完結 弄ぶのも大概に

音爽(ネソウ)

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翻弄

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とある週末の朝、オーストン侯爵家の玄関先でのことである。

「我儘が過ぎるよ、今日は公爵令嬢が熱を出されたから見舞いに行きたいんだ。邪魔をしないでくれ」
やや大袈裟に肩を竦めるクレッグはどこか演技がかっていた、女子に板挟みされる哀れな男とでも言いたいのだろうか。
「我儘って……先週約束した事ではないですか?しかもクレッグが誘ってきたのですわ!」
”週末は湖でボート遊びをしよう”と水曜に言い出したので、予定を開ける為ナタリアは苦労した。家庭教師から出された一週間分の課題を三日で終わらせ、ダンスの稽古も及第点を取るため必死に自主練をしたのである。
それがなにもかも無駄になったとあればナタリアでなくても激高する。

「私との約束を袖にするほど令嬢の病状は重篤なのですか?どのような病気ですの」
「え?……えーと確か恋愛小説に夢中になり過ぎて寝不足がたたり微熱が今朝出たそうだ」
「はぁ!?」
それのどこが見舞いに訪ねなけらばならない用事なのだろうと彼女は眩暈がする。寝不足が原因ならば見舞いなどせず勝手に寝かせれば済むことである。
「クレッグ!私をバカにしないで頂戴!」
遠出とあればそれなりの身支度が必要であり、共をする侍女や護衛とて暇ではないのだ。屋敷での仕事の調整もしなければならないのだから。

「バカになど……大袈裟だなぁ。こうして詫びに来たんだよ、予定をずらしてくれたらそれで解決じゃないか?」
ナタリアの剣幕にどこ吹く風のクレッグはどう見ても相手をコケにしていた。彼女は話にならないと立腹したまま屋敷へ戻った。
その直後、しばらく顔を見たくないと抗議文を彼に届けたが「可愛い嫉妬」といってクレッグは笑い飛ばした。


***

「あらまぁ、約束した覚えはなくってよ?」
突然訪問してきた無作法男に公爵令嬢は気怠そうに応対した、夜更かし癖のついた令嬢には午前中は一番眠い時間である。今すぐにでも仮眠を取りたいと目をしょぼつかせている。
門前払いでも良かったのだが見目だけは良いクレッグに騙されたメイドが招いてしまったらしい。
「空気が読めないメイドにはペナルティね、それでなんの御用かしら」
「えっと……美しい貴女に相応しいこれを」
見舞いの品だと差し出したのはガーベラの花束だった、他の令嬢だったなら頬を染て喜んだに違いない。
だが公爵令嬢は違った、なんの真似だと素気なくあしらい「花粉症の私への嫌がらせ」と取った様子だ。

「特に御用がないのなら御引き取りくださいな、とっても眠くて仕方ないのっハックション!」
「おおそれはいけない!早く横に」
「ですから!貴方のせいで眠れないのですわ!それに恋人を差し置いて女子の家を訪ねてくるなんてナタリア様が気の毒だわ!」

どうやら令嬢は見た目だけのクレッグには興味はないようだった。
面会当初から彼の非常識さを指摘しているのだが、彼にはいまいち伝わらないようだ。
「では、お体に障るので私はこれで失礼いたします」
「招いてもいませんし二日程度の寝不足で死にませんわよ、それよりナタリア嬢を蔑ろになさるのはおやめなさい」
近頃は他所の女性ばかりを優先して行動しがちな彼に令嬢は苦言を呈した。

「ナタリアですか。彼女は私を心から愛してくれている、私は果報者ですよフフフッ」
「……彼方って食えない人、いつか痛いしっぺ返しが来るわよ」

令嬢は去って行く彼の背中を見送り「バカな人、きっと愛し方を間違えているのね」と看破していた。
それから自身が寝不足気味だったことを誰が漏らしたのかと見当をつける。
「あの方と繋がりがあるのは……あぁそうだわ、赤い髪の派手な子」
いつも取り巻きの中心にいた女性の顔を浮かべた令嬢は、巻き込まれたくないと顔を顰めるのであった。



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