本編完結 堂々と浮気していますが、大丈夫ですか?

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
47 / 62
後日談

新しい幸せ

しおりを挟む


「ひぃふぅ、やれやれ」
アリーチャは額に薄っすらと汗を掻き、若干膨らんだお腹を撫でつける。侍女に水を頼んで涼みはじめた、ほんとうならば手足を冷やしたいところだが、それは止めて置いた。
あれからアリーチャは身籠り新たな幸せを掴んだ、なるべく薄着になって暑気払いをしている。いまは夏真っ只中なのだ。

「チャチャ!愛しい妻よ」
「まぁ、クリスったらまたサボりじゃないでしょうね?」
胡乱な目でジロリと見る妻は情け容赦なく疑問をぶつけてきた。

「そんなまさか!ちゃんとノルマは熟したさ、お陰で午後は余裕が出来たよ」
「そう、それならば良いわ」
王子宮にやたらと帰ってくる夫に苦笑して迎えるアリーチャは躾棒を後ろ手に隠した。
「何を隠したのチャチャ、怖いんだけど」
「なんでもないのよ、オホホホ」

「そんな事よりねぇ?」
おねだりする格好でクリストフは哀願してきた、お腹に触れたいようだ。まだそれほど膨らんでいないのに、やたらと触りたがるのだ。

「またですか?何度触ってもそれほど大きな変化はなくってよ」
「良いんだ、触れていたいんだよ。愛しい我が子だもの」
渋々とお腹に触れることを許可したアリーチャは「どうぞ」と言って膨らみを晒す。服の上から彼は優しく声をかけて「あぁベビー、可愛い子ちゃん」と嬉しそうだ。

「ふふふ、幸せな膨らみだよ」
「まったく、今からそれでは先が思いやられるわ」
「ねぇ、これがスイカ並みに膨れるってほんとうかい?破裂しない?」
「ぶふっ!しませんわよ!」

なにをバカな事をと彼女は思った、男性からみればやはり不思議なことなのだろうか。性別が女であることがわかっているので、すでにいくつかの名を候補にいれていた。
「やっぱりカワイイ名前を付けたいよねぇ、クリスティーナなんてどうかな?それともチャーリィ」
「気が早いです、まだまだ先があるのよ」
「そうだけどぉ」

ちょっと膨れた顔をする彼に「ぶっふー!」と笑ってしまうアリーチャなのだ。


***

「縁談ですって!?冗談ではない!」
激高した彼は机をダン!と叩いた、それもそのはずまだ生まれてもない赤子のご縁の話なのだから。
「ああ、怒るなクリス、あくまで候補に過ぎないのだから」
「それにしても不謹慎ではないですか!名前すら決定していませんよ」

プリプリと怒るクリストフは「誰が嫁になどやるものか」とご機嫌斜めである。このように生まれる前から婚約者候補があがるのは珍しいことではないのだが、彼にとってはそうではないらしい。
「まぁまぁ、いずれは断るつもりだよ、本人が意識もないのに決めるなど」
「当たり前です!」

そのような失礼な申し出をしたのは侯爵家だった。
名をアズバンという、アズバン卿は鼻持ちならない人物で黒い噂があった。あくまで噂なので対処のしようがない。
「アズバン……あんな所に嫁になどあってはならない」
不幸になるとわかっていて嫁にだすバカはいないだろうと彼は思った。

かの家は正妻のほかに第二、第三夫人を娶っていて諍いが絶えない。その第三夫人が去年子を成したのだ。男児だとういうことで王子殿下の子と是非とのことだ。
「鬱陶しいことだ、政略以外の何物でもないだろうに」
クリストフは苛立ち歯噛みしながら執務に励む、思いのほかに怒りが原動力となり仕事が捗ったのは不幸中の幸いだ。


しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

【完結】王女に婚約解消を申し出た男はどこへ行くのか〜そのお言葉は私の価値をご理解しておりませんの? 貴方に執着するなどありえません。

宇水涼麻
恋愛
 コニャール王国には貴族子女専用の学園の昼休み。優雅にお茶を愉しむ女子生徒たちにとあるグループが険しい顔で近づいた。 「エトリア様。少々よろしいでしょうか?」  グループの中の男子生徒が声をかける。  エトリアの正体は?  声をかけた男子生徒の立ち位置は?    中世ヨーロッパ風の学園ものです。  皆様に応援いただき無事完結することができました。 ご感想をいただけますと嬉しいです。 今後ともよろしくお願いします。

悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~

糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」 「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」 第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。 皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する! 規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

婚約破棄された公爵令嬢は、漆黒の王太子に溺愛されて永遠の光を掴む

鷹 綾
恋愛
### 内容紹介 **タイトル**: 「婚約破棄された公爵令嬢は、漆黒の王太子に溺愛されて永遠の光を掴む」 **ジャンル**: 異世界ファンタジー恋愛 / 婚約破棄ザマア / シンデレラストーリー / 溺愛甘々 **あらすじ(ネタバレなし)** 公爵令嬢ヴィオレッタは、幼馴染の王太子アルディオンに長年婚約を誓われていた。美しい容姿と優しい性格で宮廷でも愛されていたが、ある舞踏会の夜、アルディオンは突然平民出身の偽聖女セリナに心変わりし、ヴィオレッタを公衆の面前で婚約破棄する。「君はただの飾り物だ」との屈辱的な言葉とともに、家族からも見放され、追放の危機に陥る。 絶望の底で、ヴィオレッタの中に眠っていた古代の「影の魔法」が覚醒。影を操り、幻影を生み、予知する強大な力だ。一人旅立った彼女は、冒険者として生きながら、復讐の炎を胸に秘める。 そんなヴィオレッタの前に現れたのは、銀髪銀瞳の謎の美男子セイル。彼は隣国アストリアの「漆黒の王太子」で、政争から身を隠していた。最初はヴィオレッタの影の力を利用しようとするが、彼女の強さと純粋さに惹かれ、互いに心を開いていく。 二人は共闘し、アルディオンとセリナの陰謀を暴き、王国を救う。ヴィオレッタは屈辱を乗り越え、セイルに溺愛されながら、王妃として輝く未来を掴む。影と光が調和する、真実の愛と逆転の物語。

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。

秋月一花
恋愛
「イザベラ。君との婚約破棄を、ここに宣言する!」 「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」 「……え?」  あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。 「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」 「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」  そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下を見て、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結】病弱な幼馴染が大事だと婚約破棄されましたが、彼女は他の方と結婚するみたいですよ

冬月光輝
恋愛
婚約者である伯爵家の嫡男のマルサスには病弱な幼馴染がいる。 親同士が決めた結婚に最初から乗り気ではなかった彼は突然、私に土下座した。 「すまない。健康で強い君よりも俺は病弱なエリナの側に居たい。頼むから婚約を破棄してくれ」 あまりの勢いに押された私は婚約破棄を受け入れる。 ショックで暫く放心していた私だが父から新たな縁談を持ちかけられて、立ち直ろうと一歩を踏み出した。 「エリナのやつが、他の男と婚約していた!」 そんな中、幼馴染が既に婚約していることを知ったとマルサスが泣きついてくる。 さらに彼は私に復縁を迫ってくるも、私は既に第三王子と婚約していて……。

処理中です...