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王女リリアと西の魔王
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その日のお城はどんちゃん騒ぎだった。
私の凱旋パーティーが開かれて、お城中の誰もが、満腹するまで飲み食いした。
そのパーティーの最中、一人のやせた老人が、私の席の前までやって来た。
剣術師範のイッサー先生だ。
ぎっくり腰のせいで旅に出られなかった、剣の達人で、私の師匠。
「ほっほっほ……まずはおめでとうと言っておこうかね、嬢ちゃん」
先生ったら、私のことを王女なのよりも先に弟子だと思ってるもんだから、『嬢ちゃん』って呼ぶのよね。
「ありがと、先生」
「これで嬢ちゃんも、一人前への第一歩ってところかな?」
「まあ、少しだけ、世の中を見ては来たわ」
「しかし、まだ足りんよ。少し物見遊山に出ただけで、世の中を分かったように思うのはとんでもないことよ」
「それは、そう思う」
私はうなずいた。
「また、近いうちに外に出るわ」
「で、今回、外に出た感想はどうだったかね?」
「私は思ったよりも強くて、思ったよりも弱かったわ」
「なかなか哲学的なことを言う」
「ま、上も下もいくらでもいるのが世の中ってこと」
「左様じゃな」
「あちこち旅して腕を磨いて、そのうち、腰がおかしくない時の先生からも一本取って上げるわよ」
「……楽しみにしてるよ。しかし」
「しかし?」
「嬢ちゃんは強い弱いよりも大事なもんに会ってきたとも、ジョージに聞いとるがね」
「……ノーコメント」
ジョージのやつ、また余計なこと言ったなあ。
「ほっほっほ」
イッサー先生は、そう笑うと、腰を抑えながら、自分の席に引っ込んだ。
イッサー先生が私の前からいなくなると、隣の席のパパが、
「リリア、そういえば、あの、ジョージが連れてる紫の人は誰なんだね?」
と、聞いてくる。
西の魔王は端っこの席で、ジョージに縄でつながれながら食事をしていた。
「西の魔王よ」
私はぶどうジュースを飲みながら答える。
「どういうこと、リリア?」
こう言ったのはママだ。
私は、冒険の内容と、西の魔王の正体を、パパとママに話した。
「それはまた……」
「なんという……」
二人は黙ってしまう。
「となれば、死罪にするべきでしょうね」
ママが言うので、私は慌てて言った。
「ちょっと待ってよ。私、命は助けるって約束したんだから」
「ふむ……どうだね、リリアの言う通りにしてやっては」
パパが言う。
大体、パパの方が、ママよりも私に甘いんだ。
「まあ……今回の件については、リリアは救国の勇者ではありますし……」
ママはそう迷ったあと、
「魔力を封じて、お城の雑用係としてなら、生かしてもいいでしょう」
と言った。
どうやらこれで、私も西の魔王のおじさんとの約束は果たせそうだった。
※
「あー、つかれた……」
パーティーが終わったあと、私は、お城の最上階にある自分の部屋のベッドに横になった。
なんだか、冒険よりもパーティーの方が、よっぽど疲れる感じがした。
「さてと、また明日から、平凡な毎日か」
それにすっごい不満があるわけじゃないけど、なんだか物足りない感じがする。
旅先での、色んなことを思い出した。
ピロノ村のトロール、シーサーペント、ドワーフのビラ、魔法の剣シンメリル、デュラハン、西の魔王、魔貴族のラムザ。
でも、一番思い出すのは――。
私は、ベランダに出て、空を見た。
星が輝いてる。
その輝いてる星の中を、一羽の、人が何人も乗れそうな巨大な隼が飛んできた。
隼はどんどんと私の部屋に近づいてきて、やがて、私のいるベランダに停まった。
「驚かせちゃいました?」
大隼の背から私に声をかけたのは――ホルスだった。
「あんた、こんないいもん持ってたの?」
「普段は、お師匠さまに使わせてもらえないんですけどね」
「今晩はいいってわけ?」
「ええ。大事な相手に会った記念とお祝いだって、言われました」
大事な相手。
そんなことを言われて顔を赤くしないほど、私も鈍くない。
なんだか胸がドキドキする。
でも、いつまでも黙ってたら、余計に変な感じになるから、
「……私も乗っていい?」
と、ホルスに聞いた。
「ええ、もちろん」
私は隼の上に飛び乗り、ホルスの体に手を回した。
その時、ドアが開き、
「姫さん、誰と話してるだ……」
と、ジョージの声がしたが、私とホルスの姿を見た途端に、
「……オラはなんも見なかっただよ、馬に蹴られて死にたくねえもん」
すぐに、ドアを閉めてしまった。
どうやら、察しのいいコボルドは、ベランダでなにが起きているか、すぐに分かったようだった。
「行きますよ」
「どーぞ」
私たちの乗った隼は、天高く舞い上がる。
夜風が頬に当たる。
下を見ると、私の住む王城が、角砂糖みたいな小ささになっている。
「ありがと、ホルス」
私はつぶやいた。
ホルスが、
「いえ。こちらこそ」
と、つぶやきかえしてくる。
「これからよね」
なにがこれからか、は分からない。
それでも、なにかが始まったような気がした。
「はい。これからです」
ホルスの声が返ってきた。
隼は、夜風を切って、空を舞い続ける――。
私の凱旋パーティーが開かれて、お城中の誰もが、満腹するまで飲み食いした。
そのパーティーの最中、一人のやせた老人が、私の席の前までやって来た。
剣術師範のイッサー先生だ。
ぎっくり腰のせいで旅に出られなかった、剣の達人で、私の師匠。
「ほっほっほ……まずはおめでとうと言っておこうかね、嬢ちゃん」
先生ったら、私のことを王女なのよりも先に弟子だと思ってるもんだから、『嬢ちゃん』って呼ぶのよね。
「ありがと、先生」
「これで嬢ちゃんも、一人前への第一歩ってところかな?」
「まあ、少しだけ、世の中を見ては来たわ」
「しかし、まだ足りんよ。少し物見遊山に出ただけで、世の中を分かったように思うのはとんでもないことよ」
「それは、そう思う」
私はうなずいた。
「また、近いうちに外に出るわ」
「で、今回、外に出た感想はどうだったかね?」
「私は思ったよりも強くて、思ったよりも弱かったわ」
「なかなか哲学的なことを言う」
「ま、上も下もいくらでもいるのが世の中ってこと」
「左様じゃな」
「あちこち旅して腕を磨いて、そのうち、腰がおかしくない時の先生からも一本取って上げるわよ」
「……楽しみにしてるよ。しかし」
「しかし?」
「嬢ちゃんは強い弱いよりも大事なもんに会ってきたとも、ジョージに聞いとるがね」
「……ノーコメント」
ジョージのやつ、また余計なこと言ったなあ。
「ほっほっほ」
イッサー先生は、そう笑うと、腰を抑えながら、自分の席に引っ込んだ。
イッサー先生が私の前からいなくなると、隣の席のパパが、
「リリア、そういえば、あの、ジョージが連れてる紫の人は誰なんだね?」
と、聞いてくる。
西の魔王は端っこの席で、ジョージに縄でつながれながら食事をしていた。
「西の魔王よ」
私はぶどうジュースを飲みながら答える。
「どういうこと、リリア?」
こう言ったのはママだ。
私は、冒険の内容と、西の魔王の正体を、パパとママに話した。
「それはまた……」
「なんという……」
二人は黙ってしまう。
「となれば、死罪にするべきでしょうね」
ママが言うので、私は慌てて言った。
「ちょっと待ってよ。私、命は助けるって約束したんだから」
「ふむ……どうだね、リリアの言う通りにしてやっては」
パパが言う。
大体、パパの方が、ママよりも私に甘いんだ。
「まあ……今回の件については、リリアは救国の勇者ではありますし……」
ママはそう迷ったあと、
「魔力を封じて、お城の雑用係としてなら、生かしてもいいでしょう」
と言った。
どうやらこれで、私も西の魔王のおじさんとの約束は果たせそうだった。
※
「あー、つかれた……」
パーティーが終わったあと、私は、お城の最上階にある自分の部屋のベッドに横になった。
なんだか、冒険よりもパーティーの方が、よっぽど疲れる感じがした。
「さてと、また明日から、平凡な毎日か」
それにすっごい不満があるわけじゃないけど、なんだか物足りない感じがする。
旅先での、色んなことを思い出した。
ピロノ村のトロール、シーサーペント、ドワーフのビラ、魔法の剣シンメリル、デュラハン、西の魔王、魔貴族のラムザ。
でも、一番思い出すのは――。
私は、ベランダに出て、空を見た。
星が輝いてる。
その輝いてる星の中を、一羽の、人が何人も乗れそうな巨大な隼が飛んできた。
隼はどんどんと私の部屋に近づいてきて、やがて、私のいるベランダに停まった。
「驚かせちゃいました?」
大隼の背から私に声をかけたのは――ホルスだった。
「あんた、こんないいもん持ってたの?」
「普段は、お師匠さまに使わせてもらえないんですけどね」
「今晩はいいってわけ?」
「ええ。大事な相手に会った記念とお祝いだって、言われました」
大事な相手。
そんなことを言われて顔を赤くしないほど、私も鈍くない。
なんだか胸がドキドキする。
でも、いつまでも黙ってたら、余計に変な感じになるから、
「……私も乗っていい?」
と、ホルスに聞いた。
「ええ、もちろん」
私は隼の上に飛び乗り、ホルスの体に手を回した。
その時、ドアが開き、
「姫さん、誰と話してるだ……」
と、ジョージの声がしたが、私とホルスの姿を見た途端に、
「……オラはなんも見なかっただよ、馬に蹴られて死にたくねえもん」
すぐに、ドアを閉めてしまった。
どうやら、察しのいいコボルドは、ベランダでなにが起きているか、すぐに分かったようだった。
「行きますよ」
「どーぞ」
私たちの乗った隼は、天高く舞い上がる。
夜風が頬に当たる。
下を見ると、私の住む王城が、角砂糖みたいな小ささになっている。
「ありがと、ホルス」
私はつぶやいた。
ホルスが、
「いえ。こちらこそ」
と、つぶやきかえしてくる。
「これからよね」
なにがこれからか、は分からない。
それでも、なにかが始まったような気がした。
「はい。これからです」
ホルスの声が返ってきた。
隼は、夜風を切って、空を舞い続ける――。
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