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二人が出会ったのは互いに8歳になった頃だった。
植物図鑑ばかりを眺める内向的なヘイデンは、いつも茶会の席でも隅っこに隠れていた。

それを偶然見つけたクリスティアナが、珍しいカラーの植物図鑑に興味を示し言葉をかけたのが始まりだ。

「とっても綺麗な本ね!まぁこの花はパンジーと言うのね!お庭で見たことがあるわ」
「……う、うん。色のない図鑑ではわかりずらい……でしょ」

「ほんとよね!ねぇ少し見てても良いかしら?」
「うん、いいよ。隣へ座って」
「ありがとう、わー凄い!なんて綺麗なのかしら膝の上に花畑ができたみたい!」

「ハハハッ膝が花畑……キミは面白い言い方をするね」
「え、そうかしら?あ!いけない私ったらはしたない事を自己紹介がまだでした、クリスティアナ・グリストですわ」
「ぼ、ぼくはヘイデン。ヘイデン・モスリバー……よろしく」


同世代で趣味が合うこともあって、茶会で会えば必ず図鑑の話で盛り上がり、交流が深まっていった。
それから年を重ね次第に意識するようになり、12歳の頃には恋人になった。

「このフワフワした綿帽子はキミの髪色と同じだね」
「あらそう?私ってこんなにフワフワなの」

「そうだよ、緩い癖毛がキラキラと陽に透けてとても綺麗だよ」
「ふふ、ありがとう」

当然のように婚約を結ぶことになり公爵家の次女であるクリスティアナ側は、伯爵家嫡男に見初められ嫁ぎ先にあぶれず済んだと安堵し、ヘイデンの両親は格上の貴族と縁を結べたと心から喜んだ。

両家共に利のある婚約になった。


***

順調に思えた両家だったが、デビュタントを目前にした15歳から小さなすれ違いが増えてきた。
いつものように茶会で、ヘイデンの姿を見つけたクリスティアナが声をかけるとどこか素っ気ないヘイデンに顔色を悪くする。


「なにか気に障ることをしたかしら?誕生日に贈ったカフスがいけない?それともカードのおめでとうが抜けていたのかしら……」

涙目になるクリスティアナにヘイデンが慌ててハンカチを出した。
「違うんだ!そういうことじゃないよ」
「そ、そう。それなら良いのだけど……」

クリスティアナが贈った、彼女の瞳色のトパーズが気に入らないのかと目を伏せた。
チラリとヘイデンの袖を盗み見たクリスティアナはそこに赤色の石が光っていた事にショックを受ける。


「そのカフスは……」
「ああ?これかい友人のアラベラがくれたんだ、珍しい薔薇が手に入ってプレゼントしたお返しなんだ」
「……私には薔薇はくれないの?」

「え?ティアにはランタナの花束を贈ったばかりだろ?」
「たしかに貰ったけど……それは」

「ね!綺麗だったでしょ!?アラベラがオススメだって言ってたんだ!」
「――!?あなた意味がわかってて贈ったの?」

「なんの話―?」

理解していない彼を、問いただそうとクリスティアナが詰め寄った時だった。
黒髪の派手な少女がヘイデンの方へ駆け寄って来た。瞳の色は燃えるような赤だ。


気兼ねない茶会といえ走るなどはしたない作法だと、周囲の夫人方が囁きあっている。
飛びつくようにヘイデンの腕を抱きしめて胸元をグリグリ押し付けている。
ヘイデンは嫌がる所か、さも当たり前のように笑って迎えていた。

婚約者に無遠慮に擦り寄る少女の瞳を見て、クリスティアナは胸がキュッと痛くなる。


「やっとみつけたわヘイデン!良い報せを持って来たの!きっと喜ぶと思って」
「良い報せ?まさか!新しい図鑑かい!!!」

「ふふ、そうよ。大海向こうの東大陸の植物図鑑よ、滅多に流通しないから貴重なんだから!感謝してよね」
「なんだって!?すぐ見たいよ」

「うふ、そう思ってた。じゃぁ茶会をお暇して我が家に行きましょうよ!」
「え、でも……困ったな」

ヘイデンはチラチラと婚約者の方を気にする素振りをしたが、黒髪の少女はグイグイと引っ張って離さない。

「はやくぅー!あんな貴重な本はいくらでも買い手がいるんですからね!お父様が値を吊り上げちゃうかもよ?」
「え、それは困るよボクの小遣いは限度が!……ごめんティア!次の機会に話そう!」

「え、ええ。残念だわ、デビュタントの打ち合わせしたいから連絡ちょうだい?」
「うん、わかった!メッセージカードを送るよ、じゃーね!」

バタバタと、慌ただしく退場して行く彼らの背中を見つめる、クリスティアナの顔は真っ青だった。
「あれがきっとアラベラね……だってカフスと同じ瞳をしていたもの」





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