その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)

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遊学篇

王妃のお茶会

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メロル親子のことをすっかり忘れ去った頃、茶会の日を迎えた。

アイリスに誂えたドレスはレースがふんだんに使われた豪華な仕上がりだ、しかし派手ではない。レースの模様がとても微細で丈も長くゆったりと動くように仕上がっていた。

「レースといってもギャザーで絞ってないから悪目立ちしないわね」
「はい、マウゼオ夫人はセンスが良いのですね。青紫の生地と相まって上品です」
侍女のルルがドレスを纏ったアイリスをウットリ眺める。

プラチナブロンドの髪をハーフアップに仕上げて造花を挿す、紫の薔薇と青薔薇にかすみ草を添える。
薔薇の女神のようですとルルが持ち上げるので恥ずかしいとアイリスは頬を染めた。

「生花が良かったのですが青い薔薇はありませんからね」
「白薔薇を青水を吸わせて染色する方法もあるようだけど斑だものね」

仕度を終えた時、叔母がホールへ降りるよう声をかけてきた。

「まぁ素敵!想像以上に似合っているわ!茶会で自慢の姪だと宣伝しなきゃ!」
「叔母様、大袈裟です」

苦笑いを浮かべるアイリスをじっと見つめる人物がいた、セイン王子が不機嫌な顔で彼女を観察している。
「ちょっと目立ちすぎじゃないかな?」
「あら、殿下ったら今日の茶会は女子限定ですよ。殿方の目はないのでご安心を」
叔母がセインの嫉妬心を揶揄う。

「セイン殿下も行きたいんですか?女装なさいます?顔は綺麗だからちょっとゴツイ美女になれますよ。」
「そういう趣味は……いや、侵入方法としては有りだな」

バカなことを言ってないで行きますよと、叔母に急かされアイリスは馬車に乗った。

***

茶会は王宮自慢の薔薇園で開かれた。
さすが王族の庭、満開に咲き乱れた薔薇が迷路のように庭園を埋め尽くしていた。

「見事ですねぇ、濃淡別に植えられてグラデーションになってます」
「そうでしょ、王妃様自慢の薔薇よ。天気が良くてさらに綺麗に映えるわね」

王妃の侍女長が「王妃様のおなりです」と声を張り上げた。
公爵夫人の叔母とアイリスは上座へ移動して出迎えるべく居住まいを正す。

背の高い華やかな美女が臣下達の前に現れた。
赤毛に深紅の天鵞絨ドレスを纏う王妃は一凛の薔薇のようだった。

「皆さん、今年も私の我儘に付き合ってくれて感謝します。本日の薔薇園はここ数年で一番の美しさです。存分に楽しんで頂戴」

開会のスピーチが終えると客人達の拍手が轟いた。
さっそく叔母が王妃に挨拶をする
「素敵な茶会へのお招き感謝いたします、王妃様」
「まぁアネット!久しぶりね、貴女ったら遊びに来てくれないから寂しかったわ!」
「申し訳ありません、姪が遊学にきておりまして可愛がるのに多忙でしたの」

叔母はそう言ってアイリスを紹介する。
「アイリス・ブルフィールドでございます、以後お見知りおきを」
「なんて可愛らしい!ねぇ貴女は王子と結婚に興味はおあり?」

いきなり本題に入るせっかちな王妃にアイリスは閉口する。
「んまっ王妃様、後がつかえてます。また後程に」叔母が助け船を出して下がった、心なしか周囲からの視線が痛い。

「ふぅ、自慢の姪をみせつけにきただけなのに。ロゼったら」
「ロゼ様?」

ローザリア王妃の愛称だと叔母が言う。
「ふふ、私達は幼馴染で親友なの。王太子妃候補の時は戦友だったわ。でも私にはポール一択だったからすぐ辞退したの、懐かしいわー彼女に会うと青春を思い出すの」

「親友、羨ましいわ。レットともそうなりたいものだわ」

席に着くと香しい紅茶が注がれる、アイリスは一口含みその味に感嘆する。
「なんて美味しいのかしら!花の匂いがほんのりしたわ」
「そうでしょ?ロゼがブレンドした特別な茶葉なの、茶会に招かれた者だけが味わえるの」

せっかくだから薔薇を眺められる小さなテーブルへ行こうと叔母かいう。
しずしずと進むと足元に何かが掠める、アイリスは咄嗟にそれを躱し歩を止めた。

真横に意地悪そうな笑みを浮かべる令嬢が立っていた、扇で隠そうともしない悪意にアイリスは睨む。
「まぁ、クレア・ホアルダ伯爵令嬢。私の姪になにか御用かしら?まさか足掛けするとは思わなかったわ」
「な!マウゼオ夫人、言いがかりですわ!」

「ならばその不自然な体制はなんですの?書記文官、いまの瞬間を書きとめたでしょうね?」
「御意、会場中には録画魔道具を備えております。追って王妃様に報告いたします」

王族主催の場には、トラブル回避のための監視者と防犯魔道具が常に設置されている。
それを失念していた浅はかな令嬢はサッと青褪める。

足掛けしてガニマタ体制のクレア嬢は、固まったまま文官達にパシャパシャと写真を撮られていた。
後日、ホアルダ伯爵家に王妃とマウゼオ公爵から厳しい抗議が行き、クレア嬢はただのクレアになって姿を消した。


肩の凝る茶会をなんとかこなしたアイリスだが、数日後王妃に会うことになる。
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