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荒れる王都アルニムと海の街ブルホフ
なんでもこなして、無茶な要望を受け入れていた魔女が消えた王都は徐々に荒み始めていた。
ドーラが出先で被った大雨だが、この地も同様に雨季を迎えていたのである。通年よりも早めに訪れてしまったこともあり、早々に王都周辺の低地区域では河川の氾濫が始まっていた。
過去に造設されていた堤防に土嚢を積み上げて補い、なんとか凌いではいたが、長雨が続けば広範囲に影響を及ぼすのは容易に予想できる。各省庁は奔走するも彼らの施策は遅くて後手に回るばかりであった。
畑は川沿いに広がっている、これから麦の穂が実るタイミングでの雨害は大打撃であろう。
臣下を怒鳴りつけるしか脳が無い王は、激しく降りつける雨を執務室の窓から睨むことしか出来ず常に苛立っていた。僅かな希望があるとしたらそれは第一王子の法螺くらいである。
大口を叩いたエリアス王子は、すぐに旅発つと思われたが一向にその動きを見せないのも王が立腹する一因だ。
王達が急かして焚きつけても王子はノラリクラリと理由をつけて出立を遅らせている。
所詮は口先だけのボンクラだと一部の者は彼を看破しているのだ。
「兄上、父が癇癪を起す前になんとかしないと」
「はん、五月蠅いな。お前だって婚約者だろうに、私よりもまず動くべきではないのか?相手にされるとは思えないがな」
己の事は棚上げして鼻で笑う兄エリアスは全てにおいて凡庸な弟を常日頃から小馬鹿にしていた。魔女カサンドラを慰めることもできなかったのは事実である。魔力だけは高いエリアスは様々な魔道具が使えるので愚弟よりは髪の毛一本ほどマシなだけだ。
「お言葉ですが、私はすでに騎士を迎えに放っております。以前のような酷使もしないという託けと共にね」
「は?お前はバカか、信用もされてない癖に、結局は自身で動いていないのは同じじゃないか有能な暗黒騎士をお前如きに託した父上も愚かだ」
「ぐ、それは……災害対策で手一杯なのですから代理を立てるしか」
目くそ鼻くそな兄弟は建設的な会話を一度とて交わしていない事に気が付いていないのだ。
友好国へ支援を求める他に手立てが無くなったアルニム国は、外交官を各所に向かわせ始める。
僅かながらに支援は約束されるも、これまで魔女が誕生した事でマウントを取って来たアルニムは心象が悪い。
愚かな彼らは「やはり魔女カサンドラを呼び戻す」としか答えを見出せないのだった。
***
その頃、長雨に翻弄されながらもドーラが遠くに海らしきを発見して小躍りしていた。
止まない雨が彼女の視界を邪魔するが、青灰で水平に広がるのは間違いなく海である。
「あれが水平線か、絵でしか見たことがないけどスゴイわ!想像以上の景色よ」
心躍らせるドーラは王都のことなど頭の端にすらない、彼女の情は完全に生誕地について無関心になっている。
牛歩ながらも目的地へと近づく彼女は期待で胸が熱くなっている、逸る心はすでに海に浸かっているのだ。
「えーっとここが漁業の街ブルホフか、雨が残念だけど活気があるわね!」
海をまったく知らないドーラは雨季だろうと船を出すことを知ってさらに驚いた。
街の中心に開かれるマーケットには山のように積まれた魚を見て驚愕するのだ。
「すごーい、新鮮な魚がいっぱい。これはなんて魚かな」
物珍しく視線が忙しい彼女の様子はどう見ても余所者とバレバレだ、人の良さそうな老婆が「今の時期こそ美味しい魚がいるんだよ」と教えてくれた。
「旅の人ならマーケットより食堂街へ行ってみな、美味しい料理を提供する店がたくさんあるよ」
「ほんと!?ありがとうございますオバ様!」
「おばさま?ありゃあ恥ずかしい、上品な呼び方されたのは初めてさアハハハハッ」
「え、へへへへ」
ドーラはかつて貴族であった名残が言葉に出てしまう、冒険者らしい物言いを身に着けていた気でいたがまだ抜けきれないようだ。
「いやいや、焦ったわ。捨てた身分がバレたら嫌だな」
彼女は冷や汗を掻きながら、街にそぼ降る雨の中を歩く、マーケットから然程離れていない食堂街は数分で着いた。
青やオレンジ色の屋根が並ぶそこはとても華やかだ、どこに入ろうか迷っているとどこからか流れてきた香ばしい匂いに鼻腔を擽られた。
「いい匂い!こっちかな?」
白い煙が昇るそこと定めてドーラは店のドアを開く、途端に「らっしゃい!」と声が掛かってビクッとした。
「えっと1名お願いします、このいい匂いはなんですか?」
「はいはい、イワシの塩焼きだよ。メバルとサバも美味いよ。好きな席へどうぞ」
「ありがとう!」
壁際の席に座るとメニューを差し出された彼女は、生で食べる料理を見て驚いた。少し躊躇ったが新鮮な魚介を期待してカルパッチョと塩焼きを頼む。
料理はすぐにテーブルへ届き、サービスだと言って白ワインを一杯ご馳走になる。
「良いんですか?嬉しい」
「楽しんで下さいね、どうぞご贔屓に」
明るく活発そうな給仕の女子はウインクして厨房へと戻って行く。
ドーラはさっそく白ワインを口に含み料理を味わうことにした、どれもこれも新鮮で臭みなどは感じなかった。
「おいしーい!生の魚ってこんなに美味しいのね、火を通さないと独特の触感……ハマりそう」
掻き込むような勢いで平らげた彼女は次々と追加注文をするのである。
「くー!海老とイカのピッツァがたまらない、もっと早く家出すれば良かった!」
ドーラが出先で被った大雨だが、この地も同様に雨季を迎えていたのである。通年よりも早めに訪れてしまったこともあり、早々に王都周辺の低地区域では河川の氾濫が始まっていた。
過去に造設されていた堤防に土嚢を積み上げて補い、なんとか凌いではいたが、長雨が続けば広範囲に影響を及ぼすのは容易に予想できる。各省庁は奔走するも彼らの施策は遅くて後手に回るばかりであった。
畑は川沿いに広がっている、これから麦の穂が実るタイミングでの雨害は大打撃であろう。
臣下を怒鳴りつけるしか脳が無い王は、激しく降りつける雨を執務室の窓から睨むことしか出来ず常に苛立っていた。僅かな希望があるとしたらそれは第一王子の法螺くらいである。
大口を叩いたエリアス王子は、すぐに旅発つと思われたが一向にその動きを見せないのも王が立腹する一因だ。
王達が急かして焚きつけても王子はノラリクラリと理由をつけて出立を遅らせている。
所詮は口先だけのボンクラだと一部の者は彼を看破しているのだ。
「兄上、父が癇癪を起す前になんとかしないと」
「はん、五月蠅いな。お前だって婚約者だろうに、私よりもまず動くべきではないのか?相手にされるとは思えないがな」
己の事は棚上げして鼻で笑う兄エリアスは全てにおいて凡庸な弟を常日頃から小馬鹿にしていた。魔女カサンドラを慰めることもできなかったのは事実である。魔力だけは高いエリアスは様々な魔道具が使えるので愚弟よりは髪の毛一本ほどマシなだけだ。
「お言葉ですが、私はすでに騎士を迎えに放っております。以前のような酷使もしないという託けと共にね」
「は?お前はバカか、信用もされてない癖に、結局は自身で動いていないのは同じじゃないか有能な暗黒騎士をお前如きに託した父上も愚かだ」
「ぐ、それは……災害対策で手一杯なのですから代理を立てるしか」
目くそ鼻くそな兄弟は建設的な会話を一度とて交わしていない事に気が付いていないのだ。
友好国へ支援を求める他に手立てが無くなったアルニム国は、外交官を各所に向かわせ始める。
僅かながらに支援は約束されるも、これまで魔女が誕生した事でマウントを取って来たアルニムは心象が悪い。
愚かな彼らは「やはり魔女カサンドラを呼び戻す」としか答えを見出せないのだった。
***
その頃、長雨に翻弄されながらもドーラが遠くに海らしきを発見して小躍りしていた。
止まない雨が彼女の視界を邪魔するが、青灰で水平に広がるのは間違いなく海である。
「あれが水平線か、絵でしか見たことがないけどスゴイわ!想像以上の景色よ」
心躍らせるドーラは王都のことなど頭の端にすらない、彼女の情は完全に生誕地について無関心になっている。
牛歩ながらも目的地へと近づく彼女は期待で胸が熱くなっている、逸る心はすでに海に浸かっているのだ。
「えーっとここが漁業の街ブルホフか、雨が残念だけど活気があるわね!」
海をまったく知らないドーラは雨季だろうと船を出すことを知ってさらに驚いた。
街の中心に開かれるマーケットには山のように積まれた魚を見て驚愕するのだ。
「すごーい、新鮮な魚がいっぱい。これはなんて魚かな」
物珍しく視線が忙しい彼女の様子はどう見ても余所者とバレバレだ、人の良さそうな老婆が「今の時期こそ美味しい魚がいるんだよ」と教えてくれた。
「旅の人ならマーケットより食堂街へ行ってみな、美味しい料理を提供する店がたくさんあるよ」
「ほんと!?ありがとうございますオバ様!」
「おばさま?ありゃあ恥ずかしい、上品な呼び方されたのは初めてさアハハハハッ」
「え、へへへへ」
ドーラはかつて貴族であった名残が言葉に出てしまう、冒険者らしい物言いを身に着けていた気でいたがまだ抜けきれないようだ。
「いやいや、焦ったわ。捨てた身分がバレたら嫌だな」
彼女は冷や汗を掻きながら、街にそぼ降る雨の中を歩く、マーケットから然程離れていない食堂街は数分で着いた。
青やオレンジ色の屋根が並ぶそこはとても華やかだ、どこに入ろうか迷っているとどこからか流れてきた香ばしい匂いに鼻腔を擽られた。
「いい匂い!こっちかな?」
白い煙が昇るそこと定めてドーラは店のドアを開く、途端に「らっしゃい!」と声が掛かってビクッとした。
「えっと1名お願いします、このいい匂いはなんですか?」
「はいはい、イワシの塩焼きだよ。メバルとサバも美味いよ。好きな席へどうぞ」
「ありがとう!」
壁際の席に座るとメニューを差し出された彼女は、生で食べる料理を見て驚いた。少し躊躇ったが新鮮な魚介を期待してカルパッチョと塩焼きを頼む。
料理はすぐにテーブルへ届き、サービスだと言って白ワインを一杯ご馳走になる。
「良いんですか?嬉しい」
「楽しんで下さいね、どうぞご贔屓に」
明るく活発そうな給仕の女子はウインクして厨房へと戻って行く。
ドーラはさっそく白ワインを口に含み料理を味わうことにした、どれもこれも新鮮で臭みなどは感じなかった。
「おいしーい!生の魚ってこんなに美味しいのね、火を通さないと独特の触感……ハマりそう」
掻き込むような勢いで平らげた彼女は次々と追加注文をするのである。
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