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――ケリング家加工場でディアヌの果実芳香剤について親子会議が開かれた。

「ふむ、虫食いや廃棄物が再利用されるのは良い。だが加工コストと人権費は念頭に入っておるか?浅慮だぞ。」
社長である父の言葉は厳しい。
ディアヌは言葉が詰まった。経営者の冷静な目線と、新しいものを作り出す楽しいだけ提案は反り合わない。

「申し訳ありません、浅はかでした……」
シュンと項垂れた娘にケリング伯は狼狽えた。

「まてまて、着眼点は評価しているよ。ただ事業のひとつとして再考する必要があるのだ」
「そうなんですか?良かったわ」

食品ではない部門の立ち上げに、ケリング伯は慎重にならざるを得ないのだ。
「ディアヌ、5人ほど開発チームに加えてやろう。急くこともあるまい、小規模で研究しなさい。だが本業の足を引っ張るようなら頓挫になる覚悟をしなさい」
「ありがとうございます!頑張りますわ!」

香水とは違う芳香剤の開発は牛歩ながらも始まった。

***

帰宅後、少々浮かれ気味のディアヌは己を叱咤するように頬を軽く叩く。
「うまく行きますように……」
小さく欠伸をしてベッドに潜り込んだ、明日から忙しくなるからと早めの就寝をした。

その日は寝つきがやや悪く、漸くウトウトした時に屋敷が騒がしいのに気が付いた。
侍従らの声が交差してバタバタと走り回る足音がどんどん激しくなっていく。

「なにがあったのかしら?」
枕元の時計は23時になろうとしていた、メイド達ですら寝ている時間だ。

ただ事ではないとディアヌは飛び起きて、動きやすい服に着替え部屋を飛び出す。
階下と外で怒号が聞こえた、入れ物が足りないとか水がどうとか騒いでいる。
微かに燻したような臭いがディアヌの鼻を掠めた。

「まさか火事!?」

慌てて廊下を走り階段へ向かった時、背後に誰かの足音を耳にした。
メイドかと振り返れば、肥えた女が駆け寄ってくるのが目に入る。
面差しに見覚えがあるがディアヌは思い出せない、そもそもふくよかな知人はいなかった。

女の手には鈍く光るものがある、果物ナイフだと確認してデイアヌは恐怖する。
2階にはこの二人以外の人影はない、全員階下へ移動しているのだ。
不審者は騒ぎに乗じて屋敷に侵入していた。

ディアヌは応戦する手だてがない、必死に逃げることにした。
大太りの女は遅いながらもディアヌを追いかけてくる、恨まれるようなことをしただろうかと懸念を抱いて走った。

階段を降りようと手摺に手を掛けた時だ、ディアヌのすぐ横を何かが掠めて階段下へ落ちていった。
背後からナイフを投げつけられたのだ、ディアヌは恐ろしさに青くなる。

「い、いったい誰ですの!?」
勢いよく背後を振り返ると数メートル先で、太り肉ふとりじしの身体を辛そうに上下させこちらを睨む女。
お互いの目が合う、ゼイゼイと喘ぎながらもじりじりと女が迫ってくる。醜く歪んだ顔がはっきりしてきた。

やはりどこかで見た顔だ、だがディアヌは思い出せない。

「あ、あんたのせいで!あんたがあの男を繋ぎとめておかないから、私は、私は!」
その金切声を聞き漸くデイアヌは思い出した。


「……レイチェル、なぜあなたがここに?」

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