完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言

音爽(ネソウ)

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「殿下と御目通りできない?何故でしょうか」
憂鬱そうな顔を隠して最後の定例茶会にやってきたレイシアは疑問符を頭に浮かべた。出来るものならば来たくない茶会だ、嬉しさに口が弧の字を描きそうになる。

「それが……王妃様のご指示でして体調が悪いとのことです」
王子専属の執事は申し訳なさそうに頭を垂れる、それを制して「問題ないわ」とレイシアは微笑み返す。

「それではご自愛くださいと託けをお願いね、ところで王妃様は?」
「は、はい、殿下につきっきりで看病なさっておいでです」
「そう、思ったより深刻そうね」

婚姻まで約ニ週間、体調が優れないとなれば延期も考えられる。重篤な容態ならば願ってもないとレイシアは思う。
「殿下には悪いけどこのまま……なんてね」
コソリとそんな事を囁くレイシアは自分の腹黒さに驚いていた、それほどにこの結婚について前向きになれないのだ。


止む無く帰路に就くことにしたそこに、もう一人の殿下がやってきた。「やぁ」と挨拶するが何もない廊下でスッ転げる。
「うわぁああ!アイタタ……いや失敗したなぁ」

名をエイルナーと言う、彼はいつも飄々としていてつかみどころがない人物だ。勉学は優等で研究心もある、彼はマヌケな部分を度々晒しているが演技ではないのかと噂された。

「エイルナー殿下、大丈夫ですか?書籍を落とされてますよ」
彼女はそれを拾って尻もちを着いている殿下のところへ小走りに駆け寄る。そして丸眼鏡がズレて鼻を擦りむいている彼の顔を見つめる。

「あらまぁ……殿下」
これまでは彼の容姿を気にしていなかったが意外と端正な顔立ちをしていた。どちらかと言えば王様に似ている。彼の顔は祖父に瓜二つなのだ。

「や、失敬した、驚かせてごめんよ」
「いいえ、それより鼻から血が出ていますわ。止血しましょう」
レイシアはそういうと治癒魔法を掛けた、簡単な魔法だったが王子はそれを酷く驚いて「初めての感覚だ」と感動する。

「治癒魔法は温かいものなんだね、知らなかったよ。ジンワリ痺れるような、それでいて柔らかい羽毛に包まれているようだ。城には治癒師がいないからね!感動したよ」
「大袈裟ですわ、まぁこれのせいで、いいえお陰で妃候補になれたのですが」
少し皮肉った言い方をするレイシアは悲し気に微笑む。

「ん、何か困りごとかい?その、なんと言うか。キミは楽しそうに見えない」
「え……」

婚姻を控えている婦女子の顔には、到底見えない物哀い表情を彼は感じ取った。
すると一筋の涙をレイシアは零してしまう。







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