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暗黒騎士の女
テント暮らしが板に付いてきた頃、雨天が続く日々が続いた。
それでも彼女は臆することなく魔導式荷車で旅を続ける、地図を広げるもどのくらい移動したのか見当がつかなかった。
「海らしい景色が見えないんだよね、方向を誤ったかな?」
地図が示す街道通りに動いていた彼女の心に少しばかり不安が過る、急ぐ旅ではないが追手がいると知った以上は呑気にもできない。
「……それにしても付かず離れず、仕事とはいえよくやるよ。いつ寝てるのかな?」
雨音に忍んで付いてくる騎士を見ぬふりしてドーラは前方に視線をやる。
一本道なので捲いたところで何れは追い付かれる、かなり厄介なことだ。王子が放った暗黒騎士はなかなかの手練れのようだ。
魔法もないのに陰から陰へ移動する華麗さは魔法使いのドーラも舌を巻く。どれほど凄い運動神経を持っているのかと興味が湧いた。
雨が続く道中、とうとう目視困難なほどの大雨に見舞われた。
この地域は雨季に突入したらしいと理解したドーラは止む無く街道から外れ大木の下でテントを張り、小雨になるのを待つことにした。
「こんな日は暖かいスープだよねぇ、乾燥キノコが良い味出してるぅ」
簡易な竈に火をくべて粗食を摂るドーラ、乾パンを浸して貪っていると、いつもの気配がすぐ近くに来たことに気が付いた。
変わらず害意を見せないので彼女は放置したが、不穏な音が耳に入ってそちらを向かずにおれなかった。
「なに、なんの音よ……」
耳を澄ませて警戒していると、小さな呟きが聞こえて来て”ひもじい、寒い”と繰り返しているのがわかる。
事態を察したドーラは盛大に溜息を吐いて「城に帰れば?」と声をかける。
するとガサリと草を掻き分ける音がして、黒い塊が彼女の目の前にきて倒れ込んだではないか。
目を点にしたドーラは何事かと益々警戒した、だが塊はピクリとも動かない。
その辺に落ちていた枝でツンツンと突いたがやはり変化がない。
「めんどくさ、寝たフリしても私には通じないからね。乾パンが欲しいなら土下座でもしやがれってのよ」
すると微動だにしなかったソイツがガバリと半身を起こすとそのまま土下座してきた。
「恥ずかしながら道中で携帯食を失くしました!どうかご慈悲を!」
「はいはい、素直でよろしい」
***
食糧をわけてやったドーラは、城へ戻れと諭すのだが、騎士は頑なに「それはできない」と言った。
「私の使命は貴女様を保護し王子殿下の元へお連れすることです」
「は?あんた私がされてきた処遇を知っての発言なの?バカにしないでよ、消し炭にしても良いのよ?」
「ひ!ご勘弁を!」
騎士はブルーノ王子殿下が必ず王政改革をしますからと説いてくるのだが、たかが第二王子ひとりが動こうと城に蔓延る魍魎共が改心するはずがないと相手にしない。
「だいたいそんな偉業がなせる人物がどうして八年も放置してきたの?無能ぶりしか見てないわよ」
「ぐっ!殿下を悪く言わないでください!酷いです、気は弱いですが、あの方は心根の優しい王子で素敵な人です」
予期してなかった反論にドーラは目を見開いた。
「あー、なるほど王子に懸想してんのね。わかりやすっ」
「な、ななななななななんてことを」
動揺が激しいことが全てを物語っていた、黒い仮面の下の表情は読みようがないがクネクネと身を捩り照れている様はバレバレである。
「帰れよ、ほんとに!めんどくさいのは嫌よ」
「で、でも……王子は貴女様を恋い慕っておいでです。臣下の私などとんでもない」
分を弁えている所は汲むがドーラにはそんな恋慕などミジンコほども持っていない、天地がひっくり返ろうと城には戻らないと怒った。
「付いてくるのは勝手だけど、今日みたいに迷惑をかけないで、野垂れ死ぬなら私の視界から外れてね」
「うう、わかりました。出直します……」
食糧なんてその辺の獣で事足りるのではとドーラは疑問を浮かべるが、騎士は肉類が苦手なのかもしれないと片づける。
「兵糧を確保次第すぐに追いつきますので!お元気で!」
「くんな!」
それでも彼女は臆することなく魔導式荷車で旅を続ける、地図を広げるもどのくらい移動したのか見当がつかなかった。
「海らしい景色が見えないんだよね、方向を誤ったかな?」
地図が示す街道通りに動いていた彼女の心に少しばかり不安が過る、急ぐ旅ではないが追手がいると知った以上は呑気にもできない。
「……それにしても付かず離れず、仕事とはいえよくやるよ。いつ寝てるのかな?」
雨音に忍んで付いてくる騎士を見ぬふりしてドーラは前方に視線をやる。
一本道なので捲いたところで何れは追い付かれる、かなり厄介なことだ。王子が放った暗黒騎士はなかなかの手練れのようだ。
魔法もないのに陰から陰へ移動する華麗さは魔法使いのドーラも舌を巻く。どれほど凄い運動神経を持っているのかと興味が湧いた。
雨が続く道中、とうとう目視困難なほどの大雨に見舞われた。
この地域は雨季に突入したらしいと理解したドーラは止む無く街道から外れ大木の下でテントを張り、小雨になるのを待つことにした。
「こんな日は暖かいスープだよねぇ、乾燥キノコが良い味出してるぅ」
簡易な竈に火をくべて粗食を摂るドーラ、乾パンを浸して貪っていると、いつもの気配がすぐ近くに来たことに気が付いた。
変わらず害意を見せないので彼女は放置したが、不穏な音が耳に入ってそちらを向かずにおれなかった。
「なに、なんの音よ……」
耳を澄ませて警戒していると、小さな呟きが聞こえて来て”ひもじい、寒い”と繰り返しているのがわかる。
事態を察したドーラは盛大に溜息を吐いて「城に帰れば?」と声をかける。
するとガサリと草を掻き分ける音がして、黒い塊が彼女の目の前にきて倒れ込んだではないか。
目を点にしたドーラは何事かと益々警戒した、だが塊はピクリとも動かない。
その辺に落ちていた枝でツンツンと突いたがやはり変化がない。
「めんどくさ、寝たフリしても私には通じないからね。乾パンが欲しいなら土下座でもしやがれってのよ」
すると微動だにしなかったソイツがガバリと半身を起こすとそのまま土下座してきた。
「恥ずかしながら道中で携帯食を失くしました!どうかご慈悲を!」
「はいはい、素直でよろしい」
***
食糧をわけてやったドーラは、城へ戻れと諭すのだが、騎士は頑なに「それはできない」と言った。
「私の使命は貴女様を保護し王子殿下の元へお連れすることです」
「は?あんた私がされてきた処遇を知っての発言なの?バカにしないでよ、消し炭にしても良いのよ?」
「ひ!ご勘弁を!」
騎士はブルーノ王子殿下が必ず王政改革をしますからと説いてくるのだが、たかが第二王子ひとりが動こうと城に蔓延る魍魎共が改心するはずがないと相手にしない。
「だいたいそんな偉業がなせる人物がどうして八年も放置してきたの?無能ぶりしか見てないわよ」
「ぐっ!殿下を悪く言わないでください!酷いです、気は弱いですが、あの方は心根の優しい王子で素敵な人です」
予期してなかった反論にドーラは目を見開いた。
「あー、なるほど王子に懸想してんのね。わかりやすっ」
「な、ななななななななんてことを」
動揺が激しいことが全てを物語っていた、黒い仮面の下の表情は読みようがないがクネクネと身を捩り照れている様はバレバレである。
「帰れよ、ほんとに!めんどくさいのは嫌よ」
「で、でも……王子は貴女様を恋い慕っておいでです。臣下の私などとんでもない」
分を弁えている所は汲むがドーラにはそんな恋慕などミジンコほども持っていない、天地がひっくり返ろうと城には戻らないと怒った。
「付いてくるのは勝手だけど、今日みたいに迷惑をかけないで、野垂れ死ぬなら私の視界から外れてね」
「うう、わかりました。出直します……」
食糧なんてその辺の獣で事足りるのではとドーラは疑問を浮かべるが、騎士は肉類が苦手なのかもしれないと片づける。
「兵糧を確保次第すぐに追いつきますので!お元気で!」
「くんな!」
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