完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)

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王子と書いてアフォと読む

「ああ、麗しの魔女姫。どうかわが手を取って共に凱旋しようではないか!愚弟ではなくこの第一王子エリアスの妻になる栄誉を与えてあげよう」
「は?」
エリアス王子は己と婚姻することが最上の誉れで幸せなのだと信じて疑わないようだ。
呆れたドーラはガン無視して食事を続けることにした、せっかくのスープが冷めては勿体ない。
彼女の見た目をどうこう言って世辞を並べるが、今のドーラは認識疎外魔法の効果で別人なはずだ。明らかな口八丁に相手をするわけがない。

今の彼女が真の姿を晒すのはティモ青年だけである。

目さえ合わせてくれなくなった相手に王子は動じもせずに、花束をグイグイと押し付けてくる。
そして、スープ皿に花弁が落ちてしまった。
とうとう我慢の限界に達したドーラは立ち上がって「表出ろや、ゴミ野郎」と啖呵を切った。彼女の魔力が憤怒と混ざり合い暗紫色のオーラを放ちだす。
それを目の当たりにしたアフォ王子は情けない声を上げて尻もちを着く。無様にも失禁してしまった彼は羞恥に戦慄く。

店に迷惑を掛けたくなかったドーラは王子に洗浄魔法をかけて、外へと引き摺り出して路地裏へ放り投げた。
「ピーピーうっさいのよ!こっちは食事中だったのにアンタのその目は何を映してるわけ?王族の癖にマナーすらないなんて呆れる」
「な、なんてことを、わ、わわわ私は第一王子で誰よりも王太子に近い存在で」
身分など知るかとドーラは彼の話を折って怒鳴る。そもそも国自体が崩壊寸前にあるのに次代の王など立ててどうなるのか、目の前で泣いているアフォには現実が見えていない。

「そのご立派な身分を使って被災した民を助けてみなさいよ、人を頼る事しかできないボンボン風情が”何が麗しの魔女姫”よ、本当の顔すら覚えてない癖に」
「え……」
目の前の魔女が姿を変化させているなど微塵にも想像していなかった彼は、暗黒騎士を追って適当に”カサンドラ”を認識していたようだ。ここに辿り着けたのは奇跡に近い。もっとも彼が自ら追いかけていたわけではないのだが。

「目障りだわ、とっとと王都へ帰れ。私はもう命令に従う事はないから」
「貴様!家族がどうなっても良いのか!反逆者として投獄させても良いのだぞ!」
だが、アフォ渾身の恫喝にドーラは涼しい顔をして聞き流す。

「どうぞ好きにすれば?家族になにかあったら王都を焦土にするまでよ、侮るのもいい加減にして」
「え、な、なんで……、どうして効果がないんだ!この美しい王子たる私が愛を囁き、故郷の現状を突きつけているのに。どうしてだ!分が悪いのはお前のほうだろうが!」
ここに来ても尚、王族の威光が彼女に通ずると信じている哀れさにドーラは相手する価値はないと悟る。

「その美しいと勘違いさせているのは頭に生えてる金髪のせいかしら?だったら消してあげる」
彼女が言うが早いか指先から細い炎を出して王子の頭を焼いてあげた。
「ひぎいっ!あっつ!あっつい!やめろぉ!私の髪の毛が!」
金色だったそれはトウモロコシの髭のように焦げ茶になって、パラパラと地面に落ちた。ついでに毛根を死滅させておいたので二度と生えることはない。

「軽~い火傷はしたから良く冷やしなさい、ついでに沸いた脳みそもね」
「きぃぃぃ!おのれ!おのれー!もう良い!妃に据えて使ってやろうと思ったがどうでも良いわ!見ておれこの屈辱はいづれ晴らしてくれようぞ!」
王子はツルッ禿げになった頭を抱えて脱兎の如く逃げていく、どこかに潜んでいたらしい護衛らがその後を追っていくのが見えた。何のための護衛か、彼らもまた魔女の怖さを知っているのだ。

「ふん、どうせ私の醜聞でも撒くつもりなんでしょ。どうして学習しないのかしら?故郷がどうなろうと民に蔑まれようと私にはどうでもいい些末なことなのよ」

***

後日、ドーラが想像した通りの愚行をエリアス王子はやらかした。
これまで王都周辺を悩ませてきた土砂災害の全てが魔女ドーラが巻き起こした人災なのであると各所に吹聴して回ったのだ。さすがにそれは無理があり、事実を知っている貴族にはほとんど無視された。

なにも知らない民には浸透するかと思われたが、かつて街道にて出会い助けられていた豪商らの口コミで「魔女カサンドラは無償で貢献してきた慈悲深い人」と噂を撒いていた。
身分が平民であろうと民の生活に密接している商会の者が魔女の功績を称えるのだから信憑性は高く受け止められた。

損得で動く商人らがなんの得もなく魔女を持ち上げるはずがない、大恩があると宣伝すればあっという間に広まる。
加えてギルドでも世間でも名が通った冒険者ニクラス達も「魔女の黒い噂は王族のでっち上げ」と言いふらす。

「街道で盗賊に絡まれていた俺達を見返りも求めず助けてくれたんだ!しかもこれまで王都の平和を守ってきたのは彼女だ、たったひとりで奮闘していたんだ、しかも無償でだぜ?悪どいのはどいつだって明らかだろうよ」

エリアスの企みは逆に王族をはじめとする無能な為政者らを追い詰める形になった。
いくら王侯貴族が身分が高く兵を持っていようと、徒党を組んだ多くの民に敵うわけがない。そもそも下っ端の兵らは平民出なのだから。

税収を上げて国の財産を食い潰してきた王族たちは一気に窮地に立つことになったのだ。



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