融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
7 / 13

6

しおりを挟む
離縁から半月後。
コバンザメこと公爵邸では悲壮感が漂っていた。
調度品をはじめ贅沢品の数々に差し押さえ札が貼られ、身の置き場は床くらいであった。

目の前にあるのにソファに座れない、テーブルもしかり。
寝具も押さえられているので床に寝るしかなかった、庶民向けの質素なベッドならば助かったかもしれない。

明日にはここを出なければならない、しかし財産は持ち出せないので惨めこの上ない。
本来ならば猶予期間が与えられるが「逃亡隠蔽の疑い有」と裁判所から判断が下された。

伯爵家に融資を受けていながら、借金の返済をしていなかったからである。
どこまでも愚かな公爵家。
加えて離縁理由が元公爵家に有責と判決が下り、融資金返還と慰謝料の支払い命令も下された。


「父上」
「……なんだ、バカ息子」
「バカは父です、バカ。なんで返済してなかったんですか。」
責めるバカ息子に目を逸らし愚痴を零す。

「だって大穴だと思った馬が落馬して……、でも万馬券が取れたり。まーあれだ総じて負け越したのがよくなかったな、うん」
「賭け事はほどほどにと申したでしょう!ギャンブルは勝てない仕組みなんですよバカですか!」

「お前だって色事ばかり現をぬかしておったろうが!知ってんだぞ、レイチェル以外に愛人が5人もいることを!バーカバーカ!チOコ腐って死ね!」

「お前が死ね!」

公爵家は取り潰しになった、貴族を続けるには高額な税金を納めなければならない。
領地運営もできない無能なのだから当たり前の結果だ。

爵位はないが借金はある。
「父上、借金も財産だって聞いたことがあるよ」
「阿呆、くだらんことを言わず手足を動かせ」

かつての領地でバカ親子は農地開拓を強いられている。
身体はきついがご飯はうまい、雑穀やクズ野菜のスープが妙に美味しい。

農道に腰掛けて昼飯を食べている。
「不思議だ、ただの野菜なのに」
「新鮮な野菜は美味いんだよ、ほれ食ってみな」

雇い主の農夫がぶちりと抜いて葉野菜を寄越した。
恐々齧ると甘い味が広がった、ダニエルは驚く。
「野菜がこんなに甘くてうまいなんて……」

美味い野菜を食う家畜は元気に働くし、畜産動物は美味い肉に育つのだと農夫が言う。
「そうか、知らなかったよ」

貴族だった頃の贅沢な食事は、彼らが支えてくれていたのだと今更理解して泣いた。
だが一方で慣れない農作業にウンザリしていた父は農地から消えた。


後に盗みに手を染め、手配書が出回るほどの犯罪者に落ち、とある子爵家へ強盗に入り捕縛される。
しばらくしてダニエルが慰問に訪れた。
牢獄に入った父は、かつての威厳のかけらすらないジジィになっていた。

「父さん、俺が作った野菜だよ。食べるかい?」
責める言葉も浴びせずにダニエルは面会した。
病に伏した父は床について動けない状態だった、特別に牢内で面会が許された。温情から察するに長くないのだろう。

丸かった体躯はすっかりやせ細り身を震わせて父は泣いた、だが衰弱した体では野菜は食べられなかった。
目を閉じて「ありがとう」そう言うとそのまま眠るように逝った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「妹が欲しがるのだから与えるべきだ」と貴方は言うけれど……

小笠原 ゆか
恋愛
私の婚約者、アシュフォード侯爵家のエヴァンジェリンは、後妻の産んだ義妹ダルシニアを虐げている――そんな噂があった。次期王子妃として、ひいては次期王妃となるに相応しい振る舞いをするよう毎日叱責するが、エヴァンジェリンは聞き入れない。最後の手段として『婚約解消』を仄めかしても動じることなく彼女は私の下を去っていった。 この作品は『小説家になろう』でも公開中です。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません

天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。 ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。 屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。 家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

完璧な妹に全てを奪われた私に微笑んでくれたのは

今川幸乃
恋愛
ファーレン王国の大貴族、エルガルド公爵家には二人の姉妹がいた。 長女セシルは真面目だったが、何をやっても人並ぐらいの出来にしかならなかった。 次女リリーは逆に学問も手習いも容姿も図抜けていた。 リリー、両親、学問の先生などセシルに関わる人たちは皆彼女を「出来損ない」と蔑み、いじめを行う。 そんな時、王太子のクリストフと公爵家の縁談が持ち上がる。 父はリリーを推薦するが、クリストフは「二人に会って判断したい」と言った。 「どうせ会ってもリリーが選ばれる」と思ったセシルだったが、思わぬ方法でクリストフはリリーの本性を見抜くのだった。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?

百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」 あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。 で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。 そんな話ある? 「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」 たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。 あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね? でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する? 「君の妹と、君の婚約者がね」 「そう。薄情でしょう?」 「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」 「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」 イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。 あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。 ==================== (他「エブリスタ」様に投稿)

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。 彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。 しかし妾の子である妹を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。 だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。 父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。 そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。 程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。 彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。 戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。 彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

短編 一人目の婚約者を姉に、二人目の婚約者を妹に取られたので、猫と余生を過ごすことに決めました

朝陽千早
恋愛
二度の婚約破棄を経験し、すべてに疲れ果てた貴族令嬢ミゼリアは、山奥の屋敷に一人籠もることを決める。唯一の話し相手は、偶然出会った傷ついた猫・シエラル。静かな日々の中で、ミゼリアの凍った心は少しずつほぐれていった。 ある日、負傷した青年・セスを屋敷に迎え入れたことから、彼女の生活は少しずつ変化していく。過去に傷ついた二人と一匹の、不器用で温かな共同生活。しかし、セスはある日、何も告げず姿を消す── 「また、大切な人に置いていかれた」 残された手紙と金貨。揺れる感情と決意の中、ミゼリアはもう一度、失ったものを取り戻すため立ち上がる。 これは、孤独と再生、そして静かな愛を描いた物語。

処理中です...