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その後
王子とアリス
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紆余曲折の末に私の短い結婚生活は閉じた。
辛酸を舐めさせられたけど、なんとか踏ん張った日々でしたわ。
湯水の如く金を使うガバイカ家の人々の尻ぬぐいは腹が立ったけど、折れずに生きれたのは王妃様と王子のお陰かもしれない。
もちろん、支援してくれた両親と兄の力添えがあればこそ。それから、一応協力的だった家令の働きも軽視できない。
怒涛の仮嫁の責務が終わった日、私は気が抜けて倒れ五日ほど熱が出た。
過労気味だったと医者に診断されて、周囲に怒られてしまったわ。そこは素直に謝り猛省したの。
暫くの間は安静だと言われ、渋々と寝室に籠った。心配した王子が離れず看病したがったわ。
けれど公務放棄は許されない、泣く泣くベッドから剥がされ王城へ戻った時はちょっと面倒だった。
「嬉しいけれど国の為に働いて貰わないと、それに過剰な栄養を摂らされたら困るわ」
ベッド脇に置いたデスクには山のような見舞い品。
全部王子からのプレゼント、喉が焼けそうなほど甘いヌガーなどがチラホラ……絶対太るヤーツ!
本当はすぐにでも仕事をしたかった、だって疲労以外は別段具合も悪くない。
二晩も熟睡したらかなり元気になったもの、回復したと抗議したけど親と侍女達が許してくれなかった。
「はーつまんない、暇ほど苦痛なものはないのに!」
仕方なく書き溜めていた記憶ノートをパラパラ捲る、あえて有益ではないものを抜粋して読み返す。
レシピなど見たら作りたくなってしまうから。
涙で滲んだらしい行をなぞった、遠い記憶の中で生きてた私の悲しい思い出だった。
前世で愛した人を失くしたものだった、結婚を意識した相手。
とても穏やかで優しい人だった、一生一緒と約束したのにその人は守ってくれなかった。
病に奪われた愛しい命はどうしようもなかった、思い出した日は胸の奥が痛くて嗚咽を漏らして泣いていたわ。
名前は思い出せないのに、面差しだけが脳裏に焼き付いていた。
「今世でも悲しい未来があったらどうしよう……」
再びズクリと切ない痛みが蘇えって目を閉じた。私の愛した人は転生したかしら、素敵な女性に出会って幸せになったかしら?
あぁ、せめて長生きしててね。
***
いつの間にか寝落ちしたのか、ノートを抱きしめたまま横になっていたみたい。
赤い夕陽がカーテン越しに燃えていた。
起きようとしたが手に重みを感じ動けない、どうしたのかしら。
「ん……起きたのかい?喉は渇いてないかな」
「……殿下」
投げだしていた方の手を王子が握っていたようだ。
それから、前髪が張り付いた私の頬を優しく撫でて整えてくれた。
「悪い夢でも見たのかな?涙の筋が出来てるよ」
「え?」
そういえば枕が冷たい、頭をずらすと薄っすら染みが出来ていた。
恥ずかしくて掛け布団を被りふて寝した。
「アリスー?うーん、せっかく仕事を片付けてやってきたのに私は寂しいよ」
少し切ない声色で王子が語りかける、なんだか狡い。
仕方なく顔を出して王子の様子を伺う、すると満面の笑みがそこにあった。
あれほど苦手意識があった美しい顔が当たり前に近くにある、とても安心して愛しい存在になっていた。
「殿下……聞きたい事があります、私を置いていかないと約束できますか?」
急な質問に彼は目を瞬かせたが、すぐに真剣な目をされた。
「泣いていた事と関係があるのかな?」
私がコクリと頷き肯定すると、王子は真っすぐ私の瞳を見て言った。
「人の命は測れない、でも敢えて約束しよう。この先なにがあろうと私はアリスだけを愛すると誓うよ。なんなら死神が鎌を向けたとしても跳ね除けてやるさキミより長生きしてみせるよ。だから、ずっと傍にいてくれないか?」
王子の大きな手が私の両頬を包んで、触れるだけの口づけをしてくれた。
なんて、優しい手。人の温もりに触れることはなんて素敵なのかしら。
「ありがとうディミアン様、私は幸せよ」
王子は再びキスをして、「やっと名を呼んでくれた」と微笑んだ。
辛酸を舐めさせられたけど、なんとか踏ん張った日々でしたわ。
湯水の如く金を使うガバイカ家の人々の尻ぬぐいは腹が立ったけど、折れずに生きれたのは王妃様と王子のお陰かもしれない。
もちろん、支援してくれた両親と兄の力添えがあればこそ。それから、一応協力的だった家令の働きも軽視できない。
怒涛の仮嫁の責務が終わった日、私は気が抜けて倒れ五日ほど熱が出た。
過労気味だったと医者に診断されて、周囲に怒られてしまったわ。そこは素直に謝り猛省したの。
暫くの間は安静だと言われ、渋々と寝室に籠った。心配した王子が離れず看病したがったわ。
けれど公務放棄は許されない、泣く泣くベッドから剥がされ王城へ戻った時はちょっと面倒だった。
「嬉しいけれど国の為に働いて貰わないと、それに過剰な栄養を摂らされたら困るわ」
ベッド脇に置いたデスクには山のような見舞い品。
全部王子からのプレゼント、喉が焼けそうなほど甘いヌガーなどがチラホラ……絶対太るヤーツ!
本当はすぐにでも仕事をしたかった、だって疲労以外は別段具合も悪くない。
二晩も熟睡したらかなり元気になったもの、回復したと抗議したけど親と侍女達が許してくれなかった。
「はーつまんない、暇ほど苦痛なものはないのに!」
仕方なく書き溜めていた記憶ノートをパラパラ捲る、あえて有益ではないものを抜粋して読み返す。
レシピなど見たら作りたくなってしまうから。
涙で滲んだらしい行をなぞった、遠い記憶の中で生きてた私の悲しい思い出だった。
前世で愛した人を失くしたものだった、結婚を意識した相手。
とても穏やかで優しい人だった、一生一緒と約束したのにその人は守ってくれなかった。
病に奪われた愛しい命はどうしようもなかった、思い出した日は胸の奥が痛くて嗚咽を漏らして泣いていたわ。
名前は思い出せないのに、面差しだけが脳裏に焼き付いていた。
「今世でも悲しい未来があったらどうしよう……」
再びズクリと切ない痛みが蘇えって目を閉じた。私の愛した人は転生したかしら、素敵な女性に出会って幸せになったかしら?
あぁ、せめて長生きしててね。
***
いつの間にか寝落ちしたのか、ノートを抱きしめたまま横になっていたみたい。
赤い夕陽がカーテン越しに燃えていた。
起きようとしたが手に重みを感じ動けない、どうしたのかしら。
「ん……起きたのかい?喉は渇いてないかな」
「……殿下」
投げだしていた方の手を王子が握っていたようだ。
それから、前髪が張り付いた私の頬を優しく撫でて整えてくれた。
「悪い夢でも見たのかな?涙の筋が出来てるよ」
「え?」
そういえば枕が冷たい、頭をずらすと薄っすら染みが出来ていた。
恥ずかしくて掛け布団を被りふて寝した。
「アリスー?うーん、せっかく仕事を片付けてやってきたのに私は寂しいよ」
少し切ない声色で王子が語りかける、なんだか狡い。
仕方なく顔を出して王子の様子を伺う、すると満面の笑みがそこにあった。
あれほど苦手意識があった美しい顔が当たり前に近くにある、とても安心して愛しい存在になっていた。
「殿下……聞きたい事があります、私を置いていかないと約束できますか?」
急な質問に彼は目を瞬かせたが、すぐに真剣な目をされた。
「泣いていた事と関係があるのかな?」
私がコクリと頷き肯定すると、王子は真っすぐ私の瞳を見て言った。
「人の命は測れない、でも敢えて約束しよう。この先なにがあろうと私はアリスだけを愛すると誓うよ。なんなら死神が鎌を向けたとしても跳ね除けてやるさキミより長生きしてみせるよ。だから、ずっと傍にいてくれないか?」
王子の大きな手が私の両頬を包んで、触れるだけの口づけをしてくれた。
なんて、優しい手。人の温もりに触れることはなんて素敵なのかしら。
「ありがとうディミアン様、私は幸せよ」
王子は再びキスをして、「やっと名を呼んでくれた」と微笑んだ。
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