボゴボ……うげぇええ」
肉が削げ落ちた指が骨ばって首をギチギチと締め上げる、ジョルジュは彼の髪を苦し紛れに掴んだ。するとズルリと剥がれ落ちてきた、ハゲ上がった彼の顔は原型を留めていない。気持ち悪さと脅威でジョルジュの精神は限界だった。
「愛していたよ、旦那様……日々の糧としてね、クハハハッ!」
「おげええええ!」
***
口元を扇で覆う彼女は悲惨な状況を知らされ、不快な気分に陥った。
「あらまぁ……なかなか壮絶だったのね」
「はい、人伝に伺った話ですので、実態の方はわかりかねますが」
蝙蝠族だったアンドレという少年はドロドロにとろけてしまい原型が分からないと言う。その下には汚物に塗れたジョルジュが憤死していたらしい。
「ああ恐ろしいこと非業の死を遂げていたということかしら」
彼女は扇をバサバサとして厄介なものを払う仕草をする、噂話でさえも聞き留めるのが憚れるようだ。
そこに兄のカイルがやってきて労しそうに彼女の手を取る。彼女に良く似た美しい男性である。
「あぁ、完全に離縁する直前に彼が死んでしまった。これでは戸籍を穢されてしまうよ」
「別に良いのよ、もう誰も愛する気持ちはないわ」
「そんな事を言わないでクリス、キミのような美しい女性が寂しいことを」
それを聞いた彼女はゆるりと手を引っ込めて「私を政治の駒にするつもり?」と聞いた。
「そんな事はさせないよ、絶対にだ」
「ふぅん、まぁそのように思っておくわ」
「そうさ、何より防衛魔術と諜報の能力は捨てがたい。存分に発揮して貰わないとね」
「ほらやっぱり、油断も隙も無い」
彼女は苦笑いをしてなんとはなしに小さな丸い窓を作った、そこには掃除をサボっているメイドの姿が見えた。
「あら、困った子ね……うふふ」
「ん?何が見えたんだい?」
「うふ、ちょっとね」
彼女はそういうと隣の部屋の扉を開きお小言を言うのだ。
完
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