2 / 5
幼少期篇
執事の事情と猫のような坊ちゃん
しおりを挟む
伯爵家3男の私は勉学に励みあらゆる資格取得に力を注いだ。
それは継ぐ家がない立場ゆえ是が非でも王宮文官に就くためだった、卒業と同時に総務省文官の内定を貰えた、しかし横槍がきた。バカで有名な第4王子ことポルゲが従者になれと脅しをかけてきたのだ。
即答で断ると激高したポルゲが省庁へ根回しして内定取り消しを謀った、不当を訴えて内定は戻ったが一度出た醜聞は消えない。身に覚えのない謗りと嫌がらせは付いて回るに決まっている。
落胆した私はいっそ国外へでも出ようかと覚悟した。
だがそんな私を拾う人物が現れた、ラグスウッド公爵だ。彼は宰相で差別や不当をとても嫌う生真面目な人物だ。
かねてよりポルゲ王子の横暴と不正行為に諌言していた。
不当な扱いを受けた私に同情してくれて、好条件で屋敷で働かないかと誘ってくれた。
とても有難い話にすぐ飛びついた、聞けば御嫡男が病に苦しみ成長に影響をきたしているという。
在学中は栄養学や医学も齧った程度だったが新たに学ぶのは嫌いではない、知識が増えるのはむしろ喜ばしい。
一月ほど猶予を貰い不眠症対策を猛勉強して侯爵邸へ正式に執事として雇って頂いた。
嫡男の部屋へ通され当たり障りない挨拶をした。
「本日よりラグズウッド家にお仕えさせていただきます」
丁寧にお辞儀をするもそっけない返事しか返ってこなかった、だが相手は8歳のお子様だ仕方ない。
チラリと目が合ったフランシス様はとても華奢で儚げな美少年だった。なんとも庇護欲をそそられる。
普通の子より一回り小さく年齢より下に見えた、睫毛が長く青い大きな瞳が印象的だ。
さらりとかき上げた髪は少しく癖っ毛のプラチナブロンド、白い顔に良く似合うと思った。
フランシス様は侯爵が仕事へ戻るとつまらなそうに溜息を吐いて読書を続けようとした。
すかさず本を取り上げて食事を摂るようにお願いする。
さっそく駄々を捏ねたが少し矜持を突けば「自分で食べる!」とフォークを握る。
単純で可愛らしい、つい微笑んでしまった。
だが小馬鹿にしたと勘違いをされ「お前とは仲良くできない!」と宣言されてしまう。
懐かない子猫みたいで益々可愛い、いつか撫でまわして膝の上で寝て欲しいものだ。
ライスプディングを拒否されたので違うデザートを仕込まなければ……。
午後の茶請けにはホウレン草入りサブレとカボチャのケーキを用意しよう。
美味しく栄養を摂っていただかないと。
甘やかしたと見せかけて、栄養食をたっぷり食べていただく作戦を立てキッチンへ急いだ。
***
午後は小腹が空いた頃合いを見計らいケーキスタンドをいそいそと盛り付ける。
こういうものは多めに盛り付けるほうが食欲をそそるし見栄えが良い。
軽食のサンドウィッチもこっそり用意した、気が向いたら一口だけでも食べて欲しい。
薔薇園が見えるサロンへ坊ちゃんを誘う、読書を邪魔されてプリプリしている。とても可愛い……。
「美味しい菓子を用意しました、カードゲームなどもいかがでしょう?」
「カード?」
おお、食いつきましたね。
「はい、簡単なゲームでございます。メイドらも混ぜて楽しみましょう」
そう言って微笑んだのだが、なぜか怯えていらっしゃる。
「お前の笑顔……怖い、さっき読んだ挿絵の魔王みたいだ」
なんてこと!
「坊ちゃん、私は人間ですので怖くないですよ」
再び微笑むも余計に怯えてしまわれた……解せない。
ぎこちない笑顔でメイドがお茶を淹れ、私は茶菓子を皿に盛ると坊ちゃんに差し出す。
ぱぁっと花が咲いたように笑顔になる坊ちゃん、眼福です。
「お菓子は良い!美味しくて止まらない、3食これなら食べるのに!」
カリカリとホウレン草サブレを咀嚼される姿がリスのようで微笑ましい。
勢いでカボチャケーキも頬張る、口に合ったようで良かった。
「……もしかしてこれも作ったのか?」
「はい、午前中に仕込みました。美味しいですか?」
「ふん、まぁまぁだ……」
ケーキもペロリと平らげた坊ちゃんにサンドウィッチを薦めたが「もう無理」と拒否された。
チッ!
「お前、主の前で舌打ちはやめろ」
「御意、ですが一口だけでも食べてください、ローストビーフサンドです」
口元に運べば面倒そうにパクリと齧ってくれた、あぁ手ずから食べてくれた感激だ。
ニコニコしているとまた坊ちゃんが「怖い」と言う。
メイド達がソワソワしていたので下げて食べるよう伝えた。
それからカードを並べ簡単なゲームを遊んだ、神経衰弱は坊ちゃんは強かった。記憶力が良いのだろう。
「素晴らしいです、ほとんど一人勝ちですね」
「ふん、まぁまぁ楽しかったぞ」
飲んで食べて遊んだ坊ちゃんは少し瞼が重いようだ。
口を注ぎフラフラと歩く坊ちゃんは危なっかしい、いそいそと抱き上げれば抵抗されてしまった。
「坊ちゃん、危ないですから暴れないで」
「やーだー!歩く!眠くないもん!」
それでも小さい坊ちゃんは抵抗虚しく、寝室まで抱っこされてくれました。
「ふえええぇ!わぁぁぁん」
おやおや泣いてしまわれましたね。
眠気と怠さが一気にきて苛立っているのでしょう。むずがる赤子のようですね、うん可愛い。
トントンと背を叩けば泣き止みウトウトされています、手が痺れてきましたが耐えてみせます。
……もう少しで寝そうですよ、忍耐です。
目を閉じられたのでゆーっくりベッドに下ろします。
そっと腕を抜こうとしたら坊ちゃんの手が袖を握っていました。
仕方ありません、添い寝します。
寝顔が可愛い……こんどカメラを持参しましょう。公爵も喜ばれるはずです。
今は心のシャッターを100万回押しておきます。
それは継ぐ家がない立場ゆえ是が非でも王宮文官に就くためだった、卒業と同時に総務省文官の内定を貰えた、しかし横槍がきた。バカで有名な第4王子ことポルゲが従者になれと脅しをかけてきたのだ。
即答で断ると激高したポルゲが省庁へ根回しして内定取り消しを謀った、不当を訴えて内定は戻ったが一度出た醜聞は消えない。身に覚えのない謗りと嫌がらせは付いて回るに決まっている。
落胆した私はいっそ国外へでも出ようかと覚悟した。
だがそんな私を拾う人物が現れた、ラグスウッド公爵だ。彼は宰相で差別や不当をとても嫌う生真面目な人物だ。
かねてよりポルゲ王子の横暴と不正行為に諌言していた。
不当な扱いを受けた私に同情してくれて、好条件で屋敷で働かないかと誘ってくれた。
とても有難い話にすぐ飛びついた、聞けば御嫡男が病に苦しみ成長に影響をきたしているという。
在学中は栄養学や医学も齧った程度だったが新たに学ぶのは嫌いではない、知識が増えるのはむしろ喜ばしい。
一月ほど猶予を貰い不眠症対策を猛勉強して侯爵邸へ正式に執事として雇って頂いた。
嫡男の部屋へ通され当たり障りない挨拶をした。
「本日よりラグズウッド家にお仕えさせていただきます」
丁寧にお辞儀をするもそっけない返事しか返ってこなかった、だが相手は8歳のお子様だ仕方ない。
チラリと目が合ったフランシス様はとても華奢で儚げな美少年だった。なんとも庇護欲をそそられる。
普通の子より一回り小さく年齢より下に見えた、睫毛が長く青い大きな瞳が印象的だ。
さらりとかき上げた髪は少しく癖っ毛のプラチナブロンド、白い顔に良く似合うと思った。
フランシス様は侯爵が仕事へ戻るとつまらなそうに溜息を吐いて読書を続けようとした。
すかさず本を取り上げて食事を摂るようにお願いする。
さっそく駄々を捏ねたが少し矜持を突けば「自分で食べる!」とフォークを握る。
単純で可愛らしい、つい微笑んでしまった。
だが小馬鹿にしたと勘違いをされ「お前とは仲良くできない!」と宣言されてしまう。
懐かない子猫みたいで益々可愛い、いつか撫でまわして膝の上で寝て欲しいものだ。
ライスプディングを拒否されたので違うデザートを仕込まなければ……。
午後の茶請けにはホウレン草入りサブレとカボチャのケーキを用意しよう。
美味しく栄養を摂っていただかないと。
甘やかしたと見せかけて、栄養食をたっぷり食べていただく作戦を立てキッチンへ急いだ。
***
午後は小腹が空いた頃合いを見計らいケーキスタンドをいそいそと盛り付ける。
こういうものは多めに盛り付けるほうが食欲をそそるし見栄えが良い。
軽食のサンドウィッチもこっそり用意した、気が向いたら一口だけでも食べて欲しい。
薔薇園が見えるサロンへ坊ちゃんを誘う、読書を邪魔されてプリプリしている。とても可愛い……。
「美味しい菓子を用意しました、カードゲームなどもいかがでしょう?」
「カード?」
おお、食いつきましたね。
「はい、簡単なゲームでございます。メイドらも混ぜて楽しみましょう」
そう言って微笑んだのだが、なぜか怯えていらっしゃる。
「お前の笑顔……怖い、さっき読んだ挿絵の魔王みたいだ」
なんてこと!
「坊ちゃん、私は人間ですので怖くないですよ」
再び微笑むも余計に怯えてしまわれた……解せない。
ぎこちない笑顔でメイドがお茶を淹れ、私は茶菓子を皿に盛ると坊ちゃんに差し出す。
ぱぁっと花が咲いたように笑顔になる坊ちゃん、眼福です。
「お菓子は良い!美味しくて止まらない、3食これなら食べるのに!」
カリカリとホウレン草サブレを咀嚼される姿がリスのようで微笑ましい。
勢いでカボチャケーキも頬張る、口に合ったようで良かった。
「……もしかしてこれも作ったのか?」
「はい、午前中に仕込みました。美味しいですか?」
「ふん、まぁまぁだ……」
ケーキもペロリと平らげた坊ちゃんにサンドウィッチを薦めたが「もう無理」と拒否された。
チッ!
「お前、主の前で舌打ちはやめろ」
「御意、ですが一口だけでも食べてください、ローストビーフサンドです」
口元に運べば面倒そうにパクリと齧ってくれた、あぁ手ずから食べてくれた感激だ。
ニコニコしているとまた坊ちゃんが「怖い」と言う。
メイド達がソワソワしていたので下げて食べるよう伝えた。
それからカードを並べ簡単なゲームを遊んだ、神経衰弱は坊ちゃんは強かった。記憶力が良いのだろう。
「素晴らしいです、ほとんど一人勝ちですね」
「ふん、まぁまぁ楽しかったぞ」
飲んで食べて遊んだ坊ちゃんは少し瞼が重いようだ。
口を注ぎフラフラと歩く坊ちゃんは危なっかしい、いそいそと抱き上げれば抵抗されてしまった。
「坊ちゃん、危ないですから暴れないで」
「やーだー!歩く!眠くないもん!」
それでも小さい坊ちゃんは抵抗虚しく、寝室まで抱っこされてくれました。
「ふえええぇ!わぁぁぁん」
おやおや泣いてしまわれましたね。
眠気と怠さが一気にきて苛立っているのでしょう。むずがる赤子のようですね、うん可愛い。
トントンと背を叩けば泣き止みウトウトされています、手が痺れてきましたが耐えてみせます。
……もう少しで寝そうですよ、忍耐です。
目を閉じられたのでゆーっくりベッドに下ろします。
そっと腕を抜こうとしたら坊ちゃんの手が袖を握っていました。
仕方ありません、添い寝します。
寝顔が可愛い……こんどカメラを持参しましょう。公爵も喜ばれるはずです。
今は心のシャッターを100万回押しておきます。
0
あなたにおすすめの小説
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
冷血宰相の秘密は、ただひとりの少年だけが知っている
春夜夢
BL
「――誰にも言うな。これは、お前だけが知っていればいい」
王国最年少で宰相に就任した男、ゼフィルス=ル=レイグラン。
冷血無慈悲、感情を持たない政の化け物として恐れられる彼は、
なぜか、貧民街の少年リクを城へと引き取る。
誰に対しても一切の温情を見せないその男が、
唯一リクにだけは、優しく微笑む――
その裏に隠された、王政を揺るがす“とある秘密”とは。
孤児の少年が踏み入れたのは、
権謀術数渦巻く宰相の世界と、
その胸に秘められた「決して触れてはならない過去」。
これは、孤独なふたりが出会い、
やがて世界を変えていく、
静かで、甘くて、痛いほど愛しい恋の物語。
つぎはぎのよる
伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。
同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる