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妻の務め

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何故、夫となったシルヴァンがワザワザ離れを作ったのか。ロクサーヌは嫁いだその日に理解してしまった。
なんと嫁よりも早く居室を与えられたマリエッタが我が物顔で屋敷にいたからだ。夫シルヴァンは妹を愛妾として迎え入れたらしい。それ故の離れの屋敷だったのだ。だがロクサーヌはシルヴァンに爪の先ほども興味がない、勝手にするが良いと見ぬふりをした。

「あらぁ、お姉様。遅かったのね。お茶の時間はとうに終わってますわ」
サロンにて寛いでいた愚妹は憎たらしい笑みを浮かべて、茶菓子を食い散らかしていた。
「行儀が悪いわ、口元に何かのカスが付いているわよ」
「あっそ、そこの貴女拭いてちょうだい」

壁に控えていた侍女の一人がそそくさと駆け寄って妹の世話を焼いた、どうやら既に仲間に引き入れたらしい。他の侍女五名もマリエッタ側のようだった。あからさま過ぎるその態度を見た姉はこの屋敷は敵だらけなのだと察した。
かりにも女主人が帰ったというのに誰一人出迎えなかったし、世話に付こうとしないのだから。

仕方ないので婚姻後に居室だとシルヴァンに指定されたそこへ一人で向かう。
その部屋は必要最低限の家具はあったが、彼女の引っ越しの荷は解かれた様子がない。
「はぁ、自分で雇うしかなさそうね……でも雇った子が意地悪されても可哀そうね」
家事のほうは一通りできる彼女は敢えて侍従を付けるのは止めようと決心した。

「私の立ち位置はシルヴァンとマリエッタの愛を邪魔する悪女という所かしらね」
工房がある本邸での、義両親の相手をするのとは違う鬱陶しさを感じとった彼女は、この先どうしたものかと思案を巡らした。

夕餉の時間を迎え期待せずに食堂へ下りたロクサーヌは、一応は妻の分も用意されていたことに安堵した。さすがに館の主の手前で提供しないわけにはいかないようだ。
ただマリエッタだけは不服そうに頬を膨らませて「そんな女にパンなど要らないわよ」と言う。

「マリィ、気持ちはわかるが正妻と愛妾では立場が違うぞ、滅多なことは言うな。特に客人の前ではな」
「え~、なによつまんない!徹底的に虐めてやりたいのに!」
シルヴァンの言葉を聞いて、引っ越し早々にやらかした侍女達は顔色を悪くして下を向いている。常識で考えれば女主人を怒らせた方が後々拙いのだから。

その後、必要最低限の世話を焼くようになった侍女達だった、でもやはり態度は最悪なままだ。ロクサーヌは食事さえ用意してくれれば特に構われたくないと思ったが、働いている様子がない花畑な二人を見た侍女たちは誰が給金を払っているのかは理解したようだ。

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