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後日談
村おこし2
しおりを挟む販売先へ下ろしていた業者の一部が明かに高い値で売り付けていたことが露見した。これを受けて調査を開始したアリーチャはまったく関与していないはずの仲介役がいたことを突き止めた。
「通りで2~3割も高く売られていたわけね、これは由々しき事態だわ」
安価で幅広くを心がけていた彼女の意に反していた。立腹した彼女は今正にその業者へ抗議に向かう途中である。違反者を取り締まるために法務部も動いた、そしてクリストフも秘密裡に付き添う。
馬車を駆る中でプンスカと怒るアリーチャに「どうどう」と手綱を引くクリストフである。
「そんなに怒らないで、気持ちはわかるが」
「わかっておりますわ、でも私が手掛けた村おこしを台無しにしかねない行為なのです」
プリプリと怒る彼女だったが、一呼吸すると落ち着いたのかこう切り出した。
「先ずは私が何者なのか伏せて接したいと思います、相手の出方をみたいのです」
「ふむ、わかったボクは従者の体でいればいいかな?」
王子はニコニコと微笑み「ますます面白い」と言った、彼なりの意趣返しのつもりのようだ。
「まぁクリスったら悪そうな顔ね」
「ふふ、キミの真似のつもりだが?」
「あら~酷い!クスクス」
***
「これはこれは、どいった御用向きで?」
とある商会に出向いた一行を招き入れたのは一見は好々爺のような御仁だった。だが、目が笑っていない、食えない人物だとアリーチャは嗅ぎ取った。
「用件はひとつだけですわ、イマロ村特産のロエヌベリーのジャムの件です」
「はて?ロエヌベリーでございますか、あれは染物の原材料として仕入れていましたが今は廃れておりますな」
ノラリクラリとそのように述べる老人はなかなかの腹黒さと見えた。だが、追及の手を緩めるほどアリーチャは優しくない。
「私は”ジャム”の件といいましたのよ、あれは酸味がありますが食用に向いているのです。ご存じのはず」
「ほうほう、そのようなことになっていたとは知りませなんだ」
「……なんてこと」
嘘をついているのは明らかで、商人の後ろに控える使用人が膨大な汗を搔いていた。恐らくだが買い付けをしている片棒と見えた。
挙動不審になっている使用人を見つめてにっこりと微笑む、すると「ひえ」と小さく悲鳴を上げた。
「そこの方、どうかされまして?顔色がよろしくないわ」
「ひ、いいえ、別になにも」
老人の方は「ちっ」と小さく舌打ちして使用人の方へ杖を向けた。再び小さく悲鳴をあげる使用人である。
「とにかくですなうちはジャムなんてものは取り扱っておりません、生地などを生業にしておりますゆえ」
「へぇ、生地をね……少し見せていただいても?」
「はい、よろしいですよ」
老獪な商人はニコニコと笑い商品棚のほうへ案内する、麻布に木綿、少ないが絹なども取り扱っているようだ。不審な点は取り立てて見当たらない。
「ロエヌベリーを使った生地は残ってないのかしら?」
買い付けにやってきたヤリ手の商人らしく情報を聞き出すアリーチャは穏やかな口調で話す。時折、従者のフリをするクリストフと何かを相談するふりをしてみせた。
商人は「いまは残っていません」と答える、代わりに似た素材のものは如何かと聞いてくる。
「似た素材ねぇ、それはどのような品ですの?」
「ええ、お待ちください。そこのキミはお客人の茶を変えなさい」
「はい、旦那様」
使用人はそそくさと茶の替えをしに戻っていった。商人は棚をガサゴソとやっている、確かこの辺にあるのですがとやっている。
そこでアリーチャは鎌をかけてみる事にした。
「あらぁ?あれは何かしら、赤茶色の……ねぇ、クリス?」
「左様で、可笑しなことでございますね。これは巷で話題のアレでございませんか?」
それを聞き咎めた商人はビクリとして反転した、脂汗をじっとりと掻いていて大袈裟に驚いていた。
「んな!?なんですって?」
「ええ、ですから赤茶色の小瓶が見えたのですわ」
「そんなバカな!あれは、あのロエヌベリージャムは先週末に業者へ渡したはず」
するとアリーチャはニッコリと微笑み、「ロエヌベリージャムですって?」と言った。
「し、しまった……」
語るに落ちた商人は御用となった、後に裏帳簿が発見されて細かく調べられた。
「最後に私がジャム製作の発起人だとも知らず……教えるまでもなかったわ」
いざと云う時には身分を明かすつもりだった彼女は拍子抜けしたと語る。商人の罪はどうなるのか、ただの中抜き業者と裁くのか、はたまた妃殿下の商品を穢したことを追求するのか。
「ボクは徹底的にやるべきだと思うな」
「あら、そう?それは残念ね、う~ん反逆罪が妥当なのかしら?」
いずれにせよ、五体満足で商人が解放されるのは難しいようだ。
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