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姉弟が漸く宛名のない手紙を確認したのは十通目を越えてからだった。
不気味さから目をそらしてきた彼女らだったが、ポストから溢れるほどに貯めてしまっては余所様の好奇の目を引くと考えた。
「なんなのかしら、DMにしては他の家には届いてないみたい」
「明らかに個人への嫌がらせだろう、中身を確認したら警察に相談しようよ」
「……警察、めんどくさ」

平穏な日常を崩されることを嫌う姉は顔を顰めて唸る、一方で弟のサトルはどこか楽し気だ。謎めいた刺激が彼には好ましいようだ。
「危ないと判断したら手を引きなさいよね、アンタ相談する前に犯人と接触しそうだもん」
どうにもゲーム感覚らしいのを察知した姉さとみは釘を刺す。
「う、いいいじゃん少しくらい」
「良くないでしょ、大学受験の為と同居は許したけど勝手をするなら親に連絡して追い出すから」
田舎に返されるとわかった弟は必死に謝り倒して、危ない事はしないと約束した。

手紙には何が仕掛けられているのかわからない、透かしたり磁石で金属反応を調べたが特になかった。
「カッターでも仕込まれたかと思ってたけど」
「あぁま~良くある話だよね」
1通づつ開いてみたが取り立てて目を引くものはなかった、便箋がそれぞれ一枚程度入っているだけで、しかも綴られた文はとても短いものだ。

「消印がないから時系列わかんないけど、意味不明過ぎるわ。なにこれ”見た””会えた”とか一言ばっかじゃない」
緊張しながら確認していた姉は拍子抜けしたのか見て損したと愚痴る。
「うーん、”存在してくれてありがとう”が一番長い文章だなぁどういう意味?」
「さあ?幻覚か幻想にでも溺れてんじゃない、どっちにしろキモい」
姉が幻覚などと言うものだからサトルは「相手が薬の中毒者だったら怖い」と言った。

「ジャンキーね……それは厄介かも、いくつか攻撃的な文もあるから相談不可避だわね」
面倒と言っていた”さとみ”だったが、身の危険を感じた彼女は早速警察へ行こうと言った。


相談窓口でストーカー被害の片鱗があると判断されたことで暫く居住区周辺が警邏強化されることになったが、警察は彼女らばかりを護るわけではない。個人でも注意するようにと口酸っぱく言われた。
「とりま一人で出歩くなってことよね、こういう時は親元から離れてるとシンドイ」
「なんか呑気だなぁ……姉ちゃん、夜中にコンビニとか行くなよ」
「へいへい、気を付けるわ」

その後、アパート周辺をパトカーが走ることが増えたことから怪文書が投函される頻度が減った。
しかし、減ったというだけで白くて不気味な手紙が届くのは同じだった。
そして、内容が過激さを増していき標的が姉のさとみになっていることが察せられたのだ。

「な、なんで?私がなんかした?」
一番最新の手紙には”お前に彼は似合わない”と綴られていたからだ。犯人が横恋慕していると取れる内容だ。だが、さとみには思い当たる節がない。
「19年生きてて彼氏できたことないけど!?仲良くしてるメンズだっていないし……どういう事!」
混乱する姉弟であるが、その日も白い手紙は届けられた。



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