4 / 9
4
「殿下と御目通りできない?何故でしょうか」
憂鬱そうな顔を隠して最後の定例茶会にやってきたレイシアは疑問符を頭に浮かべた。出来るものならば来たくない茶会だ、嬉しさに口が弧の字を描きそうになる。
「それが……王妃様のご指示でして体調が悪いとのことです」
王子専属の執事は申し訳なさそうに頭を垂れる、それを制して「問題ないわ」とレイシアは微笑み返す。
「それではご自愛くださいと託けをお願いね、ところで王妃様は?」
「は、はい、殿下につきっきりで看病なさっておいでです」
「そう、思ったより深刻そうね」
婚姻まで約ニ週間、体調が優れないとなれば延期も考えられる。重篤な容態ならば願ってもないとレイシアは思う。
「殿下には悪いけどこのまま……なんてね」
コソリとそんな事を囁くレイシアは自分の腹黒さに驚いていた、それほどにこの結婚について前向きになれないのだ。
止む無く帰路に就くことにしたそこに、もう一人の殿下がやってきた。「やぁ」と挨拶するが何もない廊下でスッ転げる。
「うわぁああ!アイタタ……いや失敗したなぁ」
名をエイルナーと言う、彼はいつも飄々としていてつかみどころがない人物だ。勉学は優等で研究心もある、彼はマヌケな部分を度々晒しているが演技ではないのかと噂された。
「エイルナー殿下、大丈夫ですか?書籍を落とされてますよ」
彼女はそれを拾って尻もちを着いている殿下のところへ小走りに駆け寄る。そして丸眼鏡がズレて鼻を擦りむいている彼の顔を見つめる。
「あらまぁ……殿下」
これまでは彼の容姿を気にしていなかったが意外と端正な顔立ちをしていた。どちらかと言えば王様に似ている。彼の顔は祖父に瓜二つなのだ。
「や、失敬した、驚かせてごめんよ」
「いいえ、それより鼻から血が出ていますわ。止血しましょう」
レイシアはそういうと治癒魔法を掛けた、簡単な魔法だったが王子はそれを酷く驚いて「初めての感覚だ」と感動する。
「治癒魔法は温かいものなんだね、知らなかったよ。ジンワリ痺れるような、それでいて柔らかい羽毛に包まれているようだ。城には治癒師がいないからね!感動したよ」
「大袈裟ですわ、まぁこれのせいで、いいえお陰で妃候補になれたのですが」
少し皮肉った言い方をするレイシアは悲し気に微笑む。
「ん、何か困りごとかい?その、なんと言うか。キミは楽しそうに見えない」
「え……」
婚姻を控えている婦女子の顔には、到底見えない物哀い表情を彼は感じ取った。
すると一筋の涙をレイシアは零してしまう。
あなたにおすすめの小説
私を欠陥品と呼ぶ執事長が鬱陶しいので、侯爵夫人として排除することにしました
菖蒲月(あやめづき)
ファンタジー
「欠陥品に払う敬意など無い」
結婚後もそう言って嫌がらせを続けるのは、侯爵家の執事長。
どうやら私は、幼少期の病が原因で、未だに“子を産めない欠陥品”扱いされているらしい。
……でも。
正式に侯爵夫人となった今、その態度は見過ごせませんわね。
証拠も揃ったことですし、そろそろ排除を始めましょうか。
静かに怒る有能侯爵夫人による、理性的ざまぁ短編。
________________________________
こちらの作品は「小説家になろう」にも投稿しています。
【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】
青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。
婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。
そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。
それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。
ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。
*別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。
*約2万字の短編です。
*完結しています。
*11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。
お母様と婚姻したければどうぞご自由に!
haru.
恋愛
私の婚約者は何かある度に、君のお母様だったら...という。
「君のお母様だったらもっと優雅にカーテシーをきめられる。」
「君のお母様だったらもっと私を立てて会話をする事が出来る。」
「君のお母様だったらそんな引きつった笑顔はしない。...見苦しい。」
会う度に何度も何度も繰り返し言われる言葉。
それも家族や友人の前でさえも...
家族からは申し訳なさそうに憐れまれ、友人からは自分の婚約者の方がマシだと同情された。
「何故私の婚約者は君なのだろう。君のお母様だったらどれ程良かっただろうか!」
吐き捨てるように言われた言葉。
そして平気な振りをして我慢していた私の心が崩壊した。
そこまで言うのなら婚約止めてあげるわよ。
そんなにお母様が良かったらお母様を口説いて婚姻でもなんでも好きにしたら!
[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。
【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。
大森 樹
恋愛
【短編】
公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。
「アメリア様、ご無事ですか!」
真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。
助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。
穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで……
あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。
★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。
華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。
王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。
王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。