双子の聖女

音爽(ネソウ)

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クラーラ発つ

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クラリスが婚約したと同時に唯一の聖女として国全体に公表され認定がされた。
つまり姉クラーラは市井に下ることになった。



彼女はそれを静かに受け止め、大司教に別れの挨拶をした。
「お世話になりました、ご恩は生涯忘れません」
「……大儀であった。どうか健やかに」


短く挨拶をした二人は微笑みあった。


「……お父様と呼んでも良いでしょうか?」
「それは心の中だけに留めなさい。私達は神に仕える身だ」


クラーラは一瞬顔を歪めたが、すぐに平静に戻して「さようなら、お元気で」と残して教会を去った。
さて、どうしようか。彼女が青い空を見上げてアレコレと考えていると、一人の僧兵が駆け寄った。


「クラーラ様!どうかご一緒させてください!貴女を護りたいのです」
「まぁ、聖女の身分を剥奪された私と共にいたら破門になるわ!」


それでもかまわないと僧兵はクラーラの前に跪いた。

「私は貴女こそが聖女だと確信しています!貴女を認めない教会も国にも未練はないのです!クラーラ様に仕えるのが私の幸せです」

「まぁ、ならばお願いよ。敬語はやめて?私はただのクラーラとして生きたいの」
「う、わかりまし……わかったよクラーラ様」

「様はいらないのに」

クラーラは苦笑すると僧兵を受け入れ、一緒に旅発つことにした。

「ところであなたの名は?」
「失礼しました!アレンと言います!」

「そう、アレン。敬語はだーめ!」
「はい!」

なかなか砕けてくれないアレンに、クラーラは困った顔で笑うのだった。



***


「ふーん、クラーラは出て行ったの。彼女には悪いけど仕方ないわ、市井で生きるなど私には無理だもの」
教会が月に一度、大掛かりな炊き出し会を行っていたことを思い出して彼女は鼻を鳴らす。


聖女のクラリスも幼い頃から参加させられてきたが、毎回嫌な思いをしてきた。
貧民街に赴いて行う炊き出しは苦痛でしかなかった。


王都の中心街とは違い、薄汚くてどこか昏いその街がクラリスは大嫌いだった。
街並みも人々も汚くて、異臭が漂い気分が悪くなった。


スープとパンを配る度に民が「ありがとう」と礼を言い、握手してくるのがクラリスにとって苦痛だった。
垢に塗れた手を触るのが嫌だと手を払ったこともあった。


汚れてる相手が悪いのに、泣いた貧民の子供が可哀そうだとクラーラは怒った。
納得のいかないクラリスは聖女ぶるクラーラに苛立つ。


「聖女だっていうならこの街と人々を浄化してみなさいよ!バッカみたい!」
クラリスがそう言えば、クラーラは悔しそうに涙を浮かべていた。


そんなことが何回かあったある年。
双子が13歳になった時、互いの能力に差が生まれてきたのに気が付く。


いつも通りの炊き出しをしていたら、クラーラが奇跡を起こした。

病に伏していた老人に心を痛めたクラーラが祈り、瞬く間に病を治してしまったのだ。
元気を取り戻した老人はクラーラ様は女神様に違いないと叫ぶ。


「大袈裟なこと」とクラリスは唾棄した。


しかし、その周囲にいた人々が薄汚れた成りから清潔な身体に変貌していたではないか。
「ほら!出来たわよクラリス!みんな綺麗になって元気になったわ!」
「な、なによ!それくらい!私にだって!」


クラリスも祈祷するとクラーラに及ばないが街の一角が清浄化された。
「すごい!クラリスもやっぱり聖女なのね!良かった!」

クラーラが自分の事のように喜んで、彼女に飛びついて抱きしめた。

「あ、当たり前でしょ!双子の聖女なんだから!ふふん!」
若干素直になれないクラリスはふんぞり返って言った。
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