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後日談
新しい幸せ
しおりを挟む「ひぃふぅ、やれやれ」
アリーチャは額に薄っすらと汗を掻き、若干膨らんだお腹を撫でつける。侍女に水を頼んで涼みはじめた、ほんとうならば手足を冷やしたいところだが、それは止めて置いた。
あれからアリーチャは身籠り新たな幸せを掴んだ、なるべく薄着になって暑気払いをしている。いまは夏真っ只中なのだ。
「チャチャ!愛しい妻よ」
「まぁ、クリスったらまたサボりじゃないでしょうね?」
胡乱な目でジロリと見る妻は情け容赦なく疑問をぶつけてきた。
「そんなまさか!ちゃんとノルマは熟したさ、お陰で午後は余裕が出来たよ」
「そう、それならば良いわ」
王子宮にやたらと帰ってくる夫に苦笑して迎えるアリーチャは躾棒を後ろ手に隠した。
「何を隠したのチャチャ、怖いんだけど」
「なんでもないのよ、オホホホ」
「そんな事よりねぇ?」
おねだりする格好でクリストフは哀願してきた、お腹に触れたいようだ。まだそれほど膨らんでいないのに、やたらと触りたがるのだ。
「またですか?何度触ってもそれほど大きな変化はなくってよ」
「良いんだ、触れていたいんだよ。愛しい我が子だもの」
渋々とお腹に触れることを許可したアリーチャは「どうぞ」と言って膨らみを晒す。服の上から彼は優しく声をかけて「あぁベビー、可愛い子ちゃん」と嬉しそうだ。
「ふふふ、幸せな膨らみだよ」
「まったく、今からそれでは先が思いやられるわ」
「ねぇ、これがスイカ並みに膨れるってほんとうかい?破裂しない?」
「ぶふっ!しませんわよ!」
なにをバカな事をと彼女は思った、男性からみればやはり不思議なことなのだろうか。性別が女であることがわかっているので、すでにいくつかの名を候補にいれていた。
「やっぱりカワイイ名前を付けたいよねぇ、クリスティーナなんてどうかな?それともチャーリィ」
「気が早いです、まだまだ先があるのよ」
「そうだけどぉ」
ちょっと膨れた顔をする彼に「ぶっふー!」と笑ってしまうアリーチャなのだ。
***
「縁談ですって!?冗談ではない!」
激高した彼は机をダン!と叩いた、それもそのはずまだ生まれてもない赤子のご縁の話なのだから。
「ああ、怒るなクリス、あくまで候補に過ぎないのだから」
「それにしても不謹慎ではないですか!名前すら決定していませんよ」
プリプリと怒るクリストフは「誰が嫁になどやるものか」とご機嫌斜めである。このように生まれる前から婚約者候補があがるのは珍しいことではないのだが、彼にとってはそうではないらしい。
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