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「見て見て!この色味、苦労したんだぁ!こっちは縫製を間違えちゃってさ」
自分の作品を見せびらかす姉に弟のサトルは一瞥も向けないまま「あーはいはい」と言ってスマホ画面に夢中だ。
好きなゲームの時間限定イベント発生中らしく姉を構う暇がないらしい。

「ぶー、なによ。あんたのご飯買ってきてやんないから」
「へいへい、ちゃんと後で鑑賞してやるから」
「ほんと!?絶対だからね」
デザイナー志望でもある姉〇木さとみは大袈裟にはしゃいで趣味で作ったばかりの服を着て買い物にでかけた。
背が高い彼女は手足も長く何でも着こなす。

「やっぱこの服装にはペタンコ胸が役に立つなぁ、……そのうち育つよね?」
男性用のシャツを着てショーウインドウに映った己の背格好は弟に良く似ていたが顔立ちは若干違う。
「うむ、やっぱ私の方がイケメンだわ!すまんな弟よ」
薄く化粧していたこともあって、弟サトルのあっさりした顔に比べると姉さとみの容姿はくっきりした相貌だ。喋らなければ男と間違えるだろう。

「ウィッグを被りたいけど流石に赤と黒のグラデは目立つよね」
さとみはそんな愚痴を呟きながらコンビニに立ち寄ってドアから流れるピロピロンという機械音を聞き流す。
唐揚げ弁当とサラダを物色していると誰かの視線を感じた。他の客が順番待ちでもしているのかと振り向いたが誰もいない。

「気のせいか……な」
確かに誰かが斜め後ろに立っていた気配を感じていたが、気にすることでもないだろうと買い物を続けた。
清算を済ませてアパートへと戻る、その道中にも誰かが付いてきていた気がしたが駅前大通りのそこを不特定多数が行き交うのは日常のことだ。「自意識過剰」と思ったさとみは頭を振って家路を急いだ。




翌日、姉弟が住む部屋のポストに何かが挟まっていたことに気が付いてサトルが引っ張った。
宛名も差出人も書かれていないそれは真っ白な封筒だった。悪戯か新手のDMかと思う。学校へ向かう所なのでゆっくり開く暇はない、だが持ち歩くのも嫌だったのでポスト奥へと押し込んでしまう。
「帰ってから見れば良いだろ」
姉が気が付いて開くのならそれでも良いと彼は真っ白な手紙の事を頭から消し去る。


翌々日、今度は姉のさとみがポストの手紙に気が付く。
やはり真っ白な封書だったが、2通に増えていた。合計3通届いたことになる。宛名宛先なし、差出人も書いていない不気味な手紙にさとみも見ぬふりすることにした。
「帰って来てから弟と開けた方が良いよね」
2通の手紙を無理矢理に奥へ押し込むと、彼女は大学へと急いだ。



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