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約束の二年
しおりを挟む今川焼やカルメ焼きで切り盛りするハンナレッタは二年後の今日、いろいろな感情を綯交ぜにする。珍しいもの好きな貴族達は挙って買いに来て軌道に乗った。
そして、この頃合いでのところで追い出すことにしたボニート・ザカリード伯爵は、不敵な笑みを浮かべて婚姻届けを破り捨てさっさと出て行けと言った。
彼は姑息な事に婚姻届けを出していなかったのだ。
それを知ったハンナレッタは少し悔しいと思いつつも「これで良かったのよ」と安堵の溜息を吐く。
そして、内情を聞いたスーヤとラベンは立腹して暇を貰うことにした。
「ああ、下女など要らん!さっさと出て行け!」
「……お世話になりませんでした」
「でした!」
こうしてハンナレッタと下女を追い出したボニートは久しく見ていなかった店を見に行くことにした。店は小奇麗になっていて、不衛生だった場所とは思えない。
「はっはっは!思った通りだぞ、よしよし店内はどうか」
彼が入ると例の従業員たちが出迎えた、二人とも働いたこともないのに「お待ちしてました」と言う。
「うむ、繁盛していると聞いているぞ。その調子で頼むぞ!」
「はい、お任せを!」
「もちろんです」
ところが作ったこともない品を前に頭を捻る従業員たちだ。今川焼の再現を試みる。
「たぶんこんな感じよね?小麦と卵は入れてたはず」
「ああ、そうだよ。そんな感じて型に流すんだ」
四苦八苦して出来上がったものは斑焼けで粉っぽい、そして味がまったくしなかった。
「ええ、こんなものがあんなに売れていたの?」
「世間は味覚音痴なのか?」
とはいえ、注文が入れば作るしかない。見た目はそれっぽいが只の小麦の固まりだ、さっそくとクレームが付いた。
「なんだいこれは!クリームが入ってないし生地も不味い!金なんて払わないぞ」
「そ、そんな!一生懸命作ったのに」
一方でカルメ焼きのほうは更に悲惨で、真っ黒に焦げた砂糖を客に提供していた。
「ちょっと!どこがカルメ焼きなのよ!巫山戯ないでよ!」
「す、すいません!お、可笑しいな……ハハ」
砂糖を煮溶かしているのをチラ見した程度だったので、重曹が肝だという事がわからないのだ。怒ってしまった客達は「あの店は駄目だ」と一気に遠のいてしまった。
それから1週間後、売り上げにワクワクしてボニート・ザカリード伯爵はやってきた。
「どうだい売り上げの方は!以前よりも落ちてないだろうな」
「……それが」
帳簿を見たボニートは唖然とする、出費以外何も書かれていないからだ。
「お前達!これはどういうことだ?まさかネコババしたわけじゃあるまいな!」
「滅相もない……売り上げが無かっただけなのです」
「んなぁ!?売り上げがゼロだと言うのか!ならばこの出費はなんなのだ!小麦と卵を仕入れたのだろうが」
その詰問に渋々とレシピがないから作れないと彼らは言う。
「どういうことだ!お前達は手伝っていたはずだろう!?」
「そ、それは、その……」
従業員たちは裏でサボっていたなど言えやしない。
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