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出奔篇
敗北した勇者の話
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人族の敗戦後に魔王城へ召喚命令が下った元勇者アキフミ・サトーは、疲弊した身体を引き摺って謁見に望んだ。
こんな負け犬に今更なんの用だろうかと頭を捻る、最終決戦でボロ負けしたあの日あの時、魔王は「赦す」と言ったはずだ。
「まさか無罪放免の撤回か!?お咎めなしで済んだはずではないのか!」
魔王の強さは尋常ではない、万全の態勢で挑んだ闘いは数秒で終わった。魔族と人族の戦争は人間側が一方的に仕掛けたものだった。
人族の国とは違い、魔国は豊かな自然と手つかずの鉱山があり宝の山だ。それに目を付けた諸国王達が結託し難癖をつけて国崩しを起こしたのだ。
異世界へ召喚され勇者として祭り上げられ、唆されて参戦して惨敗したアキフミはとんだ笑い者だ。
敗戦はしても功労者として騎士爵を賜り、貴族の末端の身分を享受して暮らしていた。
本来なら斬首されても文句が言えない立場なのだが、免れたのはすべて魔王の恩赦のお陰だった。
「……アキフミ・サトー参りました」
震える体を叱咤してなんとか名乗った。
「急に呼び出してすまなかった。グド、椅子を出してやれ」
「御意」
グドと呼ばれた蝙蝠羽の魔人が空間から黒曜石の椅子をさっと出した。
恐々とアキフミは腰を下ろして魔王と対峙した、切れ長の美しい瞳がアキフミを捕らえていた。
恐怖と緊張で喉が渇いて不快だと思へば、バドという魔人が銀盆に果実水を乗せて「お飲みください」と言う。
『思考でも読んでいるのか?』
美味しいはずの果実水は極度の緊張で味がしない、アキフミは精神が限界だと気を失いかけたがなんとか踏ん張る。
「畏怖するのは仕方ないが、もう少し楽にしてくれ」
「は、はい!すいません!ごめんなさい!」
「なんで謝る?」
ガチガチの元勇者アキフミは、恐ろしく美しい魔王が頭を傾ぐ仕草に若干だが親しみを覚えた。
「えと、あの……元の世界の魔王のイメージが強くてですね」
「ほお?お前の世界にも魔王はいたのか是非会ってみたいな」
見当違いの解釈をされてアキフミは大慌てで誤解を解く。
「おれ、いえ私の世界の魔王とは架空の存在です!おとぎ話やゲームなんかの……大六天魔王と名乗った武将もいましたが人間です、詳細は知りませんが……人の望みを叶える存在とか快楽を与え求めるとか神のような存在になりたかったのかと……はい」
「なるほど快楽を求める魔王か、ふふ面白い発想をするのだな」
なにかわからないが魔王は上機嫌の様子だ、アキフミは肩から力が抜けた。
「あのう魔王様、ひょっとして私の出身地にご興味が?」
「うむ、とても興味深い。この世界とは異質なのだろう?行ってみたい」
今度はアキフミが頭を傾げた、なにもかもをその手にした魔王が何故と思うのだ。
「あの、私の世界はつまんないですよ?魔法もないから不便だし、そりゃこの世界にはない物品は山のようにありますが、楽しく暮らすには大変です。社畜として朝から晩まで安月給でコキ使われて……」
アキフミの言葉はだんだん愚痴になっていったが、魔王は楽しそうにそれに聞き入っていた。
「……それでですね、アニメとゲームが連動したソシャゲが楽しくてこれがまたあざといんです。課金しないとレアキャラは集まらないしで、まぁ俺には彼女もいないしゲームだけが生きがいみたいな日々でしたねぇ」
いつの間にか緊張は消え失せて地が出てきてしまったアキフミは地球の日本という世界を語る。
魔王からしたらそれは未知で面白おかしい世界である。偏った情報だったが興味が尽きないと魔王は聞き入る。
「なんて面白そうな世界であろうか、オタク文化とやらが羨ましいぞ!」
「まさか魔王様がこんなの食いついてくださるとは!感激です!」
魔王はさまざまな映像が観られるという箱(テレビ)にいたく興味を抱いた。
「アキフミが薦めるドラマとアニメとやらがどうしても観たいぞ!ここでは作れないのか?」
「えっと……似たものは作れるかと思いますが番組を作る会社や放送、配信先がいませんと……ただの箱ですね」
作っても見られないと知った魔王は酷く落胆した。
「やっぱりこの世界はつまらん」
こんな負け犬に今更なんの用だろうかと頭を捻る、最終決戦でボロ負けしたあの日あの時、魔王は「赦す」と言ったはずだ。
「まさか無罪放免の撤回か!?お咎めなしで済んだはずではないのか!」
魔王の強さは尋常ではない、万全の態勢で挑んだ闘いは数秒で終わった。魔族と人族の戦争は人間側が一方的に仕掛けたものだった。
人族の国とは違い、魔国は豊かな自然と手つかずの鉱山があり宝の山だ。それに目を付けた諸国王達が結託し難癖をつけて国崩しを起こしたのだ。
異世界へ召喚され勇者として祭り上げられ、唆されて参戦して惨敗したアキフミはとんだ笑い者だ。
敗戦はしても功労者として騎士爵を賜り、貴族の末端の身分を享受して暮らしていた。
本来なら斬首されても文句が言えない立場なのだが、免れたのはすべて魔王の恩赦のお陰だった。
「……アキフミ・サトー参りました」
震える体を叱咤してなんとか名乗った。
「急に呼び出してすまなかった。グド、椅子を出してやれ」
「御意」
グドと呼ばれた蝙蝠羽の魔人が空間から黒曜石の椅子をさっと出した。
恐々とアキフミは腰を下ろして魔王と対峙した、切れ長の美しい瞳がアキフミを捕らえていた。
恐怖と緊張で喉が渇いて不快だと思へば、バドという魔人が銀盆に果実水を乗せて「お飲みください」と言う。
『思考でも読んでいるのか?』
美味しいはずの果実水は極度の緊張で味がしない、アキフミは精神が限界だと気を失いかけたがなんとか踏ん張る。
「畏怖するのは仕方ないが、もう少し楽にしてくれ」
「は、はい!すいません!ごめんなさい!」
「なんで謝る?」
ガチガチの元勇者アキフミは、恐ろしく美しい魔王が頭を傾ぐ仕草に若干だが親しみを覚えた。
「えと、あの……元の世界の魔王のイメージが強くてですね」
「ほお?お前の世界にも魔王はいたのか是非会ってみたいな」
見当違いの解釈をされてアキフミは大慌てで誤解を解く。
「おれ、いえ私の世界の魔王とは架空の存在です!おとぎ話やゲームなんかの……大六天魔王と名乗った武将もいましたが人間です、詳細は知りませんが……人の望みを叶える存在とか快楽を与え求めるとか神のような存在になりたかったのかと……はい」
「なるほど快楽を求める魔王か、ふふ面白い発想をするのだな」
なにかわからないが魔王は上機嫌の様子だ、アキフミは肩から力が抜けた。
「あのう魔王様、ひょっとして私の出身地にご興味が?」
「うむ、とても興味深い。この世界とは異質なのだろう?行ってみたい」
今度はアキフミが頭を傾げた、なにもかもをその手にした魔王が何故と思うのだ。
「あの、私の世界はつまんないですよ?魔法もないから不便だし、そりゃこの世界にはない物品は山のようにありますが、楽しく暮らすには大変です。社畜として朝から晩まで安月給でコキ使われて……」
アキフミの言葉はだんだん愚痴になっていったが、魔王は楽しそうにそれに聞き入っていた。
「……それでですね、アニメとゲームが連動したソシャゲが楽しくてこれがまたあざといんです。課金しないとレアキャラは集まらないしで、まぁ俺には彼女もいないしゲームだけが生きがいみたいな日々でしたねぇ」
いつの間にか緊張は消え失せて地が出てきてしまったアキフミは地球の日本という世界を語る。
魔王からしたらそれは未知で面白おかしい世界である。偏った情報だったが興味が尽きないと魔王は聞き入る。
「なんて面白そうな世界であろうか、オタク文化とやらが羨ましいぞ!」
「まさか魔王様がこんなの食いついてくださるとは!感激です!」
魔王はさまざまな映像が観られるという箱(テレビ)にいたく興味を抱いた。
「アキフミが薦めるドラマとアニメとやらがどうしても観たいぞ!ここでは作れないのか?」
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作っても見られないと知った魔王は酷く落胆した。
「やっぱりこの世界はつまらん」
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