(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)

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その後

元伯爵夫人

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夫に捨てられたガバイカ夫人は歯を食いしばって貴族街を歩いた。
普通なら有り得ない行動である。

「まったく巫山戯て!イーライが戻ってきたら挽回してやりますからね!本当に捨てられたのは貴方のほうよ」
ブツクサと愚痴をいう挙動不審な中年女に時折通る馬車から怪訝な視線が投げられた。


そんな屈辱に顔を赤くしながら目的地へ急ぐ、パンパンに詰めたトランクが恨めしいと思う。
こんなことならドレスを半分にしておけば良かったと後悔した。

「どうせ、お金が入ったら買い替えれば済むのにね、迂闊だったわ!」
売り家になったタウンハウスから歩いて1時間ほど、目的地に着いた夫人はゼーゼーと息を整える。
喉の奥から喘鳴と嫌な臭いがしたが我慢する。


門番に声をかけて身分と会いに来た旨を告げた。
馬車にも乗らずやってきた婦人に警戒したが、身形はギリギリ貴族だったので執事に事情を話すと言って通用口へ入った。
待つこと5分、執事を連れた門番が戻って来た。

しかし、執事は素っ気なく言い放つ。
「何用です、先触れがありませんな。スペンサー様はただいま多忙だ。去りなさい」
「んな!?使用人の分際でなんです、その言い草は!抗議しますよ」

身分を笠に着るのが得意なガバイカ夫人は小馬鹿にして笑った。
だが、目の前の執事には効果がなかった。

「ふっ」と鼻で笑ったかと思うとさっさと屋敷へ戻ってしまう。

「な、なんて失礼な!スペンサー家も落ちたものね!碌な使用人も雇えないと見えるわ」
ギャーギャーと甲高い声で抗議する夫人だったが、門番すらも相手にしなくなった。

待てと暮らせど期待した反応が屋敷からない。
先触れがないのが嫌ならばと、その場でカードに用件を認めて門番に押し付けた。

「さぁ!これで良いでしょう!さっさと執事に渡してきなさい。伯爵夫人をバカにしてただで済むと思わないことね!私はアリス嬢の義母ですから!たっぷり後悔させてあげる!」

夫人は鼻息荒く宣うとそのまま門前に居座った。
あくまで屋敷に通さないと許さないという態度だった。

門番は仕方なく、仕事として動いた。
不審者を野放しもできないと踏んでの行動だったが、夫人は「やっと恐れをなした」と満足そうに笑う。

それから数分、違う顔の門番が私兵と共にやって来た。
夫人はやっと入れると立ち上がったが、頑強な門が開くことはなかった。

「ちょっと、どういうことよ!さっき先触れを出したでしょうが!」

交代したらしい門番が面倒そうに夫人を見て言う。
「さっきとは?何も指示されていないぞ」

「そんなバカな!ならばもう一度カードを書くわ!まったくどこまで無能なのよ!」
夫人は再度先触れを門番に押し付けた。

しかし、今度は受け取りさえ拒否される。
「どうしてよ!なんで言うこと聞かないの!?私は貴族よ、伯爵夫人なのよ!?」

何度も同じ台詞を叫んで門番達をなじったが、良い反応はしてこない。
完全に無視された夫人は門前で暴れだした。

トランクを門扉に叩きつけ、荷が飛び出した。
それでも振り回すことを止めない、攻撃と見做したスペンサーの私兵は彼女を取り押さえた。

そして、速やかに憲兵が呼ばれ、夫人はドナドナされていった。
その後、二度と夫人が現れることはなくなった。

***

前科持ちとなった元ガバイカ夫人は、ただの平民女になったことを漸く知ることになる。
それは投獄されてしばらくしてのことだった。

街を守る憲兵隊と城の騎士団は情報共有しており、イーライという不届き者が城の地下牢に投獄され気が触れたという事実を知る。

家族であった女にもそれは知らされた。
母親は信じられないと泣き叫ぶが誰も相手にしない。
せめて同じ牢獄へ行きたいと嘆願したが「街の牢獄より悲惨な待遇」と聞かされると諦めた。

発狂するほどの劣悪さだと知って大人しくなったのだ。
愛する息子に対して、そんな程度の情けかと看守は呆れた。


老女が解放されたのは3年後の事だった。
白髪で歯も抜け落ち、貧民街の乞食のような有様で牢を出て行く。

犯罪に走らない程度の金子を渡されたが、パンを買うのも怖くて暫く空腹で過ごした。
彼女が辿り着いたのは下町の外れにある物置小屋だった、近くに小さな教会がありそこに祈りに通う姿がしばしば見られた。

なんと彼女は僅かに持っていた金を全て教会に寄付していた。
教会に併設していた孤児院で暮らすみなし子の少年に、息子イーライの姿を重ねたのか心を動かされたようだ。

痩せ細っていく彼女をみかねた神父が食事を出したが頑なに拒んだ。
「私はいいの、未来がある子供たちが食べたほうが良い」

彼女は雑草を摘み、味のないスープばかり飲んで暮らした。
数年後、栄養失調がたたり静かに永眠した。

哀れに思ったシスターが死に化粧を施す。
老女の顔に鮮やかな口紅が塗られた、それはかつて虐げた元嫁アリスの作った紅だった。
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