9 / 13
7
しおりを挟む
――ケリング家加工場でディアヌの果実芳香剤について親子会議が開かれた。
「ふむ、虫食いや廃棄物が再利用されるのは良い。だが加工コストと人権費は念頭に入っておるか?浅慮だぞ。」
社長である父の言葉は厳しい。
ディアヌは言葉が詰まった。経営者の冷静な目線と、新しいものを作り出す楽しいだけ提案は反り合わない。
「申し訳ありません、浅はかでした……」
シュンと項垂れた娘にケリング伯は狼狽えた。
「まてまて、着眼点は評価しているよ。ただ事業のひとつとして再考する必要があるのだ」
「そうなんですか?良かったわ」
食品ではない部門の立ち上げに、ケリング伯は慎重にならざるを得ないのだ。
「ディアヌ、5人ほど開発チームに加えてやろう。急くこともあるまい、小規模で研究しなさい。だが本業の足を引っ張るようなら頓挫になる覚悟をしなさい」
「ありがとうございます!頑張りますわ!」
香水とは違う芳香剤の開発は牛歩ながらも始まった。
***
帰宅後、少々浮かれ気味のディアヌは己を叱咤するように頬を軽く叩く。
「うまく行きますように……」
小さく欠伸をしてベッドに潜り込んだ、明日から忙しくなるからと早めの就寝をした。
その日は寝つきがやや悪く、漸くウトウトした時に屋敷が騒がしいのに気が付いた。
侍従らの声が交差してバタバタと走り回る足音がどんどん激しくなっていく。
「なにがあったのかしら?」
枕元の時計は23時になろうとしていた、メイド達ですら寝ている時間だ。
ただ事ではないとディアヌは飛び起きて、動きやすい服に着替え部屋を飛び出す。
階下と外で怒号が聞こえた、入れ物が足りないとか水がどうとか騒いでいる。
微かに燻したような臭いがディアヌの鼻を掠めた。
「まさか火事!?」
慌てて廊下を走り階段へ向かった時、背後に誰かの足音を耳にした。
メイドかと振り返れば、肥えた女が駆け寄ってくるのが目に入る。
面差しに見覚えがあるがディアヌは思い出せない、そもそもふくよかな知人はいなかった。
女の手には鈍く光るものがある、果物ナイフだと確認してデイアヌは恐怖する。
2階にはこの二人以外の人影はない、全員階下へ移動しているのだ。
不審者は騒ぎに乗じて屋敷に侵入していた。
ディアヌは応戦する手だてがない、必死に逃げることにした。
大太りの女は遅いながらもディアヌを追いかけてくる、恨まれるようなことをしただろうかと懸念を抱いて走った。
階段を降りようと手摺に手を掛けた時だ、ディアヌのすぐ横を何かが掠めて階段下へ落ちていった。
背後からナイフを投げつけられたのだ、ディアヌは恐ろしさに青くなる。
「い、いったい誰ですの!?」
勢いよく背後を振り返ると数メートル先で、太り肉の身体を辛そうに上下させこちらを睨む女。
お互いの目が合う、ゼイゼイと喘ぎながらもじりじりと女が迫ってくる。醜く歪んだ顔がはっきりしてきた。
やはりどこかで見た顔だ、だがディアヌは思い出せない。
「あ、あんたのせいで!あんたがあの男を繋ぎとめておかないから、私は、私は!」
その金切声を聞き漸くデイアヌは思い出した。
「……レイチェル、なぜあなたがここに?」
「ふむ、虫食いや廃棄物が再利用されるのは良い。だが加工コストと人権費は念頭に入っておるか?浅慮だぞ。」
社長である父の言葉は厳しい。
ディアヌは言葉が詰まった。経営者の冷静な目線と、新しいものを作り出す楽しいだけ提案は反り合わない。
「申し訳ありません、浅はかでした……」
シュンと項垂れた娘にケリング伯は狼狽えた。
「まてまて、着眼点は評価しているよ。ただ事業のひとつとして再考する必要があるのだ」
「そうなんですか?良かったわ」
食品ではない部門の立ち上げに、ケリング伯は慎重にならざるを得ないのだ。
「ディアヌ、5人ほど開発チームに加えてやろう。急くこともあるまい、小規模で研究しなさい。だが本業の足を引っ張るようなら頓挫になる覚悟をしなさい」
「ありがとうございます!頑張りますわ!」
香水とは違う芳香剤の開発は牛歩ながらも始まった。
***
帰宅後、少々浮かれ気味のディアヌは己を叱咤するように頬を軽く叩く。
「うまく行きますように……」
小さく欠伸をしてベッドに潜り込んだ、明日から忙しくなるからと早めの就寝をした。
その日は寝つきがやや悪く、漸くウトウトした時に屋敷が騒がしいのに気が付いた。
侍従らの声が交差してバタバタと走り回る足音がどんどん激しくなっていく。
「なにがあったのかしら?」
枕元の時計は23時になろうとしていた、メイド達ですら寝ている時間だ。
ただ事ではないとディアヌは飛び起きて、動きやすい服に着替え部屋を飛び出す。
階下と外で怒号が聞こえた、入れ物が足りないとか水がどうとか騒いでいる。
微かに燻したような臭いがディアヌの鼻を掠めた。
「まさか火事!?」
慌てて廊下を走り階段へ向かった時、背後に誰かの足音を耳にした。
メイドかと振り返れば、肥えた女が駆け寄ってくるのが目に入る。
面差しに見覚えがあるがディアヌは思い出せない、そもそもふくよかな知人はいなかった。
女の手には鈍く光るものがある、果物ナイフだと確認してデイアヌは恐怖する。
2階にはこの二人以外の人影はない、全員階下へ移動しているのだ。
不審者は騒ぎに乗じて屋敷に侵入していた。
ディアヌは応戦する手だてがない、必死に逃げることにした。
大太りの女は遅いながらもディアヌを追いかけてくる、恨まれるようなことをしただろうかと懸念を抱いて走った。
階段を降りようと手摺に手を掛けた時だ、ディアヌのすぐ横を何かが掠めて階段下へ落ちていった。
背後からナイフを投げつけられたのだ、ディアヌは恐ろしさに青くなる。
「い、いったい誰ですの!?」
勢いよく背後を振り返ると数メートル先で、太り肉の身体を辛そうに上下させこちらを睨む女。
お互いの目が合う、ゼイゼイと喘ぎながらもじりじりと女が迫ってくる。醜く歪んだ顔がはっきりしてきた。
やはりどこかで見た顔だ、だがディアヌは思い出せない。
「あ、あんたのせいで!あんたがあの男を繋ぎとめておかないから、私は、私は!」
その金切声を聞き漸くデイアヌは思い出した。
「……レイチェル、なぜあなたがここに?」
725
あなたにおすすめの小説
【完結】「妹が欲しがるのだから与えるべきだ」と貴方は言うけれど……
小笠原 ゆか
恋愛
私の婚約者、アシュフォード侯爵家のエヴァンジェリンは、後妻の産んだ義妹ダルシニアを虐げている――そんな噂があった。次期王子妃として、ひいては次期王妃となるに相応しい振る舞いをするよう毎日叱責するが、エヴァンジェリンは聞き入れない。最後の手段として『婚約解消』を仄めかしても動じることなく彼女は私の下を去っていった。
この作品は『小説家になろう』でも公開中です。
婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。
ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。
屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。
家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。
完璧な妹に全てを奪われた私に微笑んでくれたのは
今川幸乃
恋愛
ファーレン王国の大貴族、エルガルド公爵家には二人の姉妹がいた。
長女セシルは真面目だったが、何をやっても人並ぐらいの出来にしかならなかった。
次女リリーは逆に学問も手習いも容姿も図抜けていた。
リリー、両親、学問の先生などセシルに関わる人たちは皆彼女を「出来損ない」と蔑み、いじめを行う。
そんな時、王太子のクリストフと公爵家の縁談が持ち上がる。
父はリリーを推薦するが、クリストフは「二人に会って判断したい」と言った。
「どうせ会ってもリリーが選ばれる」と思ったセシルだったが、思わぬ方法でクリストフはリリーの本性を見抜くのだった。
【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです
よどら文鳥
恋愛
貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。
どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。
ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。
旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。
現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。
貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。
それすら理解せずに堂々と……。
仕方がありません。
旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。
ただし、平和的に叶えられるかは別です。
政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?
ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。
折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。
妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?
百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」
あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。
で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。
そんな話ある?
「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」
たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。
あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね?
でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する?
「君の妹と、君の婚約者がね」
「そう。薄情でしょう?」
「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」
「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」
イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。
あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。
====================
(他「エブリスタ」様に投稿)
私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。
木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。
彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。
しかし妾の子である妹を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。
だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。
父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。
そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。
程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。
彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。
戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。
彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。
短編 一人目の婚約者を姉に、二人目の婚約者を妹に取られたので、猫と余生を過ごすことに決めました
朝陽千早
恋愛
二度の婚約破棄を経験し、すべてに疲れ果てた貴族令嬢ミゼリアは、山奥の屋敷に一人籠もることを決める。唯一の話し相手は、偶然出会った傷ついた猫・シエラル。静かな日々の中で、ミゼリアの凍った心は少しずつほぐれていった。
ある日、負傷した青年・セスを屋敷に迎え入れたことから、彼女の生活は少しずつ変化していく。過去に傷ついた二人と一匹の、不器用で温かな共同生活。しかし、セスはある日、何も告げず姿を消す──
「また、大切な人に置いていかれた」
残された手紙と金貨。揺れる感情と決意の中、ミゼリアはもう一度、失ったものを取り戻すため立ち上がる。
これは、孤独と再生、そして静かな愛を描いた物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる