完結 歩く岩と言われた少女

音爽(ネソウ)

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恋敵と対峙

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城から戻ったノチェは仕事を卒なく熟す、しかし、それ以外では上の空な事が増えた。何をしていても生返事でティアは気が気ではない。
「なぁ、何かあったのかな、ノチェの様子がなにかおかしい」
「は?何故俺に聞くんだ?」
パウドは面倒そうにそう答えると、モンク用の装備品ナックルの微調整で忙しくしていた。聞きたい事があるのならば直接聞けば良いと彼は相手にしない。

「そうは言っても……相談くらいのってくれたって」
「ふん、俺は関わらない事にしている」
「うぐぅ」
やむなくレタルに知恵を拝借とそっちを向けば、彼は彼で最近知り合ったらしい女性の魔導士にべったりしていた。
どちらにせよ相手をしてくれそうもない。

「なんだよ、気が利かない野郎ばっかりじゃないか」
チラリと見たノチェは城に勤めることが減ったようだったが、どこか考え込む様子が増えていた。新たに問題を抱えたことはわかったが何を聞いて良いのかわからない。
「はぁああああ……どうすりゃ良いんだ」


ウジウジと考え込むティアを余所に彼女は「では、また」と言って席を立った。
今日の分の仕事はすでに終わっていて、各々が好き勝手に活動する時間になっている。ハッとしたティアだったがどう話しかけて良いがわからずフラフラと追いかける。
「なにあれ、ストーカー?」
「ほっとけよ、自分でなんとかする他ない」とパウドは吐き捨てる。
「へーい」


付かず離れずな状態で街中を行く、時折見知った顔がノチェに挨拶して談笑していた。それ以外は取り立てて目立つ行動はしていない。
「なにをやってんだ俺は……」
流石に無いと思ったティアはかぶりを振って引き返そうとした。ところがノチェは誰かを発見したのか小走りになった。
「なに!?ノチェは誰と会うんだ?」早速気になった彼は尾行をつづけるのだった。

「やぁ、申し訳ない」
「いいえ、気にしないでください」
ヤケに親し気な感じで談笑する二人にティアはやきもきする。今すぐにでも走りより「誰だ」と詰め寄りたい衝動に駆られた。
相手は二十代になったばかりらしい青年だ、一応は冒険者らしい恰好をしているがどう見てもその装束は安くはないと見受けられた。貴族かどこかの道楽息子という姿をしている。

「じゃあ行こうか」
「はい」
二人は連れだって歩き出し近くのカフェに入って行く、そこはティアが気になっていた所だった。さっさと彼女を誘ってしまえば良かったと後悔した。



「僕はパンケーキを頼もう、それとミルクティーだ」
「では私も同じものを」
そう言って微笑み返すノチェはどこか朗らかだ、とても楽しそうにしていた。それを見ていたティアは歯ぎしりしたくなった。

「ご注文をお伺いします」
「え、……あぁ珈琲を」
なんとか注文にこぎつけたティアはしょぼくれた感じだ、パンケーキなどと言う食べ物を聞いたことが無いと腹立たしい。気が付けばあちこちから甘い香りが漂う、どうやらそれがパンケーキらしいと知った。

「甘ったるいものを……あの男は食うのか」
チラリと見たその男は金髪碧眼の美丈夫らしい、所作がいちいちと優雅で上品であった。気が付けば彼は女性たちの視線を集めており、その一挙手一投を眺めてウットリしていた。
「けっ!」

やがてノチェのテーブルにもパンケーキセットが供された、やはり甘ったるい香りが刺激してくる。胸焼けを覚えたティアは珈琲のお代わりをしていた。
「うん、なんて甘いんだ。この糖蜜は独特だね」
「そうですね、メープルというらしいです。蜂蜜とは違います」
口に頬張るケーキをにこやかに咀嚼する彼女はとても嬉しそうで、羽が生えて飛ぶのではないかと錯覚した。
その蕩けそうな笑みを見て「可愛い」とティア思わず言ってしまう。

「え?ティアさん」
「あ……」
バツが悪そうにしてから「ごほん」と咳払いをして余裕そうに手を振ってみた。内心はバクバクと心臓が跳ねているがおくびにも出さない。
「あぁ、やはりティアさん。偶然ですね!」
「はは、いや珍しいところで会ったね」

「ノチェ、知り合いかな。同席したらどうかな」
「え、宜しいのですか?」
構わないよという言質をとってから「是非ティアさんもご一緒に」と同席を促してきた。

「そうか、そういう事ならお邪魔しよう」
ティアは優雅に立ち上がり髪の毛をスマートに掻き上げた、その仕草を目の当たりにした女性たちは黄色い声をあげた。
「キャア!青焔の戦斧のリーダーよ!」
「まぁ、ほんとうに!」
「なんと麗しいの!他の男たちが霞んでしまうわ」

やんややんやと持ち上げられたティアは満更でもない顔をした。
逆に霞むと言われた金髪碧眼の男子はピクリと反応して、「それはそれは」と半笑いで応戦した。
「申し遅れましたボクはマードという、以後お見知りおきを」
「いや、こちらこそ青焔の戦斧のティアという。宜しく」

「ははは」
「あははは」
なんということはない出会いであったが、ふたりは一瞬にして「ノチェの関係者」と嗅ぎ分けて牽制しあったのである。

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