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幼少期篇
2年ぶりのお昼寝
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坊ちゃんことフランシスの昼寝は1時間ほどで終了した。
目を開けてすぐ、目の前に飛び込んで来た執事の怖い顔に一気に目が覚めたフランシスである。
「フギャー!」と叫び飛び起きた。
「坊ちゃん、疲れはとれましたか?」
執事の頬には赤い線が3本できていた、飛び退いた時にフランシスが引っ搔いた傷だ。
「ふぅー!ふぅー!」
まるで怯える子猫のようだと執事は思った、ニンマリ笑うとますますフランシスは怯えた。
寝起きから漸く落ち着けば、痛みなど気が付かないような執事の振る舞いにフランシスは呆れる。
「お前には痛覚が存在しないのか?手当してこい、見てるこっちが痛い」
「失礼いたしました、しばし離れます」
執事は何食わぬ顔で退室していく、「なんてヤツだ、ミミズ腫れになってるのに」フランシスはブチブチと言う。
元はと言えばフランシスのせいで怪我をしたのだが、驚きのが勝って謝罪すら頭から抜けてしまった。
「……戻ったら謝るか一応」
2年ぶりの昼寝は気持ち良かったとフランシスは思った、メイドが差し出した蒸しタオルで顔を拭う。
すっきりと頭が冴えたのがわかる、体も軽くなったフランシスはクルクルと居室を動きまわりメイドを驚かせた。
「活発な坊ちゃんは久しぶりに拝見します」
「そうか?そんなに違うものなのか」
手をグーパーしたり屈伸したり自分の身体の調子を改めて確認する。
「なるほど、手の浮腫みがない気がする、足がとても軽いぞ」
パタパタと速足で部屋を動き回れば、メイドは大袈裟に感動して拍手までしている。
いままでどれほど緩慢な動きでいたのだろうかとフランシスは頭を傾ぐ。
たった1時間の昼寝がこれほど元気になるなんてと本人もメイドも吃驚していた。
すると手当を終えた執事が戻り「お騒がせいたしました」と述べて膝を着く。
「いいや、ケガをさせたのはボクだろう。すまなかった、痛くはないか?」
「はい、軽い傷ですからすぐに治ります」
執事レイドルの頬には白い脱脂綿が貼られていた、フランシスは自分の頬をさする。
「ご心配かけました」
レイドルはニコリと笑う、とても怖い笑顔だがフランシスは耐えた。
「お前は朗らかに笑っているのだよな……たぶん」
「はいもちろんですよ?いままさに微笑んでいるのです」
疑問符を頭上にのせたようなレイドルに、これがコイツの普通の笑顔なんだとフランシスは理解した。
ほんのチョッピリだが心の距離が縮まった。
***
「え!おじい様とおばぁ様が来るの!?やったぁ!」
晩餐の席に祖父母が急遽参加するという知らせにフランシスは小躍りする。
老夫婦二人は隠居後に遠い領地へ蟄居していたため会うのは半年ぶりになるのだ。
ラグズウッド公爵邸は父子ふたりには広すぎて寂しいのだ、従者12名が住んでいるとはいえ身内ではない。
まだ8歳のフランシスには温もりが不足気味なのだ。
報せから2時間後、馬車の音が正面玄関へ届いた。
待ちきれないとばかりにフランシスは飛び出して出迎える。
「おじい様!おばあ様!おかえりなさい!」
「おお、フランや。元気そうでよかった、眠れないと聞いていたが大丈夫か?」
「はい、きょうは昼寝できたんですよ!すごいでしょ?」
孫の頭を交互に撫であう老夫婦の目じりは下がりっぱなしである。
「あぁフラン、お土産がいっぱいあるのよ。喜んでくれるかしら?」
「はい、もちろんです!おばあ様!」
亡き母の面差しに良く似た祖母に、べったり纏わりつくフランシスは少し涙目である。
2年前、病に倒れたフランシスの母ララウが儚くなって以来、孫が不眠症になったことを二人は心を痛めていた。
幼い孫との別居は母の葬儀後しばらくしてからであった。
当時は愛娘を失くした二人もノイローゼ気味になり、このままでは同時に倒れかねないと敢えて離れたのだ。
なにより次期公爵たるものに、甘やかすのを良しとしない父ザインスの厳しい判断でもあった。
振り返ればそれは英断とは言いかねる結果が残った。
ちなみに父方の両親は10年前他界していない。
晩餐は父ザインスが帰宅後すぐにはじまった。
ゆったりと始まった食事がデザートに変わり一息ついた時、祖母アメリが口火を切る。
「ザインス公、どうかしら同居のお話はこのままではフランが可哀そうよ」
亡き妻に良く似た義母の声にザインスは一瞬震え応える。
「はい、お心使い感謝いたします。ですがフランは漸く落ち着いて参りました、そして新しい生活を始めたところでもあるのです。どうか見守っていただけませんか」
ザインスの頑なな態度に夫妻は渋面になった。
「それはどういう事かね?貴殿はフランが可愛くないのか?」
苦言を吐いたのは祖父ヘンリーだ、孫を思う好々爺である彼は優しい顔立ちの御仁だ。
「いえ、決して。お言葉ですが優しさだけでは子は成長しません。しかしフランには安らぎと癒しを必要とも考えておりました」
「ならば新しい生活とはどんなことですの?」アメリが問う。
「心は健やかな身体に宿ると申します、フランを全力サポートする執事を就けました。着任して初日より彼はその能力を発揮し、2年ぶりに眠るという成果をだしたところです」
「さきほど聞いたお昼寝のことかしら?」
さようですと公爵は相槌を打つとレイドルを呼びつけた。
壁際にいた長身の青年がキビキビと歩いてきた。
「彼は今年エリート学園を首席で卒業した勤勉な男で、人柄も申し分ないと即決で雇った人物です」
夫妻は頑固な公爵に全幅の信頼を勝ち取った人物をまじまじと見つめた。
冷酷そうな相貌にやや不安を覚えた夫妻だが杞憂であったと納得するのは数分後のことである。
「レイドル・コープスリピドと申します、わたくしは……」
目を開けてすぐ、目の前に飛び込んで来た執事の怖い顔に一気に目が覚めたフランシスである。
「フギャー!」と叫び飛び起きた。
「坊ちゃん、疲れはとれましたか?」
執事の頬には赤い線が3本できていた、飛び退いた時にフランシスが引っ搔いた傷だ。
「ふぅー!ふぅー!」
まるで怯える子猫のようだと執事は思った、ニンマリ笑うとますますフランシスは怯えた。
寝起きから漸く落ち着けば、痛みなど気が付かないような執事の振る舞いにフランシスは呆れる。
「お前には痛覚が存在しないのか?手当してこい、見てるこっちが痛い」
「失礼いたしました、しばし離れます」
執事は何食わぬ顔で退室していく、「なんてヤツだ、ミミズ腫れになってるのに」フランシスはブチブチと言う。
元はと言えばフランシスのせいで怪我をしたのだが、驚きのが勝って謝罪すら頭から抜けてしまった。
「……戻ったら謝るか一応」
2年ぶりの昼寝は気持ち良かったとフランシスは思った、メイドが差し出した蒸しタオルで顔を拭う。
すっきりと頭が冴えたのがわかる、体も軽くなったフランシスはクルクルと居室を動きまわりメイドを驚かせた。
「活発な坊ちゃんは久しぶりに拝見します」
「そうか?そんなに違うものなのか」
手をグーパーしたり屈伸したり自分の身体の調子を改めて確認する。
「なるほど、手の浮腫みがない気がする、足がとても軽いぞ」
パタパタと速足で部屋を動き回れば、メイドは大袈裟に感動して拍手までしている。
いままでどれほど緩慢な動きでいたのだろうかとフランシスは頭を傾ぐ。
たった1時間の昼寝がこれほど元気になるなんてと本人もメイドも吃驚していた。
すると手当を終えた執事が戻り「お騒がせいたしました」と述べて膝を着く。
「いいや、ケガをさせたのはボクだろう。すまなかった、痛くはないか?」
「はい、軽い傷ですからすぐに治ります」
執事レイドルの頬には白い脱脂綿が貼られていた、フランシスは自分の頬をさする。
「ご心配かけました」
レイドルはニコリと笑う、とても怖い笑顔だがフランシスは耐えた。
「お前は朗らかに笑っているのだよな……たぶん」
「はいもちろんですよ?いままさに微笑んでいるのです」
疑問符を頭上にのせたようなレイドルに、これがコイツの普通の笑顔なんだとフランシスは理解した。
ほんのチョッピリだが心の距離が縮まった。
***
「え!おじい様とおばぁ様が来るの!?やったぁ!」
晩餐の席に祖父母が急遽参加するという知らせにフランシスは小躍りする。
老夫婦二人は隠居後に遠い領地へ蟄居していたため会うのは半年ぶりになるのだ。
ラグズウッド公爵邸は父子ふたりには広すぎて寂しいのだ、従者12名が住んでいるとはいえ身内ではない。
まだ8歳のフランシスには温もりが不足気味なのだ。
報せから2時間後、馬車の音が正面玄関へ届いた。
待ちきれないとばかりにフランシスは飛び出して出迎える。
「おじい様!おばあ様!おかえりなさい!」
「おお、フランや。元気そうでよかった、眠れないと聞いていたが大丈夫か?」
「はい、きょうは昼寝できたんですよ!すごいでしょ?」
孫の頭を交互に撫であう老夫婦の目じりは下がりっぱなしである。
「あぁフラン、お土産がいっぱいあるのよ。喜んでくれるかしら?」
「はい、もちろんです!おばあ様!」
亡き母の面差しに良く似た祖母に、べったり纏わりつくフランシスは少し涙目である。
2年前、病に倒れたフランシスの母ララウが儚くなって以来、孫が不眠症になったことを二人は心を痛めていた。
幼い孫との別居は母の葬儀後しばらくしてからであった。
当時は愛娘を失くした二人もノイローゼ気味になり、このままでは同時に倒れかねないと敢えて離れたのだ。
なにより次期公爵たるものに、甘やかすのを良しとしない父ザインスの厳しい判断でもあった。
振り返ればそれは英断とは言いかねる結果が残った。
ちなみに父方の両親は10年前他界していない。
晩餐は父ザインスが帰宅後すぐにはじまった。
ゆったりと始まった食事がデザートに変わり一息ついた時、祖母アメリが口火を切る。
「ザインス公、どうかしら同居のお話はこのままではフランが可哀そうよ」
亡き妻に良く似た義母の声にザインスは一瞬震え応える。
「はい、お心使い感謝いたします。ですがフランは漸く落ち着いて参りました、そして新しい生活を始めたところでもあるのです。どうか見守っていただけませんか」
ザインスの頑なな態度に夫妻は渋面になった。
「それはどういう事かね?貴殿はフランが可愛くないのか?」
苦言を吐いたのは祖父ヘンリーだ、孫を思う好々爺である彼は優しい顔立ちの御仁だ。
「いえ、決して。お言葉ですが優しさだけでは子は成長しません。しかしフランには安らぎと癒しを必要とも考えておりました」
「ならば新しい生活とはどんなことですの?」アメリが問う。
「心は健やかな身体に宿ると申します、フランを全力サポートする執事を就けました。着任して初日より彼はその能力を発揮し、2年ぶりに眠るという成果をだしたところです」
「さきほど聞いたお昼寝のことかしら?」
さようですと公爵は相槌を打つとレイドルを呼びつけた。
壁際にいた長身の青年がキビキビと歩いてきた。
「彼は今年エリート学園を首席で卒業した勤勉な男で、人柄も申し分ないと即決で雇った人物です」
夫妻は頑固な公爵に全幅の信頼を勝ち取った人物をまじまじと見つめた。
冷酷そうな相貌にやや不安を覚えた夫妻だが杞憂であったと納得するのは数分後のことである。
「レイドル・コープスリピドと申します、わたくしは……」
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