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しおりを挟む場末のバーで飲んだくれ、とうとう簀巻きにされて追い出された情けない人物がいた。ジャックである。彼は腐っていた、信じていたアンナが産んだ子供は自分に全く似ておらず、不審に思った彼は彼女に詰め寄った。すると……
『ええ、そうよ。貴方の子じゃないわ!ふふ、あわよくばと思ったけれどやはり私に似てくれなかった。え?貴方種なしなんでしょ?今更だわよアハハハハッ!』
『種なし……しかし、奇跡が……真実の愛で』
『何が真実よ!貴方、私を棄ててカトリーヌに縋ったそうじゃないの!あっちの弁護士から聞いたわよ”愛人とは別れる、そうすれば何もかも元に”と言ったそうじゃない!』
『う、それは……窮地に立たされ仕方なく』
口籠りながら言い訳を繰り返す男にアンナは別れを切り出した。いまや金蔓ではなく、ただの穀潰しでしかないジャックに未練など微塵にも残っていなかった。
「うぅ……何を信じれば良いのだ、そりゃ俺だって酷い事をしたけれどあんまりだ……」
汚い路上で泣き潰れる男は安酒に悪酔いしたのか吐きながら喚き散らす、そうして吐く物がなくなってえづくだけになった。
「あらあら、お貴族様が見事なまでの落ちぶれようね」
見兼ねた女郎崩れらしきが声えを掛けてきた。
「……ほうっといてくれぇ……俺にはなにも残っちゃいないさ……うげぇええ」
彼は男爵家に生まれたが三男だったのでカトリーヌの家に婿養子として入った。つまり縁を切られたらただの人なのだ。彼は懲りないのか懐に忍ばせておいたウィスキーを取り出しあおる。プーンと安い酒の香気が立った。
覆面をしたその女性はつい鼻を覆う仕草をしたが同情めいたように「お可哀そうに」と言うではないか。
「仮にも貴族の出でしょうに……同情いたしますわ、んんっ!何か有りましたら助けになりましょう」
彼女がこそりと出した名刺にはヒヨドリの紋が刻まれていた。
「え?……これは、まさか!?」
「ふっふふ、私の家を御存じのようね」
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