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幼少期篇
新しい執事
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フランシスはきょうも虚しい朝を迎えた、天蓋の下で大きな欠伸をした所に侍女が朝の支度へやってきた。
洗顔と歯磨きを済ませ、寝衣のままモーニングティーを飲む。
ショボショボの目を何度か瞬きして鏡を見た、両目の下のクマがまた濃くなった気がすると溜息を吐く。
「今日も診察はあるの?」
「いいえ、本日はございません。代わりに新しい執事が参ります」
フランシスは無関心そうに「へぇ」とだけ答え、何度目かわからない欠伸をした。
眠いのに目を瞑ってもウトウトするだけの日々を送ること2年、限界を超えた週に一度だけ死んだように眠れる。
先日8歳の誕生日を向かえて、一向に伸びない己の背丈を気にする年頃になった。
このままでは大人になっても小さいままなのかとゾッとした。
「せめて標準になりたいものだ」
ぽそりと呟く小さな主、侍女は聞こえないふりをして退室して行く。
「きょうの習い事はなんだっけ……どうでもいいか」
回らない頭でボンヤリと外を眺めた、庭園を侍従らが忙しく動いている。気候は初夏に入って草木の手入れが追いつかない様子だ。
出窓に頬杖をつきそれをなんとなく眺めて過ごす、必死に働いてくれる彼等に感謝の意を表してるつもりだ。
ポカポカと注ぐ陽光に舟を漕ぐ、それはとても浅い眠りで外音が耳に届いている状態。
草を入れる麻袋が足りないとか、熊手が古くて使いづらいと聞こえてくる。
そんな他愛ない会話が心地良かった。
青臭い草の香が鼻腔をくすぐる、ハッとして目を開けた。
「んん、一瞬だけ眠れた。ふぅ気持ち良かった……」
***
読みかけの小説を書棚から取り出しソファに寝そべった時、居室のドアを叩く音がした。
返事すれば入ってきたのは父ザインスと見知らぬ背の高い青年だった。
「フランシス、ここに控えるは新しい執事レイドル・コープスリピドだ。お前の世話をする専属になった」
「そうですか……」
「彼は王立学園を首席で卒業した優秀な男だ、フランの良い従者になるだろう」
青年のほうに視線を向けると表情の抜けた美しい顔があった。エリートらしい岩窟そうなオーラを纏っているように見える。
目が合うと恭しくお辞儀をして挨拶をしてくる。
「レイドルでございます、本日よりラグズウッド家にお仕えさせていただきます」
「そう、ボクは常に眠そうにしてるけど気にしないで」
素気なく挨拶をすると父は執務へ戻って行く、今日は休日だというのに勤勉なことだとフランシスは思う。
クワァと軽い欠伸をして小説の続きを読もうと開けば執事が無言で取り上げた。
「なに?」
フランシスは不機嫌になって執事を睨む。
「朝食を抜かれていると伺いました、軽くブランチをお取りください」
モノグルを掛けたその顔は酷く冷たいものだった、フランシスはコイツとは仲良くなれそうもないと渋面になる。
食欲はないとつっぱねるが聞く耳をもたない、いつの間に引いてきたのかワゴンからサラダとパン、スープを淡々とテーブルへ並べる。
「要らないと言っただろう」
「少しで良いのです、それとも食べさせて差し上げますか?甘えん坊さん」
「はぁ!?」
皿に小さく盛ったサラダをズイっとフランシスに押し付けてくる。
腹立たしいと思いつつ小馬鹿にされた小さな主は、これくらい食えるとフォークを取る。
それを見て執事は薄く笑みを浮かべた、してやったりという顔だ。
小さな主はプリプリと怒りながらサラダを口に運ぶ。
「……ん?なんだこれ美味い」
「はい、小エビのサラダでございます。ドレッシングは人参ベースの自信作です」
執事が自ら作ったと聞き二度驚いた、長年雇っている料理長のより美味しいサラダだった。
小粒の酸っぱい苺がアクセントになり余計に美味だった、気が付けば1ボウル食べていた。
「ボクは人参きらいなのに、不思議だ」
久しぶりの満腹を感じフランシスは満足そうに目を閉じる、フワリと眠気が襲う。
しかし数秒でパチリと目を開く、彼の不眠症はなかなか頑固であった。
のっぽの執事は小さく舌打ちした。
「お前なかなか良い性格してるね」
聞き咎めたフランシスに執事が苦笑して詫びる。
「坊ちゃんは胃を大きくする訓練が必要ですね、パンとスープが残りました」
「訓練てなに、サラダをたくさん食べたろう?」
我ながらよく食べたと自画自賛すれば、ぜんぜん足りないと執事が反論する。
「お前とは仲良くなれそうもない!」
フランシスは行儀悪くソファへ突っ伏し、食後の茶を拒否した。
「おや、残念です。デザートは特製のプディングでしたのに」
フランシスは食べたいと思ったが腹がパンパンで無理だった、「要らない」と返せば執事がまた舌打ちする。
初日の顔合わせは良好とは言えなかった。
洗顔と歯磨きを済ませ、寝衣のままモーニングティーを飲む。
ショボショボの目を何度か瞬きして鏡を見た、両目の下のクマがまた濃くなった気がすると溜息を吐く。
「今日も診察はあるの?」
「いいえ、本日はございません。代わりに新しい執事が参ります」
フランシスは無関心そうに「へぇ」とだけ答え、何度目かわからない欠伸をした。
眠いのに目を瞑ってもウトウトするだけの日々を送ること2年、限界を超えた週に一度だけ死んだように眠れる。
先日8歳の誕生日を向かえて、一向に伸びない己の背丈を気にする年頃になった。
このままでは大人になっても小さいままなのかとゾッとした。
「せめて標準になりたいものだ」
ぽそりと呟く小さな主、侍女は聞こえないふりをして退室して行く。
「きょうの習い事はなんだっけ……どうでもいいか」
回らない頭でボンヤリと外を眺めた、庭園を侍従らが忙しく動いている。気候は初夏に入って草木の手入れが追いつかない様子だ。
出窓に頬杖をつきそれをなんとなく眺めて過ごす、必死に働いてくれる彼等に感謝の意を表してるつもりだ。
ポカポカと注ぐ陽光に舟を漕ぐ、それはとても浅い眠りで外音が耳に届いている状態。
草を入れる麻袋が足りないとか、熊手が古くて使いづらいと聞こえてくる。
そんな他愛ない会話が心地良かった。
青臭い草の香が鼻腔をくすぐる、ハッとして目を開けた。
「んん、一瞬だけ眠れた。ふぅ気持ち良かった……」
***
読みかけの小説を書棚から取り出しソファに寝そべった時、居室のドアを叩く音がした。
返事すれば入ってきたのは父ザインスと見知らぬ背の高い青年だった。
「フランシス、ここに控えるは新しい執事レイドル・コープスリピドだ。お前の世話をする専属になった」
「そうですか……」
「彼は王立学園を首席で卒業した優秀な男だ、フランの良い従者になるだろう」
青年のほうに視線を向けると表情の抜けた美しい顔があった。エリートらしい岩窟そうなオーラを纏っているように見える。
目が合うと恭しくお辞儀をして挨拶をしてくる。
「レイドルでございます、本日よりラグズウッド家にお仕えさせていただきます」
「そう、ボクは常に眠そうにしてるけど気にしないで」
素気なく挨拶をすると父は執務へ戻って行く、今日は休日だというのに勤勉なことだとフランシスは思う。
クワァと軽い欠伸をして小説の続きを読もうと開けば執事が無言で取り上げた。
「なに?」
フランシスは不機嫌になって執事を睨む。
「朝食を抜かれていると伺いました、軽くブランチをお取りください」
モノグルを掛けたその顔は酷く冷たいものだった、フランシスはコイツとは仲良くなれそうもないと渋面になる。
食欲はないとつっぱねるが聞く耳をもたない、いつの間に引いてきたのかワゴンからサラダとパン、スープを淡々とテーブルへ並べる。
「要らないと言っただろう」
「少しで良いのです、それとも食べさせて差し上げますか?甘えん坊さん」
「はぁ!?」
皿に小さく盛ったサラダをズイっとフランシスに押し付けてくる。
腹立たしいと思いつつ小馬鹿にされた小さな主は、これくらい食えるとフォークを取る。
それを見て執事は薄く笑みを浮かべた、してやったりという顔だ。
小さな主はプリプリと怒りながらサラダを口に運ぶ。
「……ん?なんだこれ美味い」
「はい、小エビのサラダでございます。ドレッシングは人参ベースの自信作です」
執事が自ら作ったと聞き二度驚いた、長年雇っている料理長のより美味しいサラダだった。
小粒の酸っぱい苺がアクセントになり余計に美味だった、気が付けば1ボウル食べていた。
「ボクは人参きらいなのに、不思議だ」
久しぶりの満腹を感じフランシスは満足そうに目を閉じる、フワリと眠気が襲う。
しかし数秒でパチリと目を開く、彼の不眠症はなかなか頑固であった。
のっぽの執事は小さく舌打ちした。
「お前なかなか良い性格してるね」
聞き咎めたフランシスに執事が苦笑して詫びる。
「坊ちゃんは胃を大きくする訓練が必要ですね、パンとスープが残りました」
「訓練てなに、サラダをたくさん食べたろう?」
我ながらよく食べたと自画自賛すれば、ぜんぜん足りないと執事が反論する。
「お前とは仲良くなれそうもない!」
フランシスは行儀悪くソファへ突っ伏し、食後の茶を拒否した。
「おや、残念です。デザートは特製のプディングでしたのに」
フランシスは食べたいと思ったが腹がパンパンで無理だった、「要らない」と返せば執事がまた舌打ちする。
初日の顔合わせは良好とは言えなかった。
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