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遊学篇
茶会再び、アイリスの変化
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王妃の茶会から僅か三日後、アイリス個人へ王妃から手紙が届く。
手紙の内容は個人的茶会へ来いという誘いだった、おそらく双子の王子と会わせる腹だろうとアイリスは悟る。
眉間に深く皺を寄せるアイリス、淑女にあるまじき顔だった。
「ルル……これほど家に帰りたいと思ったことはないわ」
「お察しします……」
取り合えず実家へベルグリーン王家に目を付けらたと速達を出した。茶会は10日後、ギリギリだろう。
「お母様を通して大公から牽制する手紙が王妃に届くと思うのだけど」
気分を変えようとサロンへ向かう、するとセイン殿下が待ちかまえたように廊下に立っていた。
「……殿下」
「速達を出したそうだね、王家絡みなら私に相談して欲しかったな」
何故と問いたげな彼女の顔にセイン王子はにこやかに答えた。
「私はベルグリーンの弱みを握ってる、メロンちゃんだっけ?私への侮辱の件でね、まだ解決してない」
「あぁそうでしたね、謝罪などは?」
いまだ正式な謝罪を拒否しているとセイン王子は良い笑顔を浮かべた。
「ふふ、仮にも外交名目でこちらに来てるからね。些末な綻びも政に有効利用しなきゃ」
「メロンちゃんは学園でもいろいろやらかしてましたからね、殿下にも私にも」
二人が同時に悪い顔になった。
案外ウマが合うのではと侍女ルルは思う。
共にサロンへ向かった二人は10日後の茶会について談議した。
「情勢的にはベルグリーンは我が国に弱い立場だからね、無理にアイリスを寄越せとは言えないのだけど」
「ええ、でも王妃は強引な方と見受けます。叔母様の親友とはいっても姪に配慮する保証はないです」
茶会で挨拶もそこそこに双子の王子との縁を持ち出された。
勢いで負けたらきっと顔合わせだけでは帰してくれないだろう。
「あの手のタイプは、自分が良かれと思った行動は思いやりと正義だと過信なさる傾向がありますね」
「おや、リィは心眼を持ってるのかな?幾度か式典で会話したけどね、まったくその通りの女性だったよ」
それを聞いたアイリスは顔を青くする。
ロードリックと破談した彼女は婚姻にネガティブな思考に捕らわれたままだった。
「リィは私が護るから、安心して?」
「はい、拳で片付くなら簡単ですのに外交は面倒ですね」
グッと力瘤を作る仕草をするアイリスに笑い袋が「ぶふっ」と吹いた。
「もう!……笑いの沸点が低くないですか?」
「ご、ゴメン。ぶふっ!最近面白いことがなかったからケフケフ」
アイリスはセイン王子の様子に頬を膨らませ抗議した。
せっかく心の距離が縮まったのにとルルは溜息を吐く。
***
アイリスが手紙を出して8日後、大公から物言いが伝わったはずなのだが茶会の誘いの撤回はされなかった。
「はぁ、やはり我に正義ありの方ですのね……」
「ごめんねアイリス、私からもロゼに無理な縁談はごり押しないよう伝えたのだけど、彼女は頑固な所があってね」
叔母アネットもお手上げだと嘆く。
「仕方ないですわ、ささっと行ってお暇します。心強い護衛もいますしね」
ちらりとセイン王子を見るアイリスに叔母は「あらぁ?」とほくそ笑んだ。
「いつの間に進展したのかしら~?ねぇルル後で教えて頂戴?」
「は、はい。奥様」
それから約束の日、憂鬱な気分を乗せてベルグリーン王城へ出立した。
何度目かわからないアイリスの溜息にセイン王子は「落ち着いて」と声をかけた。
「わかってますのよ、頭では」
「うん、ねぇリィ。手を貸して?」
言われるまま手を差し出すアイリス、普段と違い素直である。
「お呪いだよ」
セイン王子はそう言い訳して彼女の手の甲へ唇を落とした。
「んな!?」
真っ赤に熟れた顔でアイリスは手を引っ込める。
「緊張が解けたでしょ?」
「も~~!」
アイリスは王子の手をペチペチ叩く、しかもちょっと甘えた声色でじゃれるように。
いつもと違って厳つい脅しでなかったことに同乗したルルは驚いた。
「奥様への報告事が増えましたね」
「ん?なんか言ったルル」
「いいえ、春だなぁって思っただけですよ」
「やーねルル!いまは晩秋よ、冬さえ来てないわ」
小春日和の間違いでした、とルルは言い訳を返した。
手紙の内容は個人的茶会へ来いという誘いだった、おそらく双子の王子と会わせる腹だろうとアイリスは悟る。
眉間に深く皺を寄せるアイリス、淑女にあるまじき顔だった。
「ルル……これほど家に帰りたいと思ったことはないわ」
「お察しします……」
取り合えず実家へベルグリーン王家に目を付けらたと速達を出した。茶会は10日後、ギリギリだろう。
「お母様を通して大公から牽制する手紙が王妃に届くと思うのだけど」
気分を変えようとサロンへ向かう、するとセイン殿下が待ちかまえたように廊下に立っていた。
「……殿下」
「速達を出したそうだね、王家絡みなら私に相談して欲しかったな」
何故と問いたげな彼女の顔にセイン王子はにこやかに答えた。
「私はベルグリーンの弱みを握ってる、メロンちゃんだっけ?私への侮辱の件でね、まだ解決してない」
「あぁそうでしたね、謝罪などは?」
いまだ正式な謝罪を拒否しているとセイン王子は良い笑顔を浮かべた。
「ふふ、仮にも外交名目でこちらに来てるからね。些末な綻びも政に有効利用しなきゃ」
「メロンちゃんは学園でもいろいろやらかしてましたからね、殿下にも私にも」
二人が同時に悪い顔になった。
案外ウマが合うのではと侍女ルルは思う。
共にサロンへ向かった二人は10日後の茶会について談議した。
「情勢的にはベルグリーンは我が国に弱い立場だからね、無理にアイリスを寄越せとは言えないのだけど」
「ええ、でも王妃は強引な方と見受けます。叔母様の親友とはいっても姪に配慮する保証はないです」
茶会で挨拶もそこそこに双子の王子との縁を持ち出された。
勢いで負けたらきっと顔合わせだけでは帰してくれないだろう。
「あの手のタイプは、自分が良かれと思った行動は思いやりと正義だと過信なさる傾向がありますね」
「おや、リィは心眼を持ってるのかな?幾度か式典で会話したけどね、まったくその通りの女性だったよ」
それを聞いたアイリスは顔を青くする。
ロードリックと破談した彼女は婚姻にネガティブな思考に捕らわれたままだった。
「リィは私が護るから、安心して?」
「はい、拳で片付くなら簡単ですのに外交は面倒ですね」
グッと力瘤を作る仕草をするアイリスに笑い袋が「ぶふっ」と吹いた。
「もう!……笑いの沸点が低くないですか?」
「ご、ゴメン。ぶふっ!最近面白いことがなかったからケフケフ」
アイリスはセイン王子の様子に頬を膨らませ抗議した。
せっかく心の距離が縮まったのにとルルは溜息を吐く。
***
アイリスが手紙を出して8日後、大公から物言いが伝わったはずなのだが茶会の誘いの撤回はされなかった。
「はぁ、やはり我に正義ありの方ですのね……」
「ごめんねアイリス、私からもロゼに無理な縁談はごり押しないよう伝えたのだけど、彼女は頑固な所があってね」
叔母アネットもお手上げだと嘆く。
「仕方ないですわ、ささっと行ってお暇します。心強い護衛もいますしね」
ちらりとセイン王子を見るアイリスに叔母は「あらぁ?」とほくそ笑んだ。
「いつの間に進展したのかしら~?ねぇルル後で教えて頂戴?」
「は、はい。奥様」
それから約束の日、憂鬱な気分を乗せてベルグリーン王城へ出立した。
何度目かわからないアイリスの溜息にセイン王子は「落ち着いて」と声をかけた。
「わかってますのよ、頭では」
「うん、ねぇリィ。手を貸して?」
言われるまま手を差し出すアイリス、普段と違い素直である。
「お呪いだよ」
セイン王子はそう言い訳して彼女の手の甲へ唇を落とした。
「んな!?」
真っ赤に熟れた顔でアイリスは手を引っ込める。
「緊張が解けたでしょ?」
「も~~!」
アイリスは王子の手をペチペチ叩く、しかもちょっと甘えた声色でじゃれるように。
いつもと違って厳つい脅しでなかったことに同乗したルルは驚いた。
「奥様への報告事が増えましたね」
「ん?なんか言ったルル」
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