(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)

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アリス・スペンサーの悲劇

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所謂政略結婚で私は17歳で嫁ぐことになった。
両家ともに同格の伯爵家であり、申し分ない縁組だった。


婚約者イーライ・ガバイカとの仲は良くも悪くもない、愛はなくとも友人関係くらいには上手く言っていた。
私が骨折して療養するまでは……。


不運なことに、結婚三カ月前に階段を踏み外した私は左足をポッキリいき、同じく左腕を強打してヒビが入った。
心配し過ぎた両親は入院ではなく、自宅療養で医者を通わせることにした。
過保護だと思ったけれど、重篤な病気以外で高位貴族が入院することはほとんどないそうだ。


私のドジのせいで周囲に迷惑をかけて、本当に申し訳ないと2重に辛くなる。
イーライもまた我が家に足げく通い見舞いに来てくれた、素直に嬉しいと感動したわ。


「きょうもありがとうイーライ。医者の見立てでは式にはギリギリ間に合うらしいわ」
「そうか、それを聞いて安堵したよ。栄養がつくようにとお土産を持って来たよ」

彼はそう言っていそいそと包を私に手渡した。
花束と焼き菓子だ、私は嬉しくてなんどもお礼を述べた。

それから他愛ない話を2時間ほどして、彼は帰って行く。
そんな生活が一月ほど続いたと思う、イーライは仕事の合間に三日と開けず会いに来てくれていた。
怪我のせいで自由を奪われて辛いけど、とても幸せだと思っていた。


けれど、二か月目くらいから、イーライはほとんど顔を見せなくなった。
カードと見舞いの品は頻繁には届くけれど、屋敷に来てくれる様子はない。


繁忙期なのかしら?
彼の実家の稼業は綿花栽培とその販売だ、でも収穫期ではないはず。なにかトラブルでも?
広大な領地にたくさんの綿花が咲くのは壮観だったわね、婚約して一度だけ見に行ったわ。

会いたいなんて我儘はいけないかしら……。
我慢しよう。


***


療養経過を確認するため病院でレントゲンというものを撮りに出向いた。こればかりは自宅ではできない。


骨というものは面白い。
ポッキリ折れたというのに、修復しようと互いに繋がろうと延びるらしい。
白い靄のような塊が出来て、どんどん固まるのだという。

しかも、折れる以前より硬く丈夫になるというから不思議なことね。
接続部が瘤状に膨らんで見えたが問題はないらしい。


そしてリハビリ期間に入り松葉づえを使って少し歩くことが出来るようになった。
でもなんだか体が重くて辛い。腕と指が浮腫んでいるの。きっと足もそうね。

歩行に慣れてきたころに、固定した石膏を外す日がやってきた。
けれど、二カ月も固まっていた足は悲惨な状態だったわ。外された足を見るなり私は驚愕した。


まず垢塗れなのは当たり前だった、赤黒く変色した足は汚くて目を背けたくなる。
けれどそれ以上に吃驚したのは脚が剛毛に覆われていた事だ、はしたなく悲鳴を上げてしまったわ。

これは皮膚を護ろうとする防衛反応だと医者が説明した。
まるで男性の脚のようになっていて、私は絶望したわ。しかも、左右での足の太さがまるで違っていてチグハグだったから。


「こんなんじゃ嫁になんていけないわ!なんて醜いの!」
泣き叫ぶ私に医者と侍女が慰めようとオロオロしていた。


「落ち着いてくださいアリス様。リハビリすれば左右の太さは戻ります。まずは筋トレしましょう」
「でも、でもこのムダ毛はひどすぎるわ!すごく気持ち悪くて見ていられない!」

尚も嘆く私に侍女が宥めてくる。
「大丈夫です、お嬢様。一時的なものですから。気になるなら剃毛いたしましょう」
「そ、そう?そういうことなら仕方ないわ。……ゴホン、取り乱してごめんなさい」


大騒ぎして困らせてしまったことに、急に羞恥心が湧いてきた。
そうね、結婚式までには完治するのだものリハビリに専念しましょう。

医者がリハビリについて粗方説明をすると帰っていった。
すると侍女が石膏がとれたから湯船に浸かって凝りを解そうと提案してくれたわ。


療養中はずっと拭くだけだったから私は凄く嬉しかった。
「そうね、すぐに入りたいわ。それからリハビリを頑張るわね!」
「はい、お嬢様。ではゆっくり移動しましょう。まずはソファまで歩きますよ」

「えぇ、ありがとう」

侍女に補助されながら寝具から2m先のソファを目指す。
筋力が落ちたのか、僅かな距離だというのにガクガクと膝が笑ってしまい酷く疲れたわ。

はぁ、ここまで体力が落ちるなんて思わなかった。
なんだかとても体が重いわ。


侍女とメイドが何度も往復して湯船に湯を運ぶ。なんて贅沢なことかと、いまさらながら感じる。
労いになにかお礼をしようかしら。


準備万端となり、私は寝間着を脱がされ人肌ほどになった湯に浸かった。
なんて気持ちが良いのだろう、恍惚な表情を浮かべる私に侍女がクスリと笑う。

「長い事ごめんなさいね。落ち着いたら皆で買い物に行きましょう。世話してくれたお礼にプレゼントを買うわ」
「まぁ、お嬢様。なんてお優しい!」


彼女らに逆にお礼されてしまう。歯痒い。
湯に馴染んだ頃合いで、私の身体が洗われていく。髪の毛も念入りに泡を付けられマッサージが心地良い。
気持ち良さに惚けていた私だけれど、触れられる体に違和感を感じた。




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