完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)

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土砂災害が発生してから数日後、ニーナの従兄のグレイ・ガーナインがやってきた。ガーナイン伯爵領を慮り視察に訪れたのだ。辛うじて難を逃れた様子に安堵したところだ。

「まぁ、久しぶりね。グレイ、お元気だった?」
「ははは、相変わらずさ。それより聞いたよ婚約破棄するんだって?大丈夫かい?」
「え、ええ、耳が早いわね。でも大丈夫よ、少しづつ彼を諦めているわ」

切なそうな顔をする彼女にグレイは思ったより重症のようだと心を痛める。
「ねぇニーナ、恋で傷ついたら恋で癒すしかないんだよ、心の傷は上書きすれば良い」
「そうね、その通りかも知れない」

ニーナは前向きに生きてみるわと微笑む、それを見た従兄は「その調子だよ」と元気づけるように彼女の背中をパシンと叩く。
「痛いわ、まったくもう!ふふ、粗雑なところは変わらないのね」
「そうだ、明日は暇かい?どうだろうかちょっとした会合があってね。簡単なゲームなどを楽しむ会なんだよ」
「明日?ずいぶん急なのね、でも明日は」

用事があるからと断わろうとした彼女の台詞を中断して「どうせダンスのレッスンとかマナーだろう」と言ってさっさと参加を決めてしまう。




「まったく話を聞かないんだから、困ったものだわ」
「良いじゃないですか、息抜きですよ。このところ遊楽すらしていません、楽しんでらして」
「そう?うーん、あまり乗り気じゃないのだけど」

ためらうニーナだが、侍女はどう着飾って差し上げようかと今からワクワが止まらない。
「そうですわ!菫色のドレスが宜しいでしょう。それから髪飾りは百合を模したものを!さっそく出して準備しなければ」
「貴女までも……仕方ないわねぇ」



***



「お招きいただきまして、ニーナ・ガーナインです宜しくお願いします」
楚々としてお辞儀をする彼女はちょっとばかり緊張していた。従兄が言う会合は男女合わせて十数人が集まり、わいわいと騒いでいる。

「まぁまぁ、そう固くならずに!気楽に楽しんでってー!ヒック」
「は、はぁ」
まだ午後になったばかりだというのに酒気を纏わせたいる女子がいた。いくらなんでも羽目を外し過ぎなのではとニーナは嫌な気持ちになる。

「これこれ、従妹殿を驚かせないでくれよ。ごめんなニーナ、こんな感じなんだ。ポーカーでもやるかい?」
「いいえ、グレイ。私は見ているだけでいいわ、ありがとう」
そのサロンはとても広かったが、煙草と酒気が漂っていて居心地が良いとは言えなかった。どこか所在無げにしている彼女に声が掛かる。

「やぁ、お嬢さん。品がなくて済まないな、先ほどの彼女はあれでも侯爵令嬢なんだ」
「え!?そうだったのですか」
またも驚く彼女は些か素っ頓狂な声を出してしまう。それを見た男性は「ぶふっ」と噴き出した。

「失礼、私はアルベルト・サルバティーニ、以後宜しく」
「サルバティーニですって?それでは貴方は公爵……たいへん失礼しました!」
あまり屋敷をでない彼女は世間に疎い、大慌てで挨拶する彼女を「そんなものどうでも良い」と言って笑う。


「深窓の令嬢なんだね、でももう少し世間に目を向けた方が良い」
「そ、そうですわね。恥ずかしいですわ、あまり夜会にもでませんし社交が下手なんです」
顔を真っ赤に染めて俯くニーナだ、世間ずれしておらず初々しく見える、だがそれはアルベルトには新鮮に映った。

「ここは少し騒がしい、ベランダの方へ行こうか」
「はい、そうですね。風に当たりたいと思ってましたの」
漂う酒気に眩暈がした彼女はその提案に喜ぶ。少しばかり喧騒から逃れた彼女は「ほぅ」と息を吐く。

その様子を遠目で見ていた従兄のグレイは「なかなか似合うじゃないか」と呟く。












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