45 / 62
後日談
村おこし
しおりを挟む「でへへぇ」
腑抜けた顔を晒すのはクリストフである、見事に初夜を決めた彼は満面の笑みなのだ。結婚して七日目、漸く執政に戻るもこの調子なのだ。政務をこなしているが表情筋が緩みっぱなしで、側近が「やめてください」と諌言する。
「あ~悪い、ついな……次の事案はどれだ?」
「はい、こちらに」
仕事を溜めることはしないのだがどうにも締まりのない顔をする、側近はヤレヤレというように席に戻った。油断をするとすぐに「でれぇ」としてしまうのが難点だ。まったくもうと肩を竦める。
休憩に入ると彼は「う~ん」と背を伸ばす、猫背が癖になっているのかかなり辛そうだ。
「休憩に行ってきます」
「うん、ご苦労さん」
文官たちを見送ると自身も休憩へと出向いた、廊下を行くと見慣れた背を見つけて嬉しそうに声をかけた。
「チャチャ!こんな所で奇遇だね!」
「いやだわクリス、私もこの周辺で働いているのよ」
苦笑して答えるアリーチャは何かの瓶を持っていた、赤茶色のずんぐりとしたものだ。それは何だと尋ねれば、とある地方の果実だという。
「ロエヌベリーと言いますの、とても酸味が強いのですが砂糖や蜂蜜で加工すると美味しいのです」
「ほお、それは聞いたことが無いな」
ロエヌベリーは地方都市でしか出回らない、なのでクリストフが知らなくとも別に普通だ。なぜそんなものを嫁にきたばかりのアリーチャが知っているのかと疑問だ。
「私も最近知りましたの、ロエヌベリーは本来捨てられてきたのですもの。やはり酸味がね……」
「なるほど、そのままで食せないなら仕方ないな」
同じ籠に入っているロエヌベリーと思わしき実を見つめてそう言った。赤黒い実はブツブツとしていて気味が良いとは言い兼ねる。
染色などに使われて来たらしいが、発色が良いとは言い兼ねた。次第に廃れてきたのだとアリーチャは言う。
「でもこのほど栄養価が高いというデータが取れたのです!これを捨てるなんてもったいない!」
「は、はあ」
どうやら村おこしに使うべきだと息巻いているのだ、興味を持ったクリストフは是非話を聞かせてくれと頼み込む。
「では、休憩がてら試供品をお試しください」
「うん、そうさせて貰おうか」
***
ジャム、飲料、それからクッキーと製品化にこぎつけた。中でもジャムは定評があり是非にうちの商店でとひっぱりだこだ。
「良かったわ、こんなに評判が良いなんて」
「ああ、たしかにこのジャムは素晴らしいよ、とても良い香りで美味しい」
アリーチャ夫妻はニコニコと午後の茶の席で例のジャムを楽しんでいた。なかでもクロテッドクリームとの相性は抜群だ。
「ん~美味しい!いくらでも入ってしまうわ」
「ふふ、あまり食べ過ぎないでね、ふくよかなキミも良いけど」
「え……私太った!?」
「え、いいや」
彼女は青褪めてしまいプルプルと震えていた、クリストフの否定の言葉も届かないのか「太い私」とブツクサいっている。
そこへ、経理担当がやってきてこう述べた。
「ジャムの収支報告ですが、どうも可笑しいのです」
「おかしいとは?」
口を拭って聞き返すアリーチャは何事かと疑問に思った。売り上げは順調で飛ぶ鳥を落とす勢いだと聞いていた。もとより雑草並みに強い品種のロエヌベリーは放っておいても増えて行く。それだというのに……。
「どうも中抜きをされている様子です、余計な仲介者がいるようで……はい」
「なんですって?」
激しく怒ったアリーチャは「なんということ」といきり立った。
24
あなたにおすすめの小説
【完結】王妃を廃した、その後は……
かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。
地位や名誉……権力でさえ。
否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。
望んだものは、ただ一つ。
――あの人からの愛。
ただ、それだけだったというのに……。
「ラウラ! お前を廃妃とする!」
国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。
隣には妹のパウラ。
お腹には子どもが居ると言う。
何一つ持たず王城から追い出された私は……
静かな海へと身を沈める。
唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは……
そしてパウラは……
最期に笑うのは……?
それとも……救いは誰の手にもないのか
***************************
こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。
恩知らずの婚約破棄とその顛末
みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。
それも、婚約披露宴の前日に。
さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという!
家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが……
好奇にさらされる彼女を助けた人は。
前後編+おまけ、執筆済みです。
【続編開始しました】
執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。
矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
【完結】王女に婚約解消を申し出た男はどこへ行くのか〜そのお言葉は私の価値をご理解しておりませんの? 貴方に執着するなどありえません。
宇水涼麻
恋愛
コニャール王国には貴族子女専用の学園の昼休み。優雅にお茶を愉しむ女子生徒たちにとあるグループが険しい顔で近づいた。
「エトリア様。少々よろしいでしょうか?」
グループの中の男子生徒が声をかける。
エトリアの正体は?
声をかけた男子生徒の立ち位置は?
中世ヨーロッパ風の学園ものです。
皆様に応援いただき無事完結することができました。
ご感想をいただけますと嬉しいです。
今後ともよろしくお願いします。
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
お望み通り、別れて差し上げます!
珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」
本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?
あなたに未練などありません
風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」
初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。
わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。
数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。
そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる